研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
自己免疫制御の分子基盤
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者谷口 克千葉大学大学院医学研究院 教授
3.研究内容及び成果
 本研究の目的は免疫制御系の新しい細胞系列として同定されたNKT細胞の(1)分化機構、(2)生理機能、(3)NKT細胞機能の分子基盤、(4)Vα14受容体のリガンド同定を行うことによって、免疫制御の分子機構を明かにし、(5)自己免疫疾患発症の分子的理解を可能にする事である。この目的を達成するために、NKT細胞前駆細胞の同定、NKT細胞の分化機構、Vα14 NKT細胞抗原受容体のリガンド同定、NKT細胞機能発現のメカニズム、NKT 細胞療法の基盤技術開発のプロジェクトを遂行し、以下の成果を得た。
1.Vα14抗原受容体遺伝子の発見とNKT細胞分化:NKT細胞の抗原受容体は、多様性の無いただ一種類の受容体 (Vα14 Jα281)で、T細胞では使われておらず、NKT細胞に特徴的である事が明らかとなった。
2. NKT細胞が新しいリンパ球系列であることの証明:(イ)NKTマウスとNKT欠損マウスの作成:NKT細胞だけが出現し、通常のリンパ球が無いNKTマウスおよびすべての組織からNKT細胞のみが欠失し、他の免疫系は正常のマウスを作成することに成功した。(ロ)NKT細胞前駆細胞の証明:NKT細胞にのみ分化する前駆細胞の存在を証明した。この細胞は幼若型受容体(pTαとVβ8)とリンパ球には発現していないと考えられていたGMCSF受容体を発現し、細胞内には遺伝子再構成に必要な酵素RAGを持つ。さらにGM-CSF受容体からの刺激でVα14遺伝子再構成を起こし成熟型NKT細胞に分化した。以上の事実を総合して、NKT細胞は免疫系の新しいリンパ球系列であると考えられた。
3.Vα14抗原受容体リガンドの発見:Vα14受容体はクラスIb 分子であるCD1dと共に抗原を認識するが、それがα-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)という糖脂質であることを証明した。
4.α-GalCerとCD1d分子の相互作用:CD1dに結合するα-GalCerの結合様式を明らかにすることができた。すなわち、ガラクトースの3-OH 基がCD1d アルファヘリックスのArg79とGlu83に結合し、2-OH基はArg79とAsp80 に結合し、スフィンゴシン3-OH基がVal149に、Amide nitrogenがAsp153と結合し安定化する。
5.NKT 細胞の生理機能:NKT細胞はこれまで未解決であった様々な免疫現象、たとえば免疫寛容の維持、がんの免疫学的監視、I型糖尿病などの自己免疫疾患発症制御などの免疫制御のみならず、エンドトキシンショック, ウイルス肝炎モデルであるConA誘導肝炎, 結核肉芽腫形成などの感染症に必須であることがNKT細胞欠損マウスを用いて証明された。
6.リガンドによる活性化NKT細胞の機能:(イ)がんの臓器転移阻止(ロ)マラリア感染防御(ハ)流産に活性化NKT細胞が関与することが明かとなり、臨床応用へ期待されている。このように、これまで未解決であった免疫現象の多くが、この新しい免疫系によって担われていることがわかった。このNKT細胞系の発見は、免疫現象の基本的理解、制御, 免疫疾患の発症機序解明に新しい道を開くものと考えられる。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 上述の研究成果は、52件の英文原著論文として発表され、その主要なものはScience2報、Nature Medicine2報、Immunity3報、Journal of Experimental Medicine8報、Proceedings of the National Academy of Sciences, USA7報、Journal of Clinial Investigation2報、Development2報、Cancer Research2報、Hepatology1報、Journal of Immunology16報、Arthritis and Rheumatism1報等、質量共に優れた成果を挙げた。NKT細胞にのみ分化する前駆細胞の存在の証明、Vα14抗原受容体遺伝子の発見とNKT細胞分化、Vα14抗原受容体リガンド(α-GalCer)の発見、α-GalCerとCD1d分子の相互作用、NKT細胞欠損マウスとNKT細胞以外の他のリンパ球のないマウスを作製して、NKT細胞の自己免疫疾患抑制などTh2型作用を証明するなどの成果を挙げた。また、学会発表も国際会議での招待講演などが18件、国内での口頭発表やポスター発表は30件ある。特許出願は1件にとどまったが、出願以前の届け出や、その他の制度の関係で短期間内での出願が難しいこともあることを考慮すべきであろう。
 α-GalCerがNKT細胞を活性化して癌細胞を攻撃すること、IL-12がNKT細胞を通じて癌細胞を攻撃していることを明らかにしたScienceの2論文について、平成9年11月28日付産経新聞と、平成9年12月3日付朝日新聞に、α-GalCerが癌転移を強力に抑制することについて、平成10年9月10日付読売新聞に、α-GalCerがI型糖尿病の発症や再発を予防する機能をもつことを明らかにしたNature Medicineの論文に関して平成13年9月5日付日刊工業新聞に掲載された。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 NKT細胞の免疫抑制の証明や肺癌を対象にNKT細胞療法の臨床試験を開始するなど、癌治療、自己免疫病の解明と治療に向けての展開が期待される。NKT細胞の抗腫瘍活性に着目して、「NKT細胞によるがん免疫療法の基盤研究」で平成13〜17年度の医薬品機構・医薬品基礎研究推進事業に採択されている他、平成13年7月から理化学研究所の免疫・アレルギー科学総合研究センター長に就任したことは、その期待の現われと言える。
4−3.その他の特記事項
 代表者は平成13年7月から、理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センターのセンター長を兼務している。

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