研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
微生物を活用する汚染土壌修復の基盤研究
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者矢木 修身東京大学大学院 工学系研究科 教授
主たる研究参加者岩崎 一弘国立環境研究所 主任研究員
 古川 謙介九州大学大学院農学研究院 教授
 大竹 久夫広島大学大学院先端物質科学研究科 教授
 中村 邦彦国立水俣病総合研究センター 室長
 宮 晶子株式会社荏原製作所研究開発部 参事二級
3.研究内容及び成果
 有機塩素化合物や重金属の中で特に問題となっているトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、PCB及び水銀を対象に、これらの物質で汚染された土壌・地下水の修復をケーススタディとして取り上げ、バイオレメディエーション技術の実用化に際しブレークスルーすべき課題である浄化効果と安全性の確立を目指して、(1)分解能強化微生物の開発、(2)土壌中における微生物の挙動解析、(3)微生物センサー機能を活用する有害物質モニタリング手法の開発、(4)分子生態学的手法を用いる生態影響評価システムの開発、(5)大型土壌・地下水シミュレータによるバイオレメディエーション技術の適応性の評価に関する基盤研究を実施した。
(1)分解能強化微生物の開発
 TCEをよく分解するメタン酸化細菌Methylocystis sp. M株を用いるバイオレメディエーション技術を確立した。M株は50mg / lのTCEを分解できること、分解能は可溶性メタンモノオキシゲナーゼ(sMMO)に由来すること、またsMMOはα、β、γの2個ずつのサブユニットからなるマルチコンポーネント酵素であることを明らかにしsMMOの遺伝子の全塩基配列を解読した。
 TCA分解菌の分離・同定と諸性質を明らかにし、ビフェニル資化菌 Pseudomonas pseudoalcaligenes KF707 株と、トルエン資化性菌の両酵素のサブユニット遺伝子を相互に置換して種々のハイブリッドを構築し、遺伝子のハイブリッド化は、新たな形質の発現に有効であることを明らかにした。 PCE脱クロル化菌Desulfitobacterium sp. Y51を分離した。PCB分解力の異なる二つの菌株、P. pseudoalcaligenes KF707株とBurkhorderia cepacia LB400株のビフェニルジオキシゲナーゼのサブユニット遺伝子をシャフリングしキメラ構造を構築し分解能の著しい増大を確認した。 水俣湾から分離したグラム陰性の水銀耐性菌について1mg / lのメチル水銀の分解能力を確認し、有機水銀及び無機水銀の除去の可能性を明らかにした。
(2)土壌中における微生物の挙動解析
 M株のみに特異性を有する最適プライマーの組み合わせを見いだし反応液当たり1〜5細胞までの検出を可能にした。従来、計数に1ヶ月を要したものが、今回開発したPCR法を用いることにより数時間で計数が可能となった。 塩化第2水銀還元菌P.putida PpY101 / pSR134 の水銀耐性遺伝子(merオペロン)の一部を標的DNAとし、反応チューブ(50μl)当たり1〜5細胞までの検出を可能とした。
(3)微生物センサー機能を活用する有害物質のモニタリング手法の開発
 運動性を有する細菌のセンサー機能を利用し、迅速高感度毒性試験法を開発した。TCE及びTCE分解生産物であるクロラール、トリクロロエタノール、トリクロロ酢酸等の毒性を短時間で測定できた。またP.aeruginosaのアミノ酸、リン酸、O2のセンサー遺伝子の同定に成功した。
(4)分子生態学的手法を用いる生態系影響評価システムの開発
 微生物のポピュレーションダイナミックスによる生態系影響評価手法を開発した。メタン酸化細菌を対象とした場合、16SrRNA遺伝子、及び膜結合型と可溶性メタンモノオキシゲナーゼのpmoAmmoXmmoB遺伝子に特異的なプライマーでPCR及びPCR産物のDGGE分析を行い、土壌中におけるメタン酸化細菌に関する優先種の生態的特性の把握を可能にした。
(5)大型土壌・地下水シュミレータによるバイオレメディエーション技術の適応性の評価
 TCE汚染不飽和土壌の浄化方法として、M株を汚染土壌中に直接注入して混練する手法をライシメータを用いて評価した。M株を添加した試験区では急激なTCEのが認められ、25時間後には検出限界以下のレベルに達し、M株の有効性が確認された。大型ライシメータ(1m×2m×1.5m)に川砂及び地下水を充填し、TCE及びM株の挙動さらにM株の浄化効果を検討した。1gのM株は0.1gのTCEを分解でき、TCE汚染土壌・地下水の浄化に有効であることが判明した。
 M株について、人への安全性に関する経口、経気道、経皮、静脈内、皮膚への毒性試験ならびに生態系影響に関する魚、ミジンコ、藻類、土壌生態系への影響を調べ、環境への影響はほとんどないものと認められた。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
論文発表(国内誌26件、国際誌61件)、招待、口頭講演(国内138件、国際68件)特許(国内6件、海外1件)等、数多くの論文を通じて主要な成果を発表している。
いくつかの分解能強化微生物の開発に成功しており、なかでも、M株については汚染土壌浄化における実際的視点からの評価も行なわれ、バイオレメディエーションの基盤データは十分確保できたといえる。大形ライシメータでの実験は行なわれたが、修復技術の確立という意味で、今後、実地土壌での試行実施が望まれる。
Mycobacteriumに属する1,1,1-トリクロロエタン(TCA)分解細菌を2株分離し、75mg / lと高濃度TCAの分解可能性を報告した(Appl. Environ. Microbiol., 1999,NO.65,IF3.389)
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 M株について、汚染土壌浄化を実施する上での体系的な検討がなされ、適用申請のデータを含む多くの結果を得たことで、バイオレメディエーションの適用に向けて一歩前進した。分解能の高い菌の単離、遺伝子操作等により、いくつかの有用な微生物が開発され、一部については特許出願した。又運動性を有する細菌のセンサー機能を利用した蛍光プレートリーダー法も特許出願したが多数の試料の有害性を同時に試験することができること、1mlの少量で有害性試験ができること、測定が自動化できること等、実用への展開が期待される。
4−3.その他の特記事項
 なし。

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