本研究では、1)IL8をはじめとしたケモカインの様々な炎症・免疫疾患モデルでの病態生理作用の確立とそれに基づく抗炎症・免疫抑制剤の開発のための新たな分子標的の提供のための基礎実験、2)ケモカイン受容体シグナル伝達機構の解析、3)白血球細胞接着因子の生物学的意義の確立と接着因子のを介した細胞内シグナルの解析、4)エンドトキシンショックの分子機序の解析、5)マクロファージ・樹状細胞の起源、分化、活性化分子機序の解析と新規炎症関連遺伝子のクローニング並びにそれらの生物活性の確立を柱として研究を実施し、以下の成果を挙げた。 |
炎症反応分子機構解析ならびに抗炎症剤開発グループ |
a. | 炎症制御因子としてのケモカイン。ウサギにおけるIL 8に対するマウスハイブリドーマ由来抗体投与による様々な実験モデル(皮膚急性炎症、血清複合体急性腎炎、肺虚血後再灌流傷害、ARDS、脳梗塞など)を通してIL 8が急性炎症に伴う好中球の浸潤ならびに活性化に中心的に関与し、IL8を阻害することにより急性組織損傷を防止できることを明らかにした。中外製薬との共同研究としてヒト型化anti-human IL 8抗体(IgG4)を用いて臨床開発のための適応疾患を決定するための動物実験を行った。さらに、MCP-1に対する抗体により、ラットでの馬杉腎炎による腎硬化症、モノクロタリン誘導性肺高血圧症発症、内頚動脈内皮損傷による動脈硬化を軽減できることを明らかにした。 |
b. | ケモカインによる免疫システム制御。1)Th2 細胞表面上にはCCR4 が発現しTARC/MDC が作用することを明らしにした。CD4+CD45RO+でCCR4陽性細胞とアトピー性皮膚炎、喘息患者の病態、IgE濃度が非常に相関する臨床データを得た。また、ケモカインによるTh1/Th2 優位免疫反応制御をマウス実験モデル(細菌性劇症肝炎モデル、気管支喘息モデル、アトピー性皮膚炎モデルなど)で実証した。肝炎モデルではPropionibacterium acnes (P.acnes) 投与後肉芽形成過程はサイトカイン、ケモカイン産生、浸潤細胞のケモカイン受容体発現よりTh1優位なphaseであることを証明し、LPS投与により肉芽周囲を中心に強い肝傷害が生じる時、肉芽構成細胞によりTARCが産生されCCR4+細胞の浸潤が起こりTh1とTh2細胞の混合反応がFasLとTNFaの高発現をもたらし組織傷害を引き起こすことを証明した。さらに、P.acnes 投与後数時間以内に大量のCD11c 陽性樹状細胞(DC)前駆体が血中に出現し、肝臓類洞における肉芽形成に参画することを見い出した。しかも、この遊走がケモカインMIP1a で制御され、肉芽部位で活性化/成熟したDCが門脈領域に移動し最初の抗原特異的免疫応答を誘発する(portal tract associated lymphoid tissue, PALTの発見)がこの移動もケモカインSLC により制御されていることを確立した。最近、PALTならびに所属リンパ節であるhepatic lymphnodeに移動した樹状細胞(IDC)は初期(day2)にはMDCを後期(day5−7)にはIP10を主に産生し所属リンパ節におけるDC−T cell clusteringに関与しTh1polarizationを制御すること、所属リンパ節からefferent lymphaticsへのメモリーTh1細胞の移行がIP10により調整されていること、そして最終的にはメモリーTh1リンパ球の肝臓類洞へのホーミングにより初めて肉芽部位でのTh1細胞の増殖が起こり肉芽が完成するというサルコイドーシスの原因とされるP.acnes による肉芽形成メカニズムのほぼ全貌を明らかにすることができた。また、OVA反復投与による気道喘息モデルにて気道上皮細胞と血管内皮細胞により産生されるTARCを単クローン性抗体投与により阻害することによりTh2細胞、好酸球浸潤を抑制し、気道過敏症発症を防止することができた。アトピー性皮膚炎モデルNc/Ngaマウスのケモカインとサイトカイン産生の解析結果より皮膚上皮基底細胞によるTARCの産生が病態と相関し、且つTNF+IL4+IFNγにより非常に強く誘導されることを見出した。2) SLEモデルマウスであるBWF1マウスにおいてループス腎炎発症に伴い、B細胞ケモカインBLCの発現が腎臓や胸腺において著明に増加していることを見出した。BLCはミエロイド系成熟DCにより産生され、自己抗体産生細胞であるB1細胞に強い細胞走化性を示した。胸腺ではCD4およびCD8 SP T 細胞がB細胞と同様に著明に増加するのに対して、CD4CD8 DP T 細胞は劇的に減少していた。これらの事実はBLC産生性成熟型DCが胸腺における中枢性トレランスの破綻をもたらすと同時に、B1細胞やfollicular helper T細胞を胸腺や他の標的臓器へ遊走せしめ、強力な自己抗体産生を誘導していることを示唆するものである。3)SDF- 1 intrakine 発現retrovirus 感染血液幹細胞移植マウスを作製し、それらにおける造血、免疫システムの構築を検索したところBリンパ球、顆粒球の再構築のみならず胸腺の再構築にも異常があることが判明した。さらに、腸管cryptopatchの形成とそこからのintraepithelial lymphocytesの出現がTECK/CCR9によることをTEAC intrakineを用いた方法で明らかにした。4)GVHDを引き起こすCTLの最初の誘導が腸管のsubepithelial dome(SED)において起こりCCR5が決定的役割を有することを見出した。 |
c. | ケモカイン受容体シグナル伝達システムの解析。ケモカイン受容体、CCR2に特異的に結合する分子群としてCD55をはじめとしたGPI-anchor型蛋白があり、ケモカイン受容体がlipid raftに存在することを明らかにした。さらに、CCR2の細胞内C-末端に結合する新規のclathrin motifを有する蛋白(FROUNTと命名)をcodeする遺伝子をyeast two hybrid法でクローニングし、この蛋白がCCR2の細胞表面(lipid raft)でのMCP-1依存性会合とそれに引き続くreceptosome形成、白血球遊走を制御することが明らかに成った。In vivo にても炎症時のマクロファージ浸潤を制御することを確認した。 |
d. | エンドトキシンショックの分子機構の解析。LPS受容体signal transducer並びに細胞内情報伝達分子の同定のため、マウスretrovirus vectorを用いたmacrophage libraryのスクリーニングを行い、現在数多く得られている候補遺伝子を解析中である。Natural selectin antagonist, sulfatideによるサイトカイン産生抑制機序について検索するとともに、sulfatide結合蛋白の同定を行った。また、IL6-/-マウスにおける、エンドトキシンショック抵抗性の原因について詳細に検討中した。さらに、エンドトキシンショック時のNOの関与を詳細に調べるためにESRを用いたマウス血液中NOの定量法を確立し、エンドトキシンショック時のNO量を従来のグリース法と比較した。 |
マクロファージ・樹状細胞の起源、分化、活性化分子機序の解析と新規炎症関連遺伝子のクローニンググループ |
マウスにおいてmyeloid DCの骨髄血球前駆細胞、ならびに胎仔肝血球前駆細胞からの分化システムを世界で初めて確立するとともに、骨髄前駆細胞からDCへの分化経路には少なくとも3通りあることを明らかにした。また、それぞれのDCサブセットが発現するケモカイン受容体を明らかにし、in vitro でのケモカインに対する反応性を検討した。ヒトのほぼ全成熟白血球サブセット(Mo, LPS-activated Mo, Th1/Th2 subsets, immature and mature DCなどを含む)の包括的遺伝子発現プロファイル をserial analysis of gene expression法にて作成した。現在、この仕事で明らかになった多数の新規遺伝子のクローニングと機能確立の仕事を展開している。 |
生体工学グループ |
CXCR4のノックアウトマウスを作製し、大阪母子センター研究所との共同研究でそのphenotypeを解析した結果、SDF-1/PBSFとCXCR4が一対一の関係にあり胎生期の造血、B細胞分化・増殖のみならず胃・上部腸管への血管形成に重要な役割を有することが判明した。CCR5遺伝子欠損マウスを作成しC57BL/6にバッククロスすることにより急性GVHDの発症にCCR5が決定的役割を有することが判明した。IL 1 receptor antagonist 欠損マウスを作製し、そのphenotypeを解析した。細菌誘導性肝障害モデルにおいて欠損マウスはより致死的であり、脾臓ではTh2シフトが観られた。炎症関連遺伝子としてクローニングしたADAMTS-1の欠損マウス作製により、ADAMTS-1がマウスの正常な成長、腎・副腎などの臓器の形態と機能に重要な因子であることが明らかになった。 |