平成17年度 研究終了報告書 (平成12年度採択課題)
「ゲノムの構造と機能」研究領域
研究終了にあたって

  戦略的創造研究推進事業(CREST)の平成12年度発足の「ゲノムの構造と機能」は、今回第3回採択の4チームの研究が終了した。

  本課題「ゲノムの構造と機能」は、ある生物のゲノムの解読(全塩基配列)の決定とは視点が異なり、ゲノムの構造をその基礎に据えながら、ゲノムの構造と機能との関係を追求するものである。そのような観点から公募を行い、66件の公募者からアドバイザーの意見を参考に、書類選考、ヒアリングを経て、合計4課題を採択したものである。 現在、ヒトゲノムを始め、既に500種近い生物のゲノムの解読は完了しており、主要生物のゲノムの解読はコムギ・トウモロコシなどゲノムサイズの極めて大きいものを除き、ほぼ完成されている。今後は個々の生物種内での微妙な塩基配列の違いと生物現象との関係をさぐる、いわゆるcomparative genomicsやepigenomicsなどが主要テーマとなると思われる。

  武田グループの課題は「高等真核細胞で標的組換えの効率を上昇させる方法の開発」である。ニワトリBリンパ球細胞株(DT40)を用いて相同組換えに関与する遺伝子の機能解析、標的組換えに関する未知分子の同定、細胞の本来もつ標的組換え能力を増大させる方法の開発などを中心テーマにして、研究を行った。特に組換えにおけるRad51遺伝子の役割を明確にし、更にRad51類似遺伝子群の欠損株を用いた実験により、一連の組換え遺伝子群の組換えにおける役割、分担を明らかにした。また、従来の数倍の組換え能をもたらす条件を見出した。これらの研究はニワトリDT40細胞において行われたが、ヒトなど他の高等真核細胞でも効率よく標的組換えをおこなう為の基礎的知見を提供すると思われる。

  新川グループの課題は「染色体転座・微細欠失からの疾病遺伝子の単離と解析」である。先天異常症、特に先天奇形症候群の原因遺伝子を同定することを主テーマとしてかかげ、研究を行ってきた。まず、SOTOS症候群(脳性巨人症)と鏡像多指趾症の原因遺伝子を同定したが、ひきつづき、肢中部異常形成症の原因遺伝子を同定した。更に先に同定したSOTOS症候群の分子病理を明らかにする一方、2型糖尿病、内臓逆位、Marfan症候群2型などの原因または候補遺伝子を同定し、それを基にこれら疾患の発症メカニズムの解析を行った。またヒト耳垢型遺伝子の同定と機能解析を行った。以上のように、新川グループは新しい方法論を駆使して、従来同定困難であった多くの先天奇形症候群の原因遺伝子を同定し、これら疾患の発症メカニズムを明らかにした。

  鍋島グループの課題は、「Klothoマウスをモデルとしたゲノム機能の体系的研究」である。先に確立した老化マウス(Klothoマウス)を用いて老化現象の分子メカニズムの追求を行った。Klothoマウスはヒトなど哺乳動物の老化に伴う諸現象を示す老化マウスとして見出されたが、その原因遺伝子(Klotho)は膜タンパクで細胞外ドメインはβ−ガラクトシダーゼ(type1)と相同性をもっている。Klothoはこのタンパク質の活性中心のグルタミン酸に置換があるが、この遺伝子は正常状態では細胞外カルシウム濃度の制御に関わっている組織で発現していることや、Klothoが活性型ビタミンD合成の制御に関わっていることも明らかになった。鍋島グループのKlothoマウスの解析によって老化の原因が解明されたとは言えないが、代謝調節、特にカルシウム代謝が老化と密接に関係しているという知見を得たことはきわめて意義深い。

  八木グループの課題は「クラスター型カドヘリンのゲノム構造・機能の解析」である。特に脳神経系におけるクラスター型カドヘリンに注目し、脳機能との関係を明らかにすることを中心課題にすえた。より具体的には神経細胞の分化過程での新たなゲノム情報変換機構の可能性、単一神経細胞レベルでの多様化機構とCNR/プロトカドヘリン発現制御との関連性、CNR/プロトカドヘリンの脳の形成と機能制御におけるゲノム機能、脊椎動物における管状神経系、脳の進化におけるCNR/プロトカドヘリンのゲノム構造の進化、CNR/プロトカドヘリンのゲノム構造の分子進化、多様化の方向性の研究などである。これらの研究課題の全ては未だ完成していないが、複雑かつ多様なヒトの脳機能を明らかにする上での手掛かりになることが期待される。

  これらの4課題の成果は一流の国際誌に既にその成果が報告されており、多くの特許の出願もなされている。また、これら4課題のうち1課題は「戦略的創造研究推進事業・発展研究課題」として引き続き研究がサポートされることに決定した。本課題の成果は、本年2月2日の最終シンポジウムで公表され、更に2月3日には、本プロジェクトのアドバイザーの前で、より専門的な成果、将来の展望などについて報告が行われ、活発な議論がなされた。終わりに、これら平成12年度研究採択の諸課題について、5年間にわたり、随時適切なアドバイスをいただいたアドバイザーの方々、研究の推進のために尽力された科学技術振興機構本部の方々、実際の事務を扱った「ゲノムの構造と機能」研究事務所の方々に対して改めて感謝の意を表したい。       
「ゲノムの構造と機能」研究総括
大石 道夫

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究