戦略的創造研究推進事業 チーム型研究 CREST
「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」
平成19年度 研究終了報告書(平成14,15年度 採択研究課題)

巻頭言
研究領域「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」
平成14,15年度採択課題 研究終了にあたって

研究総括 梶村皓二

 今年度研究が終了する5課題は、平成14年度に採択された4課題(応募数30)と、平成15年度に採択された1課題(応募数8)である。

 光と物質の相互作用で誘起される非線形現象の巨大化を従来の長波長近似ではなくナノ空間構造での相互作用を量子力学的に扱うことで引き出しデバイス化につなげる研究(石原チーム)、固液界面を反応場とし分子性単結晶を無欠陥で成長させて有機デバイス性能を限界まで高める基礎固めの研究(板谷チーム)、量子計算基本素子の集積化を視野に入れた超伝導磁束量子ビットによる量子もつれの実現を目指した研究(高柳チーム)、カーボンナノチューブノ優れた物性をデバイス化(特に電子デバイス)する上で基盤となる要素技術開発と単一電荷計測や超高感度バイオセンシングへの応用展開研究(松本チーム)、強相関電子デバイスのデザインの高度化(特にスピントンネル機能)を可能にする界面解析技術開発による界面エンジニアリングの確立を目指した研究(赤穂チーム)によって得られた成果はすでに論文、特許、報道などで広く開示されている。

 それらを束ねた本報告書は、物理系のナノテクノロジーの広がりの一部分であり、進化の一断面とはいえこの研究期間に得られた知の集積量には驚かされる。物理を深く理解してこそのデバイス研究であるとの姿勢を堅持したことによる賜物であると考えている。

 CRESTでの基礎研究推進の成果を短期に評価することは困難である。とはいえ社会還元の観点からしても、成果の刈り取りを極大化する上でも、投入された資金がナノテクノロジー研究の拠点としての充実につながったことや、多くの研究人材が貴重な経験を積み成長していることが今後の研究活動に継続的に活かされる資産となるものと期待したい。

 ナノテクノロジーは持続可能な社会の進歩を生む重要な基盤技術である。地球規模の深刻な課題解決に科学技術への期待が高まる一方で研究推進上の分野間の壁に対する懸念もある。ナノテクノロジーこそ本来的に融合によってこそ大きな飛躍が期待できる分野である。平成13年度採択6課題と合わせて11課題で運営してきた領域活動が終了するに当たり、蓄積された成果が次に発展的に展開されていくための関係者を含む継続的な努力を切望する。

 今後とも強力に進められるナノテクノロジーの開拓プロジェクトのあり方や、蓄積される基礎研究成果が生み出す新しい方向性などについて思い巡らせる時に、この報告書が次世代を担う研究者や技術者に、一助として広く活用されることを願う。