平成16年度 研究終了報告書 (平成11年度採択課題)
「電子・光子等の機能制御」研究領域
研究終了にあたって

 戦略的基礎研究推進事業(現戦略的創造研究推進事業)の中の一研究領域として「電子・光子等の機能制御」は平成10年度に発足し、平成11年度に採択された5研究課題が平成16年度を以って所期の成果を挙げ成功裡に研究を終了することができたことは研究総括としても大いなる喜びとするところであり、優れた研究成果を挙げられた研究代表者、共同研究者各位に対し敬意を表する次第である。
 
 本研究領域では電子や光子等の静的、動的特性を制御することにより、新しい機能を発現し得る可能性を探索する研究を行ってきており、それらを活用した量子情報処理システムの構成のためのデバイスの研究を行い、ナノサイエンス、ナノテクノロジー研究としても高い国際的評価を受けて来ている。
 平成11年度の研究課題公募に対しては79件にのぼる多数の応募があり、当該研究課題に近い専門分野の研究者によるピアレヴューも経て、研究総括ならびに7人の領域アドバイザーにより下記の5研究課題を選択した。

 即ち「ネオシリコン創製に向けた構造制御と機能探索」(研究代表者:小田俊理)、「核スピンネットワーク量子コンピュータ」(研究代表者:北川勝浩)、「人工光物性に基づく新しい光子制御デバイス」(研究代表者:中野義昭)、「ナノサイズ構造制御金属・半金属材料の超高速光機能」(研究代表者:中村新男)、「光・電子波束制御エンジニアリング」(研究代表者:覧具博義)は電子・光子等の新機能に関する物理学的研究から電子・光子等の新規な機能に着目した材料、デバイス、更に量子力学的効果を利用した情報処理システムへの展開を目標とする研究等、研究の目的、対象、方法は多彩であった。

 研究成果の詳細は各研究チームより提出された終了報告書に記載されている如くであるが、「ネオシリコン創製に向けた構造制御と機能探索」の研究では、粒径数nmのナノ結晶シリコン量子ドットを、間隔1〜2nmに制御し配列させる新材料「ネオシリコン」を提案し、独自のアイデアによりこれを形成して、その機能を探索した。実施にあたっては、研究全体を(1)ネオシリコン作製と構造制御、(2)ネオシリコン電気特性制御、(3)ネオシリコン発光・電子放出特性制御、(4)ネオシリコンの素子応用検討、の4つの大きなタスクに分け、国際産学連携チームで、互いに密接な連携を図りながら推進された。「核スピンネットワーク量子コンピュータ」の研究チームでは量子コンピュータの強力な量子並列性を発揮させるために高分子や結晶の規則的に配列した核スピンを量子ビットとして使用して量子ビットの数を増すことを目標に、物質固有の核スピンネットワークを活かした量子回路構成法の研究、核スピンの初期化の研究、量子コンピュータに適した物質の探索・開発等を行なった。「人工光物性に基づく新しい光子制御デバイス」の研究では東京大学に5研究グループを編成し、半導体材料のマクロな光物性を一原子層単位で設計・制御されたミクロな人工結晶構造により変革し、電気光学効果、相互位相変調、四光波混合、磁気光学効果など、広義の光非線形性を飛躍的に高めること、ならびに、これら半導体人工光物性と半導体分布ブラッグ反射器やファイバブラッグ格子鏡で構成される高度な光共振器/干渉計構造に基づいて、デジタル波長変換器、光3R中継器、光ロジック、光バッファーメモリなどの全光子制御デジタルデバイス/回路を実現した。「ナノサイズ構造制御金属・半金属材料の超高速光機能」研究チームでは金属や半金属をナノスケールにした場合に現れる量子力学的効果を利用して光により光学的機能、磁気的機能、電気的な機能が制御できるような新しい材料を開発するための研究を行なった。「光・電子波束制御エンジニアリング」の研究においては光の位相を制御することにより光エレクトロニクスに新しい自由度を導入することを目指し、フェムト秒光パルスと此れにより量子ナノ構造材料中に誘起される電子波束との相互作用を用いて光位相を精密且つ超高速に制御する技術の開発を行なった。

 これらの研究成果は国際的にも権威ある学会誌や国際会議等における多数の論文、口頭発表などにより、その優秀性が客観的に評価されているものであり、就中小田チームは「ネオシリコンによるナノメカ・情報エレクトロニクス」として、中野チームは「非相反デジタル光集積回路の開発と全光ネットワークへの応用」として継続研究課題に採択され、引き続き科学技術振興機構の支援の下で研究が継続されることになったことは大変喜ばしいことである。

 本報告書が斯界の研究者、技術者等に有意義な情報を提供するものであることを期待する。

「電子・光子等の機能制御」研究総括
 菅野 卓雄

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究