平成16年度 研究終了報告書 (平成11年度採択課題)
「ゲノムの構造と機能」研究領域
研究終了にあたって

 戦略的創造研究推進事業(CREST)の平成11年度発足の「ゲノムの構造と機能」は、今回第2回採択の5チームの研究が終了した。

 現在、ヒトゲノムを始め、既に500種近い生物ゲノムの解読は完了しているが、基礎或いは応用研究にとって、重要な生物のゲノムの解読は、ほぼ終了か終了に近い段階にある。本課題「ゲノムの構造と機能」は、ある生物のゲノムの解読(全塩基配列)の決定とは視点が異なり、ゲノムの構造をその基礎に据えながら、ゲノムの構造と機能との関係を追求するものである。そのような観点から公募を行い、68件の公募者からアドバイザーの意見を参考に、書類選考、ヒアリングを経て、合計5課題を採択したものである。

 馬場グループの課題は「ナノチップテクノロジーの創製とゲノム解析への応用」である。近来、ナノテクノロジーが様々な研究分野において注目されているが、そのうち最も密接に関係すると思われるのが、バイオサイエンスの分野である。馬場グループは、様々なナノテクノロジーのバイオテクノロジーへの導入を図り、特にバイオテクノロジーの中心技術に応用可能なナノ微細加工技術を開発し、PCR、LAMP、タンパク質無細胞合成系のチップ化を完成し、DNA解析、タンパク質解析などを、秒単位で実現できる手法を開発した。又、一分子ゲノムの解析技術開発をするために、一分子DNAマニピュレーション技術を確立した。

 田矢グループの課題は「p53によるゲノム防御機構」である。高等生物のゲノムの構造を保つ上で重要な役割をするp53の生物的役割を、p53の全リン酸化部位に特異的な抗体を独自の方法で作製し、それを用いてDNAが障害を受けた際にp53を誘導、活性化させるシグナル伝達のメカニズムや、p53がアポトーシスか、G1停止のどちらかを選択するメカニズムの解明に重要な貢献をした。更に、RBタンパク質の作用における、タンパク質のリン酸化の役割についての研究も行った。

 平岡グループの課題は「ゲノム安定保持を保証する細胞核構造の解明」である。平岡グループは、分裂酵母細胞及び動物培養細胞を用い、セントロメア、テロメア、ヘテロクロマチン領域などのダイナミックな構造変化を解析した。解析手段として、蛍光顕微鏡によるイメージングと分子生物学の手法を併用した。そのため、蛍光タンパク質のライブラリーなど、ゲノムワイドの生物資源の作製を行い、それをもとに蛍光顕微鏡による細胞イメージング技術の開発を行った。

 花岡グループの課題は「ゲノム情報維持の分子メカニズム」である。ゲノムDNA修復のうち、ヌクレオチド除去修復(NER)は、様々なゲノム損傷を修復するための重要な機構である。花岡グループはこのNERに関与する遺伝子、それがコードするタンパク質の機能解析を行い、NERの素課程を試験管内で再構成できる系を開発し、NERの2つのサブ経路のうちのひとつに関与しているタンパク質複合体の同定に成功し、この研究をもとにこの経路をほぼ明らかにした。このほかにも花岡グループは、既に彼らが発見したDNA修復に関するDNAポリメラーゼの役割、色素性乾皮症に関わる遺伝子の解析などDNA修復に関わる機構について重要な貢献を行った。

 吉田グループの課題は「核内因子の局在と修飾に関する化学遺伝学的研究」である。吉田グループは既に、細胞内におけるタンパク質の核外輸送や、ヒストン脱アセチル化酵素に関する阻害剤を発見してきたが、それらを駆使し、更に新しいバイオプローブや抗体の作製を行い、核外移行シグナルをもつタンパク質、アセチル化タンパク質などの細胞内局在、機能の総合的解析を行った。又、これらの核外輸送されるタンパク質やアセチル化されるタンパク質の網羅的解析を目指し、分裂酵母、ゲノム全ORFのクローン化を試み、ほぼこれを完成させ、タンパク質局在データベースを作製した。吉田グループは更に動物細胞においても、アセチル化、メチル化などの化学修飾を受ける修飾タンパク質の網羅的解析を行った。

 これらの5課題の成果は、一流の国際誌に既にその成果が報告されており、多くの特許の出願もなされている。更にその成果は、本年1月13日の最終シンポジウムで公表され、更に1月14日には、本プロジェクトのアドバイザーの前で、より専門的な成果、将来の展望などについて報告を行い、多くの活発な議論がなされた。これら5課題のうち2課題は「戦略的創造研究推進事業・発展研究課題」として引き続き研究がサポートされることに決定した。これら平成11年度採択の諸課題については、5年間にわたり、随時適切なアドバイスをいただいたアドバイザーの方々、研究の推進のために尽力された科学技術振興機構本部の方々、実際の事務を扱った「ゲノムの構造と機能」研究事務所の方々の並々ならぬ協力と支援があったことをここに付け加え、改めて感謝の意を表したい。
「ゲノムの構造と機能」研究総括
 大石 道夫

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究