平成20年度 研究終了報告書 (平成15年度採択課題)
「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」研究領域
研究終了にあたって

 現行のコンピュータをベースとした情報処理技術は、20世紀の情報革命において飛躍的な進化を遂げ、社会の変革に多大な役割を果たしてきた。しかし、各種の技術的限界により、今までのペースでの性能・容量の向上は望めなくなってきている。一方で多様化、複雑化する情報処理形態に伴って、情報処理技術のさらなる高性能化に対する社会的ニーズは依然として高く、これらのニーズに応える技術の確立が喫緊の課題となっている。
 本研究領域は、高性能情報処理技術の中核をなすと考えられる全く新しい原理に基づく情報処理技術に関する研究、及び、従来のコンピュータシステムを新たな時代の要求に合わせて変革するための抜本的な要素技術を対象としている。
 平成15年度の募集に対し、大学、様々な研究機関等から、基礎から開発に近いものまで計31件の興味深い提案があった。これらの提案を7人の領域アドバイザと書類選考を行って、領域の主旨に沿った成果が期待できる提案の内、優れた研究提案13件を面接対象として選定し、面接選考では、新規性と妥当性、今後特に必要とされる分野、技術的インパクト等を重視して検討を行い、特に優れた研究提案を選定した。
 選考の結果、「自律連合型基盤システムの構築」(研究代表者:加藤和彦)、「ヒューマノイドのための実時間分散情報処理」(研究代表者:松井俊浩)、「ディペンダブルで高性能な先進ストレージシステム」(研究代表者:横田治夫)の計3件の提案を採択した。

 「自律連合型基盤システムの構築」は、情報処理の信頼性を高めるために、インターネットで結合された他のシステムに常時処理状態を送付しておき、障害が起きると処理の場所を自動的に移動して処理を継続するシステム手法の提案であり、従来の高信頼システムの構築法とは異なる新しいサステナブルシステム構成法の提案となっている。更に、仮想マシン構築法や、WWWプログラムの形式的な検証手法を与え、新しい分野を拓いた。「ヒューマノイドのための実時間分散情報処理」は、ロボットなどを構成する上でキーとなる多数のプロセッサからなる連携システムの構成法を研究したもので、実時間処理向きプロセッサアーキテクチャ、実時間処理向きOS構成、実時間解析技術、分散処理向き通信リンク手法などからなり、ロボット分野のみならず今後に求められる精緻な実時間処理の優れた基盤を構築した。この内、通信リンクはResponsive Linkとして既に国際標準になっている。「ディペンダブルで高性能な先進ストレージシステム」は、今後の高信頼で拡張性の高いストレージシステム構成法を研究対象とし、複数ノード間の同時実行制御、効率的なコミットプロトコル、負荷バランスと容量バランスの並存、ノード追加と削除、故障対応、回復などを自動的に高効率で実現する機能を持ち、管理コストを著しく削減可能な優れたストレージ構成法を与えた。更に、今後の拡大が予想されるXMLのメディア指向ストレージ分野における高精度な検索などを可能としており、先進性が高く実用性の高い方式提案となっている。

 これ等の研究成果は、国内外の権威ある学会誌に多数の論文として、また各種カンファレンスで多数口頭発表として発表されており、その価値が国際的にも客観的に高く評価されている。加藤チームの研究は、インターネット上の処理を簡便に高信頼化する手法として今後発展する可能性がある他、R木の動的変更効率を著しく向上させる技術など要素技術としても上記以外に有用なものが開発されている。松井チームは、実時間性を桁違いに高める低消費電力プロセッサやOS構成、更に高性能通信リンクを開発した。これらは、世界的に先進的な成果であって、今後の実時間処理に広く使われることが期待できる。横田チームは、企業との連携により、その優れたストレージ構成法を実際のシステムとして実利用環境に近い形で実装し実用性の高いことを示した。今後益々重要視されるストレージ分野に大きな寄与をしたものである。

 本報告書は、これらの研究成果をまとめたものであるが、関連する分野の研究者、技術者に有意義な情報を提供し、今後、これらの研究が更に発展して、情報社会へ具体的に大きなインパクトを与えることを期待したい。
 おわりに、これらの研究採択の諸課題について、5年間にわたり、随時適切なアドバイスをいただいたアドバイザーの方々(大蒔和仁、小関健、喜連川優、小柳光正、杉江衛、三浦謙一、村岡洋一の各氏)に感謝する。これらの方々のアドバイスにより、研究の方向付けが明確化され、インパクトの大きな研究に繋がったことを付しておきたい。そして、研究推進のために尽力された科学技術振興機構の方々、中でも、竹田克己技術参事をはじめとする「情報社会」研究事務所の方々に対して改めて感謝の意を表したい。これらの人々の強力な支援あってこその研究成果であると考える。
「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」研究総括
田中 英彦
 

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