平成17年度 研究終了報告書 (平成12年度採択課題)
「電子・光子等の機能制御」研究領域
研究終了にあたって

  戦略的基礎研究推進事業(現戦略的創造研究推進事業)の中の一研究領域として「電子・光子等の機能制御」は平成10年度に発足し、平成12年度に採択された4研究課題が平成17年度を以って所期の成果を挙げ、此れを以って本研究領域のすべての研究チームが成功裡に研究を終了することができたことは研究総括としても大いなる喜びとするところであり、優れた研究成果を挙げられた研究代表者、共同研究者各位に対し敬意を表する次第である。

  本研究領域では電子や光子等の静的、動的特性、特に量子力学的な特性を制御することにより、新しい機能を発現し得る可能性を探索する研究を行ってきており、それらを活用して種々の電子的、オプトエレクトロニクス的、スピントロニクス的機能を発揮するデバイスの研究を行い、ナノサイエンス、ナノテクノロジー研究としても高い国際的評価を受けて来ている。
  平成12年度の研究課題公募に対しては63件にのぼる多数の応募があり、当該研究課題に近い専門分野の研究者によるピアレヴューも経て、研究総括ならびに7人の領域アドバイザーにより下記の4研究課題を採択した。

  即ち「固体中へのスピン注入による新機能創製」(研究代表者:鈴木義茂)、「量子暗号の実用化を可能にする光子状態制御技術」(研究代表者:中村和夫)、「フォトニック結晶による究極の光制御と新機能デバイス」(研究代表者:野田進)、「強相関電子系ペロブスカイト遷移金属酸化物による光エレクトロニクス」(研究代表者:花村榮一)は電子・光子等の新機能に関する物理学的研究から電子・光子等の新規な機能に着目した材料、デバイス、更に量子力学的効果を利用した情報処理システムへの展開を目標とする研究等、研究の目的、対象、方法は多彩であった。 

  研究成果の詳細は各研究チームより提出された終了報告書に記載されている如くであるが、「固体中へのスピン注入による新機能創製」では電子の有する電荷とスピンの両方の性質を利用したデバイスを考案する上での基礎としてスピン偏極電流の固体内への注入に関する研究を行い、トンネル磁気抵抗効果におけるスピンに依存した電子の干渉効果、スピン注入による磁化反転、スピン注入トルクを用いた高速磁化反転、磁気トンネル接合におけるスピントルクダイオード効果など多くの興味ある物理現象を発見し、デバイスへの応用の可能性が示された。「量子暗号の実用化を可能にする光子状態制御技術」に於いては特に相関フォトン源、量子もつれ合い状態にあるフォトンを利用した量子中継器やフォトン検出器の研究等を行い遠距離の量子中継を可能にするための要素技術の研究において優れた研究成果が挙げられた。「フォトニック結晶による究極の光制御と新機能デバイス」の研究においては2次元及び3次元フォトニック結晶作製技術の確立、フォトニック結晶の特性を利用したフォトンの自然放出の抑制、フォトニック結晶への人為的欠陥導入によるフォトンの捕獲や放出、フォトニック結晶中へのヘテロ構造の導入による分波機能の発現、100万にも及ぶ超高Q値ナノキャビティの実現等世界の学会をリードする研究成果が発表された。「強相関電子系ペロブスカイト遷移金属酸化物による光エレクトロニクス」の研究においては従来高温超伝導材料として注目されてきたが、光学結晶としては注目されていなかったペロブスカイト構造の酸化物結晶に於いて非常に大きな光学的非線形性、特異なラマン散乱特性など多くの興味ある現象を発見し、またn型、p型超伝導体で絶縁層を挟むnS-I-pS構造により超放射を得ようとする意欲的な研究が行なわれた。

  これ等の研究成果は国内外の権威ある学会誌や研究発表会に多数の論文、口頭発表されて、その価値が国際的にも客観的に高く評価されているものである。
  就中、鈴木チームは総務省が進める戦略的情報通信研究開発推進制度に於いて「スピン注入トルクを用いた超高速非線形素子の開発」として、野田チームは戦略的創造研究推進事業において「フォトニック結晶を用いた究極的な光の発生技術の開発」として引き続き研究費の支援を受けて発展していかれることになったことは大変喜ばしいところである。
  本報告書が斯界の研究者、技術者等に有意義な情報を提供するものであることを期待する。
「電子・光子等の機能制御」研究総括
菅野 卓雄

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究