戦略的創造研究推進事業 チーム型研究 CREST
「生物の発生・分化・再生」
平成18年度 研究終了報告書(平成13年度 採択研究課題)

巻頭言
研究領域「生物の発生・分化・再生」
平成13年度採択課題 研究終了にあたって

研究総括 堀田凱樹

 本研究分野は、現在の生命科学においてもっとも急速な進歩を遂げつつあるもので、とくに分子生物学の技術が高等動物にも応用されるようになり、遺伝子機能の細胞生物学的研究が個体レベルで詳細に行われるようになった過去10年は、基礎的な研究の延長上に医療・診断・創薬など人類の福祉への応用の可能性が現実のものとなりつつある。またヒトゲノム完全解読の完了、それに前後して進んだ線虫・ショウジョウバエ・ホヤ・マウス・ゼブラフィッシュやメダカなどのモデル実験生物のゲノム解読により、これまでは不可能だった網羅的な研究も行われるようになっている。このような背景のもとにスタートした当研究領域では、予想されたようにきわめてレベルの高い応募が多数寄せられた。その中を見ると、(1)近未来に臨床応用や創薬に貢献し得るような臨床医学に密着した問題意識から出発したテーマ、(2)再生医療などの重要な問題に迫るために必要な基礎的研究、(3)モデル実験生物を用い、ゲノム研究や最新の分子生物学的技術発展を取り入れた発生生物学の最先端に迫る研究課題、などが多数あった。これらの分類は必ずしも固定したものではなく、モデル生物の研究ではあるが、その先にはヒトへの応用の可能性がみられる物も多いし、臨床の研究から基礎的な重要な発見が導かれることもある。別の言い方をすれば、この分野は基礎研究と応用研究の間が極めて近いと言える。したがって、「発生・分化・再生」というキーワードを掲げて本領域を構成したことは、採用された研究者の研究の発展とその結果が社会的な要求に貢献するというばかりではなく、大学等の研究機関では医学部・薬学部・理学部などの壁で交流が必ずしも十分でない研究者の相互批判と相互学習の機会を与えることともなり、領域の直接的な学術的および科学技術開発的な成果以上の無形の効果をも生むきっかけとなったと考えている。

 このような学問的背景と期待を背に発足した戦略的基礎研究推進事業CRESTの「生物の発生・分化・再生」領域の第二期募集にあたる平成13年度の研究公募には74件の基礎研究から臨床医学研究の幅広い応募申請があった。 アドバイザーによる書面審査を経て11件に関してインタヴューによる評価を行い、その中から4件の研究課題を選定した。選定の規準としては前年度と同様に、研究計画が優れていて世界的なレベルで見ても十分な競争力を持つこと、研究代表者の過去の実績から考えて研究目標達成について十分なフィージビリティがあること、計画された研究目標が達成されることが発生生物学、再生医学などの発展に貢献することが期待されること、および共同研究者の構成等が戦略的に組まれていること、などが特に考慮の対象となった。

 研究総括の方針は、アドバイザーによる評価を尊重しながらレベルの高い研究代表者を選抜し、面接や懇談を通じてこの領域の趣旨をよくご理解いただくことに努め、アドバイザーからの提言なども積極的に取り入れて参考にしていただき、その後は自由に研究を推進していただくというものであった。シンポジウムその他の機会には研究代表者間でも相互討論をしてもらい、アドバイザーからも積極的な提案を行った。それ以外は基本的には代表研究者の方針を尊重して自由に研究をしていただいた。毎年度の公開シンポジウムには、研究代表者ばかりではなく共同研究者や大学院生などの多数の参加をいただき、必要に応じて外国人研究者や外国在住で高度な研究展開を計っている日本人研究者などの招待講演も行った。また、メジャーなジャーナルに論文が出るような成果が上がったときは、積極的にプレスリリースを行い、広報に努めた。
 このような経緯を経て平成13年度採用の4名は順調に研究を発展させ、このたび5年間の研究を終了することとなった。以下はその研究終了報告書である。5年たってみると、いずれの研究代表者も初めに研究計画を申請した段階に比べて研究内容が量的だけではなく質的にも高度化して新しい段階に到達しているように見受けられることは総括としても望外の喜びである。成果の詳しい内容は個々の研究報告にゆだねるが、そのレベルの高さは多くのメジャーなジャーナルへの発表、国際会議への招待講演などにもあらわれている。SORSTの制度が廃止されたので、これらの研究のさらなる発展をJSTの支援のもとに企画する道がなくなってしまったことは大変に残念なことであるが、4人の研究者がCRESTの成果を踏まえて新たな競争的資金の獲得などを行っていただき、研究のさらなる発展をすすめていただくことを切に希望するものである。
  研究を終るにあたり、課題の選定、研究計画の高度化、シンポジウム等における建設的な批判と助言、評価などのすべての過程で献身的な貢献をしてくださったアドバイザーの岡田益吉、帯刀益夫、須田年生、竹市雅俊、長濱嘉孝、藤澤 肇、矢崎義雄の諸先生方に心から感謝いたします。