平成19年度研究終了報告 (平成16年度採択課題)
「物質現象の解明と応用に資する新しい計測分析・基盤技術」研究領域
研究終了にあたって
研究総括 田中 通義

 本研究領域は、戦略目標「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」の達成に向けた研究領域の一つとしてH16年度に発足し、新材料・新デバイスの創出やナノスケールでの物性解明等に資する新たな計測・分析技術を対象として、16課題の研究開発を進めてきた。

 H16年度に採択された6件の研究チームのうち、下山雄平(室蘭工業大学 教授)「多量子遷移ESRによる巨大分子の構造解析」研究チームは、巨大分子の構造解析に用いる多量子遷移電子スピン共鳴法(ESR)によるナノメートルの距離測定法を確立すべく、二量子遷移(DQC)を観測可能にするパルスESR装置の開発を行った。具体的成果として、Xバンド(9GHz)との感度比較において、S/N比5.3倍を達成し、積算速度は2倍以上向上した。この装置を用いて、ニトロキシドバイラベルタンパク質について高感度でのDQCを観測し、2〜6nmの距離測定に成功した。5nmを超える距離測定に成功したことは画期的な成果である。 さらに、距離分布の解析システムと新規ESR共振器を開発し、複合タンパク質構造への応用研究を行った。

 パルスESRは軍需技術との関連が深くアメリカ、ロシアが先進国であり、日本のメーカーでの開発は困難を伴ってきた。今回の産学協同での研究開発により、大学における数少ないパルスESR技術をメーカーに移転できた。本研究で開発したKuバンド(17.5GHz)-ESR-DQC装置開発は完成の見通しが立ち、実用化が期待できる。今後は、多くのサンプルを測定し、巨大分子への応用研究あるいは先端機能性材料への展開を図り、開発装置の有用性を高めていくことが期待される。

 一方、当初計画ではKuバンド-ESR-DQC装置開発に加えて、Qバンド(35GHz)‐MQC装置の開発までが予定されていたが、H19年度に実施した中間評価において、残された研究期間でQバンド‐MQC装置開発まで着手し期待される研究成果を得ることは困難であると判断され、本課題はH19年9月末で研究終了となった。
 
目次へ戻る

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究