研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
衛星観測による植物生産量推定手法の開発
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者  本多 嘉明  千葉大学環境リモートセンシング研究センター 助教授
主たる研究参加者  梶原 康司  千葉大学環境リモートセンシング研究センター 講師 (平成9年12月〜平成14年10月)
 森山 雅雄  長崎大学工学部 助教授 (平成9年12月〜平成14年10月)
 高木 方隆  高知工科大学社会システム工学科 助教授 (平成9年12月〜平成14年10月)
3.研究内容及び成果
 植物生産量推定にはバイオマスが最も重要なパラメータとなるため、衛星データからの高精度なバイオマス推定モデル開発を主とした研究を実施した。研究は研究項目にしたがって(1)現地観測・観測データ解析、(2)衛星データ解析、(3)現地観測機器開発、(4)モデル開発の4サブグループに分けられる。
(1) モンゴル草原における大面積検証サイト運用および検証データ収集手法確立
 大陸規模、あるいは全球を高頻度観測する人工衛星センサーは、必然的に地上解像度が数百mから1km程の中程度解像度センサーとなる。このような解像度のデータと直接比較し得る地上観測データの取得方法はこれまで確立されていなかった。本研究ではこれを可能とする観測機器を開発し、観測手法を確立した。この観測サイトはNASAの衛星地球観測プロジェクト(EOS)の公式検証サイトとして登録された。
 
(2) モンゴル草原における高精度なバイオマス推定モデルの開発
 上記の観測サイトにおいて、草本植物のバイオマスを人工衛星データから推定するアルゴリズムを確立した。また、草丈をパラメータとして用いると推定精度が向上することを実証し、衛星データから草丈を推定するアルゴリズムを構築した。さらに、世界で初めて種々の土地被覆における二方向性反射を実測する機材および手法を開発した。これらを用い、異なる植生タイプにおいて実測した二方向性反射データとバイオマスに密接な関係があることから、植物の3次元構造を人工衛星から把握することで、推定精度向上が可能であることを示した。また、既存の衛星データを解析し、衛星データから二方向性反射データを取得できることを示した。
 
(3) 二方向性反射データの観測機器の開発
 二方向性反射データを利用すれば、これまでの衛星観測よりも葉面積指数や樹木の分布状況などのより詳しい植生情報が得られる。現地観測において二方向性反射分布関数(BRDF)を正確に測定するために二方向性反射データの観測機器を開発した。トラックにタワーを設置し、持ち運びを簡易にさせた車載型タワーシステムと、自動操縦可能なラジオコントロールヘリコプターにセンサーを搭載し、地表面状態の異なる地域で観測を行えるRCヘリコプターシステムを開発した。車載型タワーシステムは、対象を均質で平坦な地域に限定し、角度のみを変化させるという簡単な構造でセンサーの位置を変えたときとほぼ同じ分光反射率が取得できるものである。RCヘリコプターシステムは、GPSによるオペレーション支援機能を搭載し、GPSホバリング機能搭載の産業用RCヘリコプターを観測プラットフォームとして採用し、理想的なBRDF観測を行える。
 
(4) 二方向反射データを利用した植生指数の開発
 (2)により、3次元構造の情報を含んだ植生の表層状態を区別する必要があり、それが既存の衛星データを用いて可能であることが分かった。そこで二方向反射データを利用した新たな植生指数である二方向反射構造指数(BSI)を開発した。BSIが植生の3次元構造の違いを表すことから、植生タイプの違いやバイオマスを反映していることが判明した。そこで、対象域をモンゴル草原から東アジアに拡大し、BSIを用いて東アジアバイオマスマップを試作し、良好な結果を得た。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況

 取扱いの比較的簡単な平坦で均質な植生が拡がる広大なモンゴルの草原に衛星観測の検証サイトを設け、草本植生のバイオマスを定量的に推定する手法を開発した。従来、一般的に植生被覆状態を示す正規化植生指標(NDVI)が用いられてきたが、さらに草丈の情報を含む3次元的な植生表面の形状を表す新しい二方向反射構造指数(BSI)を考案し、これを利用して草本植生のバイオマス推定に成功した。この手法の開発により、砂漠・半砂漠・草原等が占める全陸地の約60%を把握することができる。

 この手法を基にして森林植生にも適用可能なバイオマス推定法を開発しつつある。
 本研究グループは形式的には研究項目に対応する4研究サブグループで構成されているが、実質的には研究代表者を中心にした研究サブグループにすべての活動を集中し、研究代表者を中核とした一極集中体制で行われた。

 野外調査に勢力が費やされ、業績の発表が遅れており、論文の執筆公表、とりわけ国際誌への公表を急ぐ必要がある。

4−2.成果の戦略目標・科学技術への貢献
 全地球陸域における植物生産量を定量的に把握することは地球環境保全にかかわる二酸化炭素、水などの物質循環解明や食料問題に対処するために不可欠である。本研究では取扱いの比較的容易な草木植生を対象としてバイオマスの推定法を開発した。今後、本研究で確立した手法を基にして森林植生に適用できる手法の開発に発展させることにより、陸域植生の大部分を対象とした衛星による植物生産量の監視が可能となるであろう。

 また、本実験サイトがNASAにより模範的なテストサイトの一つとして指定され、国際的にも高い評価を得ている。
 モンゴルの実験サイトの研究成果がモンゴル国内での環境保全・自然災害対策上の要望に応えるものとなったことは予定外の国際貢献である。

4−3.その他の特記事項(受賞歴など)
 特になし。
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This page updated on September 12, 2003
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