平成16年度 研究終了報告書 (平成11年度採択課題)
「内分泌かく乱物質」研究領域
研究終了にあたって

 研究領域「内分泌かく乱物質」は、所謂「内分泌かく乱物質問題」が大きな社会的関心を呼んでいた平成10年度に補正予算で急遽発足した事もあって、他の研究領域とは若干性格を異にしている様に思われます。それは、CREST本来の役割である基礎研究の推進に加えて、可能な限り早期に問題解決への手掛かりを提供する事を求められているなど、「社会的貢献」をより強く期待されている事にある、と考えております。また、他の研究領域の様に、単に特定の学問分野で深く掘り下げた先端的な基礎研究を推進するのでは無く、野生生物への影響からヒトへの影響、生殖機能への影響から高次精神活動への影響といった、極めて幅広い学問分野をカバーしつつ、先端的な研究を推進するとともに、その結果を総合的に判断しなければならないと言う事にも現れています。

 「内分泌かく乱物質問題」の本質的な理解と解決を目指した研究、具体的には、「ヒトや野生生物を対象とした内分泌系への作用メカニズムの解明」、これを発端とする「生殖、神経/行動、発達、免疫等への影響のメカニズム解明」、「ヒト及び生態系に対する個別、さらには複数の内分泌かく乱物質に関する量と影響、量と反応の関係の評価」、それらをもとにした「対策技術」に関する研究を対象として研究提案を公募しました。平成10年度は、分析法確立、作用機構解明、母体を経由した次世代への影響といった観点を主眼として選考・採択しましたので、残された大きな課題である、野性生物への影響把握、雄性生殖機能への影響、脳神経系発達への影響といった観点を主眼に選考・採択する事としました。

 平成11年度は84件の応募課題の中から、アドバイザーの方々のご協力を得て、「雄性生殖機能への影響」、「野生生物への影響」、「脳神経系への影響」「作用機構解明」に焦点を当て、5件の研究課題を採択しました。平成11年11月から平成16年10月までの5年間の研究成果は、各研究課題によって若干のバラツキはありますが、基礎研究及び社会的貢献の両面でほぼ満足のいくものであったと判断しております。前者では減数分裂や発癌との関連性といった新しい視点の導入、生態系への毒性影響を遺伝子発現の観点から解析する新しい研究分野であるEcotoxicogenomicsの確立、分子・細胞・個体レベルでの脳神経系関連研究手法の開発、等々を、後者では精子機能解析機器・手法の開発、多種多様な生物種を含む生態系への影響に関する多数の知見、子宮内膜症診断への糸口、環境行政(国内・国際)への貢献と一般社会に向けた情報発信、等々を挙げる事が出来ます。詳細な研究内容と成果につきましては、個々の報告書をご覧頂きたいと思いますが、各研究チームは各々の研究分野で、「内分泌かく乱物質問題」を対象とする国内外の研究をリードして来たと言っても過言では無いと思います。極めて幅広い学問分野を視野に入れなくてはならないこともあり、各研究チームが自発的に他のチームとの共同研究を実施したり、お互いに刺激しあって研究を進めて来たことが短期間で大きな成果を挙げる上で大きく寄与したものと思います。

 5年間の研究期間は終了しましたが、また一時期と比べ社会的関心が薄まって来てはいますが、「内分泌かく乱物質問題」に係る諸事象の本態が理解・解決されたと言う訳では無く、今後さらなる研究の蓄積が必要であります。本報告書で述べられている諸成果を基に、さらなる発展を期待したいと思います。

 当研究領域のアドバイザーの先生方には、研究課題の採択を始め、中間及び事後評価や領域シンポジウム等でご尽力と有益なご助言を賜りました。本領域がその使命の一端を果たす事が出来ましたことは、一重に先生方のお陰と深く感謝し、ここに、井上達、井村伸正、加藤順子、紫芝良昌、松下秀鶴、安野正之の諸先生方に厚く御礼申し上げます。     
「内分泌かく乱物質」研究総括
鈴木 継美

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究