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平成17年度採択課題1件の研究終了にあたって

「マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション」
研究領域総括 矢川元基

 本研究領域は、世界最先端レベルの超高速・大容量計算機環境と精緻なモデル化・統合化によって、複数の現象が相互に影響しあうようなマルチスケール・マルチフィジックス現象の高精度且つ高分解能の解を求めることを研究の対象としてH17年度に発足した。具体的には、地球環境変動、異常気象、およびそれに起因する災害予測、人工物の安全性・健全性の評価、複雑な工業製品の設計・試作、ナノレベルの材料挙動、生体内たんぱく質構造と生体内薬物動態など、支配因子が未知あるいは不確定性を含む現象やスケールが極度に異なる現象等のモデル化の研究、そのようなモデルの統合数値解析手法の研究、モデルや入力データの妥当性・結果の信頼性の評価方法の研究などが含まれる。

 平成17年度に採択された8件の研究チームのうち、高田 俊和(理化学研究所) 「QM(MRSCI+DFT)/MM法による生体電子伝達メカニズムの理論的研究」研究チームは、3年間という短い研究期間で、生体中における電子伝達のメカニズムを分子レベルで解明するため、1)生体における電子伝達メカニズムを理論的に解明するための新規QM/MM理論の構築とその理論に基づいた高並列生体分子シミュレーションプログラムの開発、2)紅色光合成細菌の初期過程における電子伝達メカニズムの分子レベルでの解明を目的とした計算の実施、の2テーマを主たる目的として、研究開発を行った。その結果、1)はMRSCI法とDFT法を融合した新規QM/MM法の開発に成功しており、また、MR-DFT用DFT数値積分コードは計算速度の面でも世界最高性能のコードになっており、ほぼ予定通りの成果を得たと判断される。一方、2)については本格的な計算が研究期間内ではクロロフィル2量体のレベルに留まっており十分達成したとは言えないものの、色素分子全体を取り入れた予備計算からは興味深い結果が得られている。総合して見るとおおむね妥当な研究成果が得られていると思われる。
 開発されたQM/MM計算プログラムは、取り扱える計算規模と計算機能の両面で国際的に競争力があると思われる。また、本質的に大きな分極率を持ちダイナミックな特性のある溶媒分子が作るMM環境の影響を含めることができる本チームの方法は、QM/MM計算の高速化及び高精度化に新たな道筋を開く新手法となる可能性があることから今後に期待が持てる。光合成の動作原理に基づき人工的なデバイスで再現することはやや遠い道のりであるが、エネルギー問題を解決するための夢のある挑戦的な課題であろう。

 研究の終了にあたって、研究成果を研究終了報告書として取りまとめた。ご高覧頂き今度の研究・実用化の進展に向けてアドバイスを頂ければ幸いである。
 最後に課題の選定評価にとどまらず、シンポジウム、サイトビジット、領域会議等で適切なご助言ご指導を頂いた領域アドバイザーの石谷久先生、戎崎俊一先生、遠藤守信先生、岡本祐幸先生、佐藤哲也先生、寺倉清之先生、土居範久先生、萩原一郎先生、久田俊明先生、平田文男先生、藤谷徳之助先生、渡辺貞先生の諸先生方に深く感謝致します。