戦略的創造研究推進事業 チーム型研究 CREST
「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」
平成18年度 研究終了報告書(平成13年度 採択研究課題)

巻頭言
研究領域「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」
平成13年度採択課題 研究終了にあたって

研究総括 梶村皓二

 平成18年度研究が終了する6課題は、平成13年度に設定された「物理的手法を用いたナノデバイス等の創製」研究領域に応募した87件の提案から選びぬかれたものである。平成14年度、ナノテクノロジーの重点推進によって、独立行政法人科学技術振興機構内にナノテクノロジー分野別バーチャルラボが設立され、当該研究領域名を「新しい物理現象や動作原理に基づくナノデバイス・システムの創製」と改めて以降も、一貫して物理に基軸を置いたナノテクノロジーの広いスコープで進めてきた。

スピントロニクスの拡大による新たなユニーバーサルメモリの要素技術研究(猪俣チーム)、ナノクラスター材料のデバイス展開の基礎となるシーズ研究(岩佐チーム)、ボーズアインシュタイン凝縮を起こしうる高密度励起子状態によるダイヤモンド紫外線発光素子開発(大串チーム)、非線形分光技術と近接場光学技術を融合して光の回折限界を大幅に突破する分野開拓(河田チーム)、半導体量子ナノ構造と光制御技術による将来の多ビット素子化につながるデバイス素子研究(小森チーム)、量子相関を有するもつれあい光子をナノ加工に応用展開する要素技術の研究(三澤チーム)によって得られた成果はすでに論文、特許、学会、報道などで広く開示されている。

それらを集約した本報告書は、物理系のナノテクノロジーの広がりの一部分であり、進化の一断面とはいえ5年間で得られた知の集積量には驚くべきものがある。昨今の研究成果の社会還元要望が強まる中でも、物理を深く理解してこそのデバイス研究であるとの姿勢を堅持したことによる賜物であると考えている。

 CRESTでの基礎研究推進の成果を短期に評価することは困難である。とはいえ成果の刈り取りを極大化するために投下された資金が、ナノテクノロジー研究の拠点としての充実につながったことや、多くの研究人材が貴重な経験を積み成長していることも今後の研究活動に継続的に活かされ、社会還元の観点からも貴重な資産となると確信しているが、多くの面でのご批判を仰ぎたい。

ナノテクノロジーは持続可能な社会の進歩を生む重要な基盤技術である。 今後とも強力に推し進められるナノテクノロジーの開拓プロジェクトのあり方や、蓄積される基礎研究成果が生み出す新しい方向性などについて思い巡らせている。この報告書が次世代を担う研究者や技術者に広く活用されることを願う。