研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
セラピューティック煉瓦造住宅の住環境効果
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者  松藤 泰典  九州大学大学院人間環境学研究院 教授
主たる研究参加者  渡邊 俊行  九州大学大学院人間環境学研究院 教授
 林 徹夫  九州大学大学院総合理工学研究院 教授
 小山 智幸  九州大学大学院人間環境学研究院 助教授
 山口 謙太郎  九州大学大学院人間環境学研究院 講師
 木村 邦夫  産業総合技術研究所九州工業技術研究所 室長
 達見 清隆  科学技術振興事業団 研究員
 中村 美紀子  科学技術振興事業団 研究員
3.研究内容及び成果
 本研究は、研究代表者が提唱した高い耐震性・省エネルギー性を実現できるDUP乾式工法を用いた煉瓦造住宅の開発、その煉瓦造住宅についてのライフサイクルコスト分析及びライフサイクルアセスメント、また、煉瓦造住宅の持つ生理的心理的スコア化を研究対象とした。

 主たる研究成果としては、従来の湿式煉瓦造住宅などモルタルを用いて組積する構造に対して、「異質の材料を接着しない」という構造原理を見出し、乾式工法が可能であることを実証した。この構法による構造体は極めて高い耐震性と90%を超えるリユース率を有する。この構法による二重中空層を有する煉瓦造住宅で、平均気温とほぼ同じフラットな室温変化と空気循環式パッシブシステムの併用によって、30%を超える省エネ性を実現した。セラピー性に関しては、相対的に高い印象評定を得た。

 研究は、研究期間5年を考慮して、オーストラリアの煉瓦造住宅の標準工法として完成度の高い中空壁工法による煉瓦造住宅をベースモデルとして進められた。
本研究は、研究代表者が環境低負荷型建築の基本原理と定義した「異質の材料を接着しない構造」で、ベースモデルに、高い耐震性を付与することを前提条件として、

1) 我が国の蒸暑環境に適した省エネシステム
2) 競争力のあるイニシャルコスト
3) 高いライフサイクルアセスメント(LCA)
を有する煉瓦造住宅モデルの開発を特徴とする。

 研究は20の検討項目を、材料・構法・施工グループ、動的解析グループ、室内環境グループなどに分けて進められた。以下に主たる研究成果について分説する。

(1) 凌震(りょうしん)構造(Construction of Tiding over Vibration)

 リユース率の高い構造を求めるプロセスにおいて「異質の材料を接着しない」という構造原理を見出した。この構造は、耐震構造、制振構造、免震構造の何れとも異なる構造原理を有するので凌震構造と命名した。凌震構造の原理を実現した具体例がSRB-DUP(Steel Reinforced Brick construction by Distributed Unbond Prestress theory)である。個体要素が脆性的であるのも関わらず、部材全体としては鋼構造に類似した高い強度と変形性能を示す。面外方向で1000gal.の振動に耐えた。

 これらの性能の客観的評価として、日本建築総合試験所の技術性能証明を得た。これによって、モルタルを用いない乾式工法で煉瓦造などの組積構造に高い耐震性を付与するとともに、そのリユース率90%超を実現した。

 
(2) 空気循環式パッシブシステム
 煉瓦の蓄熱性に着目して、SRB-DUPをベースとした二重中空層(Double Cavity Wall)を有する空気循環式パッシブシステムを開発した。エアコンを運転しない状態で、SRB-DUPは高気密高断熱住宅と同様のフラットな室温変化と、高気密高断熱住宅より低い室温水準を実現した。このシステムを用いた場合、終日運転時の電力消費量は、約30%低減できた。 
 
(3) 煉瓦造住宅のライフサイクルアセスメント
 本研究では、ライフサイクルエネルギー(LCE)とライフサイクル二酸化炭素(LCCO2)によりLCAを行った。また、本研究で用いるシミュレーションの入力データ作成の簡略化を目的としてGUI(Graphical Use Interface)を用い、簡易CADによる入力インターフェースを有するDUP煉瓦造住宅のLCA評価プログラムを開発した。
 また、在来軸組、木造ツーバイフォー、内断熱RC造、外断熱RC造、湿式煉瓦造、DUP煉瓦造、SRB-DUPパッシブ煉瓦造の住宅についてのLCC、LCE、LCCO2比較を行った結果、SRB-DUP煉瓦造は他の工法に比べて優れていることを明らかにした。
 
(4) 石炭灰煉瓦
 産業廃棄物である石炭灰を主原料とし、乾式工法による煉瓦造住宅用の煉瓦を開発するために、目標値を吸水率5wt%以下、圧縮強度200MPa以上に設定し、原料の選定、配合割合及び焼成条件について研究がなされた。
 基本となる原料として、九州電力株式会社の苓北、松浦、大村石炭火力発電所から提供された7種類の石炭灰と試作品の焼成を引き受けた荒木窯業株式会社の赤煉瓦原料粘土を用いた。

 焼成した結果、異なった原材料から生成する石炭灰の化学組成は、例えば、SiO2:49.3-76.2wt%、Al22O3:11.9-30.8 wt%、Fe2O3:1.7-9.0wt%、CaO:0.4-12.1wt%と大きくばらついていたにも関わらず、多くの試料は吸水率5wt%以下を達成した。吸水率5wt%以下の試料の圧縮強度はすべて200MPa以上を達成した。

 また、石炭灰を主原料とした石炭灰煉瓦の多色性について、ラボ段階であるが、原料の選定、配合割合及び焼成条件について検討し、赤煉瓦原料粘土を用いて色彩に及ぼす因子を明らかにした。石炭灰の中赤外線領域における反射率は、コンクリートなどに比較して高い。

 高精度煉瓦は、最終的に、耐久性が高く工事性のよい形状を得た。また、その研削条件、第2期実験棟での施工性確認などについても検討を実施し、実用化にむけた知見を得た。

 
(5) スラリーコンクリート

 産業廃棄物である石炭灰を安定化処理を行ってスラリーとしてコンクリートに大量に混合する技術および調合剤を開発した。高強度でかつ極めて高い中性化抑制およびアルカリ骨材反応抑制効果を有することを明らかにした。

 
(6) 印象評定
 煉瓦造住宅の印象評定についての研究が実施した。1)煉瓦造住宅、2)煉瓦壁、3)煉瓦パターンの各レベルで、他の外壁材料・住宅と比較して、主に印象評価実験を通して考察を行った。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 本研究は、研究代表者が提唱したわが国に適合する乾式煉瓦造住宅についての実証的研究である。実験棟の建設による構想の実証などを主体として、所期目的に沿って研究が展開され良い成果が得られた。
  研究サブグループの協力という観点からは、省エネルギーについては九大渡辺教授、豊かさ、印象等評価については同三浦教授の協力を得ている。
これらの研究成果の発表については、論文国内14報、海外6報の合計20報、また、口頭発表116報と適確に行われた。また、特許出願については、煉瓦製造法、それを用いて家屋構築法など11件がなされ、また、意匠登録出願2件を行っている。このうち、1件について海外出願に移行した。
 いずれも実用化に近い技術的内容となっているため、今後のライセンスなどの機会での活用を期待したい。
4−2.成果の戦略目標・科学技術への貢献
 研究代表者は、自ら提唱した乾式煉瓦造住宅について、煉瓦造住宅本来が特徴とする耐久性、主要部材である煉瓦の高いリサイクル性、省エネルギーに貢献できる大きい熱容量、セラピー性などに、我国に導入する際に必要な耐震性、省エネルギー性などの特性を付加した実験棟を設計し、また、実際に建設した。シミュレーション計算、要素実験などを通じて耐震性などの実証確認を行うと共に、この実験棟において、省エネルギーについては煉瓦造住宅にふさわしいパッシブシステムにより電力消費量を約30%低減できることを示した。

 これらの研究成果を、上記の通り、国内外の学会で積極的に発表したことは評価できる。
また、乾式煉瓦造住宅は、研究領域の目指すところのわが国における環境低負荷型の社会構築への提案として高く評価できる。 
しかしながら、提案された乾式煉瓦造り住宅が日本の四季や夏季の高温多湿の気候に十分適合できるかについては、今後よく確認を行う必要がある。これらの実用化にむけた課題について、今後、継続した研究を期待したい。

 また、研究内容の一部である「コンクリートへの石炭灰大量混合を可能にする処理システムの開発」は、平成14年度九州経済産業局の地域新生コンソーシアム研究開発事業に採択され、この方面の研究が実現化を目指すことになった。煉瓦造住宅の普及と共に今後の成果を期待したい。

4−3.その他の特記事項(受賞歴など)
 シンポジウムについて、国際シンポジウムを4回(国内3回、外国1回)実施したが、その積極的な努力は評価できる。
研究期間中に、乾式煉瓦組積構造及び組積構法について、日本建築綜合試験所において、建築技術性能証明書(平成14年性能証明書代02-16号)を取得し、この工法による実用化が可能となった。
 研究期間中において、松藤研究代表者は日本建築学会副会長、九州ファシリティマネジメント会長に就任した。
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