本研究課題では銅酸化物高温超伝導体を、強い相互作用を持った(強相関の)低次元の電子系がもたらす典型的異常金属として捉え、まず、その物性および超伝導発現機構に対する理解を深めること、さらにその理解に基づいた多元の遷移金属化合物系探索を行なって、新しい異常金属・異常物性を創出することの2つを当初からの目標とした。研究の遂行には名大グループと東大物性研の加倉井和久教授(現在、日本原子力研究所先端基礎研究センターグループリーダー)とのグループで1つのチームを作って行なった。目標の追求を堅実に実施し、銅酸化物の電子状態と超伝導転移機構に関する統一的描像の確立を始めとして新しい物質や物性の開拓等に関して期待通りの優れた成果を挙げている。それらについて以下に記す。 |
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1.高温超伝導体の実験的相図の提出および理論による再現 |
高温超伝導銅酸化物のT-δ相図(縦軸温度T、横軸・・(モット絶縁相にドープされた正孔濃度))を提案し、超伝導発現に関する物理描像を明確にした。このために、(1)La214系やY123系など多くの銅酸化物を用いた多種多様な研究、(2)低次元スピンギャップ系CaV4O9やCuNb2O6の発見および物理研究、(3)パイロクロア化合物R2-xBixRu2O7やR2-xCaxRu2O7(R=Y, Sm等)の開発的研究等がなされた。さらに、d-pモデルのバンド的描像で、その相図が再現された。これは、反強磁性相関と擬ギャップ形成とが銅酸化物の高温超伝導を含めた異常物性の出現に最も本質的であることを示すものである。また、強相関電子系の記述に大きな基盤をあたえた。 |
2.“ストライプ”の超伝導発現に対する役割研究 |
La214系に見られる“ストライプ”秩序もしくはそのゆらぎが、Y123系やBi2212系でも超伝導や低エネルギー物性に顔を出してくるかどうかを、Tc-・・曲線決定、輸送特性やNMR測定、中性子散乱等を手段に調べた。その結果は、“ストライプ”秩序もしくはそのゆらぎの効果の存在に対して否定的である。
Y123系の磁気励起に現れるincommensurate peakやresonance peakも動的な“ストライプ”秩序の存在の実験的証拠としてよく議論され、高温超伝導を発現させるもののように言う向きもあるが、じつは“ストライプ“とは直接関係のない描像を用いて自然な説明が可能なことなど、重要な多くの発表を行なった。
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3.高温超伝導体のラマン散乱 |
Y123、La214、Bi2201, さらにはBi2212系の電子励起、磁気励起、格子振動の総合的理解を得る目的にラマン散乱の研究を行い、超伝導ギャップのコヒーレントピークの対称性のキャリアー濃度依存性に興味ある振舞いを見出している。 |
4.物質および物性開拓 |
(1) | 低次元量子スピン系、スピンギャップ系等:CaV4O9,AV2O5 (A=Na, Li、Mg)、AV3O7 (A=Sr, Ca)、ACuCl3 (A=K, Tl)、Na0.33V2O5、SrCu2(BO3)2、Sr14-x-yCaxYyCu24O41、LaCuO2.5、CuNb2O6、[N(CH3)4]V3O7、(en)2ZnV6O14 (en=エチレンジアミン)、(C6H14N2)V6O14・H2O、etc. |
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(2) | 低次元のモット金属・絶縁体転移系等:La1+α-xSrxMS3+α(M=遷移金属元素)、BaCo1-xNixS2、Rb2M3S4(M=Ni,Pd)、La3Ni2O7-δ、La4Co3O10+δ、Tl(La2Sr2)Ni2O9 |
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(3) | フラストレーションによる磁気揺らぎを持つ系:R2-xCaxRu2O7やR2-xBixRu2O7 (R=Yおよび稀土類元素)、Ho2Ti2O7、Tb2Ti2O7、R2GaSbO7 (R=稀土類元素)、etc. |
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(4) | スピンカイラル秩序による(?)特異な異常ホール効果をもつ系:Nd2Mo2O7、Cr3Te4、CuCr2S4, Cu1-xZnxCr2Se4、SrFe1-xCoxO3-δ |
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上記の項目に名前が現れなかったいくつかの物質について以下に触れる。 |
・ | BaCo1-xNixS2が濃度xの変化または外部圧力p印加のどちらの手段でも絶縁体―金属転移を誘起できる系であることを発見しこの系の温度(T)-x-p相図を詳しく決め、転移近傍での異常物性を明らかにした。とくに、抵抗の極めて巨大な圧力効果を発見し、その振舞を詳しく発表した。 |
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・ | 銅酸化物の高いTcの直接要因はCu-Cu間の交換相互作用が大きいことであるが上記のVO51次元鎖をもつ[N(CH3)4]V3O7、(en)2ZnV6O14、(C6H14N2)V6O14・H2Oはそれと匹敵する大きな交換相互作用をもつことがわかった。 |
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・ | パイロクロア型Nd2Mo2O7の異常ホール効果が従来の考えの枠内にないことを発見した。また、それを発端としたスピンカイラリティχ(χは3個のスピンS1,S2,S3に対して、χ=S1・(S2xS3)と定義され、3個のスピンが張る立体角に比例する)と異常ホール効果の関係の追究を行い、Cr3Te4、CuCr2S4, Cu1-xZnxCr2Se4等にスピンカイラリティχからの異常ホール効果への寄与の可能性を見出している。 |
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・ | スピンギャップをもつ量子スピン系のCaV4O9、CuNb2O6の発見のほかにも、NaV2O5、SrCu2(BO3)2、ACuCl3 (A=K, Tl)、LaCuO2.5、Sr14-x-yCaxYyCu24O41等多くのスピンギャップ研究を中性子散乱やラマン散乱を手段に行い、スピン一重項形成のメカニズムを解明した。 |
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5.理論的研究 |
1.に記述した研究以外にも、低次元有機導体における秩序状態と揺らぎの性質に関する理論的研究、特に閉じ込め、非閉じ込めの理論、SDWの理論、さらには不純物アンダーソンモデルや格子アンダーソンモデルの理論的研究などで多くの成果を挙げた。 |
6.機器開発 |
中性子散乱機器の開発の面では、縦と横にベントしたアナライザーの開発により、従来のものの4.5倍の中性子強度を得ることができた。熱中性子用高次フィルター速度選別機をドイツのDornier社と設計、設置して性能を評価した。さらに、大型単結晶の準備を簡便化する高エネルギーX線装置を設計、設置した。 |