研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
質の利用を中心にすえた新しい都市水代謝システムの構築
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者渡辺 義公北海道大学大学院 工学研究科 教授
主たる研究参加者岡部 聡北海道大学大学院 工学研究科 助教授
 木村 克輝北海道大学大学院 工学研究科 助手
 但野 利秋北海道大学大学院 農学部 教授
 岩本 正和東京工業大学 資源化学研究所 教授
 平林 集株式会社日立製作所中央研究所 主任研究員
3.研究内容及び成果
 本研究では、用途に応じた水質の水を必要な量だけ都市に供給し、水文サイクルのフラックスの不足分を自然との生態学的調和と水再利用を考えて対応する新しい都市水代謝システムを構想した。このシステムでは、飲料用途の水については河川上流部や地下水などの清澄な水源を用い精密な浄水処理をして供給し、総需要中の大部分を占める非飲料系の用水は高度な下水処理と処理水貯留によって都市近傍に創出した水源を用いる。
 この5年間では、構想の実現に必要な要素技術の開発を行なった。主な要素技術として、1.膜ろ過による浄水プロセスの高度化、2.ハイブリット下水処理システムの構築と効率化、3.下水処理汚泥の有効利用・リサイクル(リンの回収、リン肥料化)、4.微量溶解性有害物質(ヒ素、農薬)除去のための吸着剤の開発と高感度水質計測技術の開発などを計画した。
 研究概要を以下分説する。
(1)分離膜を用いた精密浄水システム関係
(i)分離膜を用いた精密浄水システム
 次世代型精密固液分離法としての膜分離が汎用的水処理プロセスとなるには、膜ファウリングの制御と有機・無機性溶解成分への対応が課題である。
 本研究でこれまでに得た主な研究成果は以下の通りである。
 *粉末活性炭循環型浸漬MF膜処理システム
 *膜分離と生物学的酸化を組みあわせた回転平幕装置
 *硫黄脱窒菌と膜分離を組みあわせた硝酸除去プロセス
 *フミン質による膜ファウリング機構の解明とモデル化
 *傾斜管沈殿部を持つ噴流攪拌固液分離槽を前処理とした膜処理システム
 *新しいオゾン耐食膜による高度浄水処理システム
 *エアースランピングと逆隆洗浄を組みあわせた膜洗浄法
 *農薬、ヒ素等の溶解性有害物質を除去できる振動型NF膜分離装置
(ii)凝集・高速固液分離・生物酸化・膜分離を組みあわせたハイブリット下水システム
 再利用水源の創出と下水からのリン回収を考慮して、多用されているアルミニウム系に代わる新しい鉄系の凝集剤(Poly-Silicon-Iron、PSI)を用いた凝集沈殿と膜分離活性汚泥法を組みあわせたハイブリット下水処理システムを構想し、パイロットプラントにより実証を行なった。
 本研究でこれまでに得た主な研究成果は以下の通りである。
 *オンサイト使用のためのPSI製造法
 *下水の凝縮沈殿処理装置としての傾斜管沈殿部を持つ噴流攪拌固液分離装置
 *回転平膜による膜分離活性汚泥装置
 *超電導磁石を用いた高速凝集磁気分離システム
 *前凝集沈殿処理による膜分離活性汚泥法の効率化
 *膜分離活性汚泥法における膜ファウリング機構
 *植物根が分泌する酵素と有機酸による凝集沈殿汚泥からのリンの化溶化現効果
(iii)ハイブリット下水処理のための生物膜の機能と構造の解析
 これまでの下水処理膜はブラックボックスとして取り扱われてきた。しかし、生物膜の機能を強化してハイブリット下水処理に組み込む新たな生物膜処理プロセスを開発するには、生物膜内に存在する微生物群の生態学的構造とその機能の関係を明らかにする必要がある。本研究では、生態学的構造を解析するために、16SrDNAクローニング法、16SrDNA標的蛍光DNAプローブを用いたFISH法、DGGE法等の分子生物学的手法を適用した。また、生物膜内in situでの微生物活性を高い空間分解能で解析するために、NH4+、NO2-、NO3-、S2-、O2、pHを測定する微小電極を開発した。これらの新規手法を用いて都市下水生物膜内の炭素・窒素・硫黄の循環経路と下水中の有機物と窒素の除去過程の関係を明らかにした。これらの新知見は生物膜法の飛躍的発展を可能とする。
 本研究でこれまでに得た主な研究成果は以下の通りである。
 *都市下水生物膜内における硫酸塩還元細菌のpopulation dynamics と硫酸塩還元活性分布
 *FISH法と微小電極を用いた硝化細菌生物膜の生態学的構造と機能の原位置解析
 *生物膜内における物質移動機構
 *AOCと Biofilm Formation Potentialを指標とした配水管内の細菌再増殖能評価
(2)下水処理汚泥中リンの農地還元のための植物根分泌有機酸と酸性ファスファターゼ(APase)の遺伝子解析、機能評価
リン資源の枯渇に対応するために、下水に含まれるリンを回収して、植物が保持する難溶解性リンの可溶化機能(植物が分泌する酵素と有機酸の作用)を用いて食料生産のためにリサイクル利用するための研究を行なった。
 得られた研究成果は以下の通りである。
 *ルーピン根から分泌されるAPaseと有機酸の根圏における分布と有機態リン酸化合物分解能
 *ルーピンにおける分泌性APaseの分泌能と合成部位の解析
 *ルーピンにおける分泌性APase遺伝子の解析
 *下水汚泥からのクエン酸とAPaseによる難溶解性リンの可溶化
 *リサイクルリンの施肥効果
(3)溶解性有機・無機有害物質の除去を目的とした水処理用新素材の開発
 膜ろ過でも除去できない溶解性の有機・無機有害物質の除去を目的とした新しい吸着剤及び低水温時において著しく活性が低下するマンガン酸化細菌の作用を補うためのマンガン空気酸化触媒を開発し、水処理におけるその有効性を検証した。
 得られた研究成果は以下の通りである。
 *農薬吸着剤としてのシリカ系メゾ多孔体の合成とその特性解析
 *ヒ素・リン・クロム・セレン吸着剤としてのジルコニウムメゾ構造体の合成と特性解明
 *活性炭とPtを材料としたマンガン空気酸化触媒の合成と特性解明
(4)水環境中の微量の各種農薬の一斉分析を目的とした高感度水質計測システムの開発
 水環境には微量の各種農薬が存在し、いわゆる環境ホルモンとしての作用が問題視されている。本研究では、親水性農薬を含む各種農薬を高感度で一斉に分析する技術の開発を目指した。また、発ガン性消毒副生成物やカルキ臭の生成を抑えるために、水道水の残留塩素濃度を高感度でモニタリングできる超小型の測定システムを開発を目指した。
 得られた研究成果は以下の通りである。
 *農薬一斉分析のためのソニックスプレー噴霧器を用いたプラズマイオン源質量分析システム
 *残留塩素連続モニタリングのためのマイクロ水質分析システム
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 水利用改善の総合的システムイメージにもとづいて、そのための個別技術(膜利用浄化、リン回収利用等)の開発が行われた。
 原水の超高品質化と普通水の処理用とのための分離膜の研究および複合的な下水処理法の研究、さらに、排水汚泥から有効リンを抽出するなど都市水について総合的に研究した成果と評価できる。総合イメージの具体化までに至らなかったが、個別技術、特に膜技術については大きな進歩があった。これらの研究について多くの発表論文をみている。
 また、ヒ素、農薬などの溶解性有機・無機有害物質の除去を目的とした水処理用新素材の開発、水環境中の微量の各種農薬の一斉分析を目的とした高感度水質計測システムの開発などについても発表は適切に行われた。
 論文発表は、国内46件、海外45件と活発に行われた。口頭発表は、国内学会98件、国際学会28件であった。特許出願は5件であった。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 本研究での個々の要素技術は科学的にそれぞれインパクトがあるものとおもわれる。特に、膜ろ過の開発、利用に関する研究は高く評価できる。膜ろ過に技術については、生物膜と分離膜を組みあわせた高浄水処理システム、ハイブリット膜システムによる高度浄水処理、オゾン耐性MF膜による浄水などの研究、ろ過膜のファウリング機構など研究が精力的になされた点が評価できる。国際的にも評価が定着したものと評価できる。
 本研究の成果は、現実の社会で機能しなければ価値が発揮されない。しかし、この複合的システムを用いて超高品質の水を消費者へとどけるシステムが現段階で速やかな普及をみるとは必ずしもおもわれないので、普及時に発揮されるであろう技術的インパクトとその評価の定着にはすこし時間を要する可能性がある。
 本研究で取り上げた下水汚泥中のリン回収とその農地還元システムの基礎的な研究成果、溶解性の有機・無機有害物質(ヒ素、農薬など)の除去を目的とした新しい吸着剤であるジルコニウムメゾ構造体、シリカ系メゾ多孔体の合成とその特性解析などの研究成果は、この分野での新しい試みであり、今後の発展を大いに期待したい。
 また、農薬との一斉自動分析を目的とした 高感度水質計測システムの開発は、特に上水道水質の常時監視、品質管理への貢献について可能性を示したものと評価できる。
4−3.その他の特記事項
 本研究は、環境対策の総合的な観点から、研究代表者の強力なリーダーシップのもと、工学、理学(化学)、農学などの異分野の研究者により共同研究がなされたところに大きな特徴がある。この結果と相まって、大型予算での研究でしかなし得なかった研究体制を採用することができ、その結果、幅の広い研究成果が得られたことを評価したい。
 推進会議は、9回実施された。また、国際ワークショップは2回、最終的な国際シンポジウム(未来館)は1回実施されたが、研究成果は内外のこの分野の研究者から大いに評価されたと思われる。

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