平成17年度 研究終了報告書 (平成12年度採択課題)
「生物の発生・分化・再生」研究領域
研究終了にあたって

 平成12年度の戦略的基礎研究推進事業CRESTの「生物の発生・分化・再生」領域の研究公募には116件の応募申請があり、基礎研究から臨床医学研究の幅広いアドバイザーによる書面審査とインタヴューを経て7件の研究課題が選定された。選定の規準としては、研究計画が優れていて世界的なレベルで見ても十分な競争力を持つこと、研究代表者の過去の実績から考えて十分なフィージビリティがあること、共同研究者の構成等が戦略的に組まれていること、などが特に考慮の対象となった。

 本研究分野は、現在の生命科学においてもっとも急速な進歩を遂げつつあるもので、とくに分子生物学の技術が高等動物にも応用されるようになり、遺伝子機能の細胞生物学的研究が個体レベルで詳細に行われるようになった過去10年は、基礎的な研究の延長上に医療・診断・創薬など人類の福祉への応用の可能性が現実のものとなりつつあることも配慮された。またヒトゲノム完全解読の完了、それに前後して進んだ線虫・ショウジョウバエ・ホヤ・マウス・ゼブラフィッシュやメダカなどのモデル実験生物のゲノム解読により、これまでは不可能だった網羅的な研究も行われるようになっている。このような背景のもとにスタートした当研究領域では、予想されたようにきわめてレベルの高い応募が多数寄せられた。その中を見ると、(1)近未来に臨床応用や創薬に貢献し得るような臨床医学に密着した問題意識から出発したテーマ、(2)再生医療などの重要な問題に迫るために必要な基礎的研究、(3)モデル実験生物を用いた発生生物学の最先端に迫る研究課題、などが多数あった。これらの分類は必ずしも固定したものではなく、モデル生物の研究ではあるが、その先にはヒトへの応用の可能性がみられるものも多いし、臨床の研究から基礎的な重要な発見が導かれることもある。実際、この分野は基礎研究と応用研究の間が極めて近いと言える。したがって、「発生・分化・再生」というキーワードを掲げて本領域を構成したことは、大学等の研究機関では医学部・薬学部・理学部などの壁で交流が必ずしも十分でない研究者の相互批判と相互学習の機会を与えることともなり、領域の直接的な学術的および科学技術開発的な成果以上の無形の効果をも生むきっかけとなったと考えている。

 研究総括の方針は、レベルの高い研究代表者を選抜し、この領域の趣旨をよくご理解いただくことに努め、その後は自由に研究を推進していただくというものであった。採用決定者とアドバイザーには研究開始前に再度集まっていただいて「懇談会」を行い、研究の進め方についてさらに具体的な提案をご発表いただき、研究代表者間でも相互討論をしてもらい、アドバイザーからも積極的な提案を行った。それをもとに研究計画の修正を行い、それにより研究の方向性を確定した。その後は基本的には研究代表者におまかせして自由に研究をしていただいた。毎年度公開シンポジウムを開催し、必要に応じて外国人研究者の招待も行った。口頭発表の他に多数のポスターセッションを行い、各研究代表者が組織した共同研究者やポストドクの活動状況が明確になるようにした。また、メジャーなジャーナルに論文が出るような成果が上がったときは、積極的にプレスリリースを行い、広報に努めた。

 以上のような経緯を経て、平成12年度採用の7名は順調に研究を発展させ、このたび5年間の研究を終了することとなった。以下はその研究終了報告書である。5年たってみると、いずれの研究代表者も初めに研究計画を申請した段階に比べて研究内容が量的だけではなく質的にも高度化して新しい段階に到達しているように見受けられることは総括としても望外の喜びである。成果の詳しい内容は個々の研究報告にゆだねるが、そのレベルの高さは多くのメジャーなジャーナルへの発表、国際会議への招待講演などにもあらわれている。幸いこの中から3課題がSORSTに選ばれてJSTの支援のもとに研究を続けることが出来るようになったことも嬉しいニュースであった。

 研究を終るにあたり、課題の選定、研究計画の高度化、シンポジウム等における建設的な批判と助言、評価などのすべての過程で献身的な貢献をしてくださったアドバイザーの先生方(岡田益吉、帯刀益夫、佐藤矩行、須田年生、竹市雅俊、長濱嘉孝、藤澤 肇、矢崎義雄の各博士)に心から感謝いたします。

「生物の発生・分化・再生」研究総括
堀田 凱樹

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究