平成16年度 研究終了報告書 (平成11年度採択課題)
「地球変動メカニズム」研究領域
研究終了にあたって

 平成9年度、科学技術振興事業団は戦略的基礎研究推進事業(現在、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業)の一部として「地球変動のメカニズム」研究領域を設けた。平成9年度から11年度までの3年間にわたり、広く研究課題を公募し、延べ135の提案課題の中から全部で13課題が採択された。そのうち平成11年度に採択された4研究課題が本年(平成16年)最終年度を迎えた。

 本報告書はこれら4研究課題について5年間にわたり実施された研究内容をそれぞれの研究代表者がとりまとめた研究実施報告から成っている。大気、海洋、太陽を研究対象とし、現象の観測・機構解明・予測、計測機器や観測手法の開発など研究内容は広範多岐にわたっている。

 梶井研究チームは対流圏大気、とりわけ都市大気中のオゾン濃度変動のメカニズム解明を目指し、大気化学反応の中心的役割を担っている反応性微量ガスの高精度濃度測定装置の開発に加えて、化学摂動法によるOHラジカルの大気中の寿命を測定することにより生成・消滅過程を一義的に決定できる装置も開発した。都市大気光化学汚染のモニタリングシステム構築に貢献するであろう。

 才野研究チームは海洋設置自動昇降式ブイとそれに搭載して海洋の基礎生産を自動的に計測し実時間的にデータを転送する測定システムを開発した。この運用は相模湾海域で始まったばかりであり、現場海域における衛星データの検証法の開発を含め、海洋基礎生産の広域・長期的観測システムの実用化は「継続研究」に引継がれている。

 中島研究チームはアジア域の大気汚染が引き起こす直接・間接の気候影響を調べるため、大気中のエアロゾルから雲粒、霧粒までの雲のライフサイクルに関わる全粒径スペクトル分布、粒子系の光学的パラメータの大気力学・化学的パラメータへの依存性に関する観測とモデリングを行った。エアロゾルの日射散乱・吸収による直接効果及び雲核として働き雲の放射特性を変えることによる間接効果を評価し、現在地球温暖化予測における最大の不確定要因の一つとされているエアロゾルの大気熱収支に及ぼす影響の解明に貢献した。

 吉村研究チームは高精度・高速度デジタル化装置・技術を開発・実用化し、それを用いてインド・コダイカナル天文台及び英国・グリニッチ天文台に蓄積されている最近100年間の太陽写真像の数値化に成功した。太陽半径の変動を検出し、その長期変動の大きさに初めて実証的根拠を与え、地球温暖化に関して問題とされる太陽輻射変動の影響について大きさの見積りを可能にする。
平成9年度に「地球変動のメカニズム」研究領域が設けられて以来、7年が経過し、本年度終了の上記4研究課題を含め、全13研究課題が全て終了することとなった。大気・海洋・陸域・生態系の広範な領域を対象とし、先導性のある高い水準の基礎研究が研究代表者の優れたリーダーシップのもとに推進された。

 当領域の研究事業が、多くの成果をあげ終了できたことは、ひとえに皆様方の御支援と御協力によるもので、あらためて心より深く感謝する。

平成17年3月   

「地球変動のメカニズム」研究総括
浅井 冨雄

独立行政法人 科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業CRESTチーム型研究