研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
低次元超構造のコンビナトリアル分子層エピタキシー
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者鯉沼 秀臣東京工業大学フロンティア研究センター 教授
主たる研究参加者山本 隆一東京工業大学資源化学研究所 教授
 宮本 明東北大学大学院工学研究科 教授
 瀬川 勇三郎理化学研究所フォトダイナミック研究所 チームリーダー
 川崎 雅司東北大学金属材料研究所 教授(平成13年4月〜)
3.研究内容及び成果
3−1 研究の基本構想と展開
 エレクトロニクスの進歩には、2つの大きなブレークスルーがあった。真空管から固体素子への、そしてDiscreteからICへの転換、すなわちダウンサイジングと集積化である。それを支えたのが材料技術の進歩である。ダウンサイジングの極限を追求するのが今はやりのナノテクである。次のブレークスルーをもたらすテクノロジーがコンビナトリアルテクノロジー(CT)なのである。CTはモノ作り研究を画期的に高速化する可能性を有し、その進歩と国際的優位性を確保、さらには日本の製造業の活性化にも役立つことが期待される。このコンビナトリアルケミストリー研究は、医薬品の高速合成システムとして欧米が先行し、実用化している。ただし、固体材料のコンビナトリアルシステムは、溶液反応とは基本的には異なる。そこでこの分野のパイオニアとならんがため、CRESTに提案した。本プロジェクトでは、コンビナトリアル材料開発に欠かせない高速材料設計(宮本グループ)、高速材料合成(鯉沼、山本グループ)、および高速材料評価(瀬川グループ)の合計4つの研究拠点を配置し、最終年度には高速材料評価に川崎グループを追加した。研究の目標は世界に先駆けてコンビ高速合成システムの開発をするとともに、セラミックスや有機材料に関わらず、次元制御された新物質構造(人工結晶、超格子、量子細線など)を構築し、構造と物性の相関を調べて、有用な新規材料を探索することである。
3−2 研究成果
3−2−1 高速合成システムの開発
 酸化物薄膜の原子レベル成長を可能にするレーザMBE手法と高速材料探索に有効なコンビナトリアルケミストリーの概念とを組み合わせた種々のコンビナトリアルレーザMBE装置の開発を行った。(特許出願) マスキングの方法によって1枚の基板上に薄膜を一度(パラレル型)にもしくは連続的(シーケンシャル型)に堆積することを可能とした。すでに3つのタイプのコンビナトリアルPLD装置をラインアップした。いずれも良好に動作し、商品化も始まっている。薄膜を一度に合成することはもちろんのこと、膜厚を制御しながら積層して超格子を作成することもできる。また基板加熱システムと併用することで、温度傾斜をかけ、堆積温度の高速最適化も可能となった。このほか、プラズマCVDプロセスにコンビナトリアル手法を適用したコンビナトリアルPCVDデバイス作製装置やコンビナトリアルスパッタ装置等、レーザアブレーション以外の薄膜プロセスを用いた種々のコンビナトリアル薄膜作製装置の開発も行った。(各特許出願)
3−2−2 ハイスループット評価システム開発
1.構造評価
 一括して複数のコンビ試料のX線回折を短時間で測定できるコンビナトリアルX線回折装置を理学電機と共同開発した。(特許出願) この装置では、X線の発散を利用したパラレル評価法を採用し、約5秒の露光で1枚の基板に集積された薄膜超格子の主ピークとサテライトピークを一度に解析できることを実証した。一方、原子レベルでの構造解析には、日立製の“マイクロサンプリングシステム”を用いて、コンビナトリアル薄膜ライブラリーの任意の組成/構造に対応した箇所の断面TEM観察を高速に行うシステムを確立した。
2.物性評価
 物性評価では、熱電材料のコンビナトリアル探索のために、多チャンネル型の熱電材料評価装置を開発した。(特許出願) またマイクロ波顕微鏡を用いて誘電率と誘電損失の評価を高速に行うことができた。
3.インフォーマティクス
 分子層エピタキシーや低次元構造の実現には、原子・分子レベルでの結晶成長機構、析出分子の表面拡散過程、結晶核形成過程、ヘテロ接合界面などに対する深い理解が必要である。しかし、実験的にはこれら素過程を詳細に解明することは非常に困難なため、さまざまな計算機プログラムの開発を行った。そして薄膜成長過程のシミュレーション等に応用可能な高速量子分子動力学計算プログラムの開発などの成果を得た。(コンビナトリアル計算化学の提唱)
3−2−3 新物質・新現象の発見
透明二酸化チタン薄膜磁性体の作製
 コンビナトリアルレーザMBE手法を用いて、ZnOとTiO2の母体酸化物にそれぞれ遷移金属イオンを系統的にドープした一連の試料を高速合成した。その中で二酸化チタンに遷移金属をドープしたもののうち、Coをドープしたものが、走査型スクイド顕微鏡で明瞭な磁区構造が観察され、室温で透明かつ強磁性を示した。(特許出願)(新聞発表)
電界効果型アモルファスシリコン太陽電池
 アモルファスシリコン太陽電池の交換効率向上を目指し、不純物ドープではなく電界効果により内部電界を形成してキャリアを収集する構造の「電界効果型a−Si:H太陽電池」を提案した。そしてコンビナトリアルPCVD−PLD法を用いて、種々の太陽電池を合成し、特性の評価を行った。TCOに30V電圧印加した場合、短絡電流値が7.4%、変換効率が5.5%増加し、電界効果によって太陽電池特性が向上することが初めて実証された。(特許出願)
ZnO/MgZnO多重量子井戸構造の光学評価
 格子整合基板を用い、ZnOを井戸層とするZnO/MgZnO多重量子井戸をコンビナトリアル化学の手法を用いて制作し光学特性の評価を行った。その結果、量子井戸における誘導放出の機構は励起子間非弾性散乱であることが明らかになった。そして井戸幅の減少に伴い、束縛エネルギーが90meV程度まで増加し、光学フォノンエネルギーを大幅に凌駕した。
π共役高分子の薄膜化と物性評価価
 π共役高分子を用いる機能性材料の探索として真空蒸着による薄膜化をコンビナトリアルケミストリー的に試みた。1,4−dibromobenzeneと1,3−dibromobenzene、2,5−dibromopyridineと3,5−dibromopyridineを10:0,8:2,6:4,5:5,4:6,2:8,0:10の各割合で混合し、既知重縮合法によって合成したコポリマー、Poly(PP−co−MP)およびPoly(PPy−co−MPy)(PP=パラフェニレン、MP=メタフェニレン、PPy=パラピリジン、MPy=メタピリジン)を薄膜化した。Poly(PP―co−MP)を薄膜化したサンプルは青色発光を示し、中でも5:5のコポリマーが最も高い発光強度を示した。これらにPoly(PPy−co−MPy)をクロス方向に蒸着すると、青色から緑色の強い発光を示すライブラリーが得られた。これらのうち、最も強い青色発光を示すPoly(PP5−co−MP5)/PMPyの組み合わせに関して、各ポリマーの膜圧を最適化することで、ポリパラピリジン単独のおよそ16倍程度の強度を有する高輝度青色発光積層膜の作成に成功した。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 鯉沼チームの研究は、分子層エピタキシーによる薄膜合成技術とコンビナトリアル合成技術を合わせるという非常に漸進なテーマ提案であったが、チーム全体の協力体制も良く、(材料合成デバイス開発において)世界的にもリード出来る拠点作りに成功した。
 数多い成果のうち、代表的なものを次に挙げる。
4−1−1 コンビナトリアル高速合成システム
(1)鯉沼秀臣、現代化学 特集332、11月号 14(1998)
(2)Proc. of SPIE, 3941, (2000)
(3)H.Koinuma, H.N.Aiyer, Y.Matsumoto,; Sci.Tech. Adv. Mat, 1, 1−10(2000)
 レーザーMBEと種々のマスキング機構を組み合わせ、合成目的に応じた装置も開発し、特許ライセンスもすすめ、すでに市販も始まっている。
4−1−2 新規材料の作製
(4)Y.Matsumoto, M.Murakami, T.Shono, T. Hasegawa, T.Fukumura, M. Kawasaki, P.Ahmet, T.Chikyow, S.Kashihara and H.Koinuma; Science,291
 854−856(2001)
TiO2にCoをドープして出来た薄膜透明強磁性体。新聞発表もされ、非常に注目されている。
4−1−3 液相法カーボンナノチューブ合成
(5)A.Ohtomo, K.Tamura, M.Kawasaki, T.Makino, Y.Segawa, Z.K.Tang, G. K.L.Wong, Y.Matsumoto and H.Koinuma; Appl.Phys.Lett. 77,2204−2206(2000)
 Y.F.Zhang, M.N.−Gamo, C.Y.Xiao, and T.Ando, Physica B., in press
 ZnOを井戸層とする青色レーザ光発信材料。次世代の材料として研究開発が激化しており、実用化へのオプチマイズ条件の割出中。
(6)Y.Muramatsu, T.Yamamoto, M.Hasegawa, T.Yagi, and H.Koinuma; Polymer,42, 6673−6675(2001)
π共役高分子の真空蒸着による積層化で、高輝度の青色発光積層膜の作成に成功した。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 有機材料に比べ無機材料は物性をコントロールする条件が多く、コンビナトリアル合成には 課題が多かったが、見事にクリアーしたことは特筆に値する。薄膜材料から一歩進んでバルク合成へと旧無機材研内のコメットプロジェクトを期間内に立ち上げた。多くの装置、アタッチメントも開発し、市販も始まった。このようにコンビナトリアルシステムに関しては世界を一歩リードした位置にはあるものの追い上げも激しく、新材料の開発に向けての大型国家戦略が要望される。
<<単一分子トップ


This page updated on April 1, 2003
Copyright(C)2003 Japan Science and Technology Corporation