平成16年度 研究終了報告書 (平成11年度採択課題)
「脳を創る」研究領域
研究終了にあたって

 これからの脳科学は、生命科学と情報科学技術の融合の上に成立する学際的な分野に広がりを見せている。このためには、理論的なアプローチにより脳の仕組みを理解するとともに、これを新しい情報処理の工学技術に結びつける研究が重要である。「脳を創る」領域は、こうした要請に応えるべく設定された。

 戦略基礎研究「脳を創る」領域は平成9年度に公募を開始し、最後の募集に当たる平成11年度にはここに報告する3研究課題が採択された。こうして選定された3課題は、本報告書に見るように、脳のシステム的動作を手がかりに、現代計測技術と情報処理技術の粋を尽くして、目と手に関して人の能力を超える認識行動システムを作り上げるもの、学習システムの学習とも言うべき脳の高次の階層構造とこれを情動と結び付ける、階層的な情報構造を生理学、強化学習、ロボットと結びつけて研究するもの、さらに、海馬の時間情報処理を手がかりにこれを大脳皮質に広げて、状況と文脈に依存する知的動作の発現に迫る研究とからなる。これらは、いずれも広い学問領域を覆い学際的な多様な方法を駆使する野心的なものであり、研究総括およびアドバイザーも大きな期待を抱くとともに、どこまで研究が進むか危惧を抱いたのも事実であった。

 幸いなことに、これらの研究はいずれも当初の期待を上回る成果を挙げたといっていいだろう。新しい方法を創出して研究に突破口を開いたのみならず、国際学術誌での多くの論文発表、数多くの特許出願、さらに報道で広く紹介されたものが多く、また実用化の努力が進んでいるものもある。これは当該研究者の発想の優れていたこととたゆまぬ努力の結果であるが、また「脳を創る」という新しい分野の豊穣さを示すものでもある。

 本報告書がこれからの脳研究の新しい可能性を示すものとして活用されることを期待したい。
「脳を創る」研究総括
甘利 俊一
平成17年2月

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究