研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
社会実験地での循環複合体のシステム構築と環境調和技術の開発
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者盛岡 通大阪大学大学院 工学研究科 教授
主たる研究参加者藤田 壮大阪大学大学院工学研究科 助教授
 内藤 正明京都大学大学院工学研究科 教授
 城戸 由能京都大学大学院工学研究科 助教授
 吉田 登和歌山大学 助教授
 竹林 征雄荏原製作所 副センター長
 酒井 寛二大阪大学先端科学研究センター 客員教授
3.研究内容及び成果
 循環複合体研究がめざすのは、循環型の技術システムを提案し試行する過程で、新たな技術課題を発見するとともに、社会経済的、制度的な側面で解決する必要のある課題を明らかにする実践的なアプローチである。
 循環複合体のプロトタイプとして3つの社会実験地を選んで、産業社会を代表する3つの代表的な指標製品を取り上げた。工業製品を対象とする「産業工場循環研究」、有機食品を取り扱う「農工連携循環研究」、建設物を対象とする「都市集積更新研究」では、各製品と副産物の物質特性、社会経済特性に応じたシステム技術を設計する。社会実験地研究では技術のみを切り離して取り上げるのではなく経済的な次元、社会的な次元のシステムもあわせて取り上げている。「循環複合体の企画研究」では循環複合体構築の支援システムを構築した。
 以下、研究の主な概要を分説する。
1.循環複合体の3つの実験地研究
(1)産業工場研究
 産業工場研究では、藤沢工場エコ・インダストリアル・パークを実験地の対象地区として選び、産業工場で循環を形成する技術システムと合わせて経済、組織、社会のシステム要素を明らかにするとともに、その循環形成の効果を評価した。
1)工業用ポンプについての製品マネジメント政策の設計
 製品連鎖を通じて環境効率を向上させるために、製品製造(素材、構造)や使用時の駆動・制御方法に工夫をもたせるエコデザイン、メンテナンスで寿命延長を図る戦略、解体時の効率を向上させるDFD(易解体設計)戦略を設計した。
2)ポンプが利用されている業務ビルでの環境エンジニアリング・サービス
 業務系ビルでのポンプの製品マネジメント施策についてのシミュレーションをおこない、製品のアップグレードとメンテナンスを組み合わせることにより、資源消費を削減しつつエネルギー効率も高めて、経済的にも有利であることを明らかにした。
3)藤沢エコ・インダストリアル・パークでの物質代謝マネジメント(内容省略)
4)環境−経済モデルによる産業機械での循環形成効果の算定(内容省略)
(2)農工連携研究
 農工連携研究では、食品の製造、流通、販売の段階で発生する副産物、廃棄物を再資源化する循環型のフードシステムと食品工場ゼロエミッションに焦点をあてて、有機野菜を対象とする循環型社会の技術と社会システムをデザインしてその効果を明らかにした。
1)有機野菜の循環型の流通システムの効果分析
 流通業が消費者と生産者をむすびつけ、副産物や廃棄物についても責任をもって資源循環型へと変えてゆく安心と安全の食を提供するフードシステムを設計した。
2)循環システムの形成を促進する消費者の購入行動分析
 農産物流通の指標財としてトマトを取り上げて、仮想市場法(CVM法)により購入表明価格を調べ、その上で実店舗での販売実験を行った結果、表明された意識と行動の差異があることを明らかにし、循環型農産物の流通拡大の戦略を得た。
3)循環型農園のゼロ・エミッションの受け皿としての展開(内容省略) 
4)有機物の代謝マネジメントの類型化(内容省略)
(3)都市集積更新研究
 都市の構造物とそれに付属した装置や製品の供給、運用(利用)、および解体・廃棄の過程を通して、環境負荷を製品のライフ(物としての生涯)を通じて小さくする戦略的な方向性を示して、その循環形成の効果を明らかにした。
1)都市構造物とその部材の製品連鎖マネジメント
 動脈側の生産システムに関する施策、静脈側の再生システムに関する施策、構造物の供用・維持・管理システムに関する施策の代替的なオプション体系を構築して、コンクリートの再生骨材利用、環境配慮型設計としてのフレキシブル・インフィル設計、メンテナンスによる長寿命化による環境効果を明らかにした。
2)都市ライフサイクルの環境負荷評価プログラムの構築
 都市や地区スケールで、幅広い施策を将来の更新をシナリオで描いて、そのうちでも効果的と判断される施策を先導的に誘導するための、都市構造物を対象とするライフサイクルの環境負荷の算定プログラムを構築した。
3)都市空間の代謝マネジメントでの施策オプションのフレーム(内容省略)
4)都市における長期的な都市空間構造の誘導による環境負荷削減効果(内容省略)
2.循環複合体の統合研究
 循環複合体のコンセプトを一般に展開するために二つの研究をおこなった。循環複合体の評価研究では、ライフサイクル・アセスメントと環境効率を中心とする定量化の算定と指標のツールを構築している。さらに、公益機能を含む環境費用を関係主体に配分して、具体的な連携と組織構成の方向性を描くために、循環の効果と費用を主体別に割りふる環境会計と環境勘定の体系を構築した。
 企画研究では、循環複合体構築の支援システムとして、事業所や自治体が資源循環の材料、製品、装置、そして再生用途などを含んで、ユーザーが循環型のシナリオの代替案を選択していくプロセスのフレームを作成し、それを手順書(ガイド)として構築した。開発したガイドは、3つの実験地で代表的な指標製品をとりあつかった例を具体的に示しつつ、循環構築の意思決定をみちびくフレームをユーザーに示したうえで、利用者が構想と計画の要素を入力して、代替的なシナリオを構築し、その環境効率や事業費用を評価するといったツールを合わせ持っている。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 本研究では、産業工場循環、農工連携循環および建設物を対象とする都市集積更新などのカテゴリーごとに多くの事例研究が精力的になされた。これらのケーススタディについては十分評価できる。国内外学会における発表、論文投稿などは適切に行われた。
 標準化、判断基準などについて若干不満足な点があるが、研究成果は良く取り纏められている。ただし、ツールの開発を強調し過ぎて全体として何が研究成果なのか大変見えにくくなった点が残念であった。
 研究論文としては、国内59件、海外14件をみている。また、本研究成果を7分冊(CD−ROM化も併せて実施)に印刷し関係者に提供した。今後、この方面の研究に大いに役立つことを期待したい。また、研究成果の公表は、3項に記すワークショップ、シンポジウムのほかに、研究代表者らによる8回にわたる講演等により行われている。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 本研究は、科学的、技術的には良く検討されている。循環型社会の実際の骨格はまだ明確ではないため、この分野において今後の基礎を構築したという観点から評価したい。しかし、研究途中過程において研究の範囲が広すぎるとの指摘があったが、この傾向が最終まで続いたのは残念であった。
 循環システムが社会的に進化・発展する様子を適切に把握するためには、評価の道具を開発し、その必要な情報を社会的に統計として獲得しうるように整備することが必要である。
 この意味で、本研究で公表した多くの研究成果物とその中に含まれるライフサイクル・アセスメント、環境効率を中心とする定量化算定と指標などのツール、また、それらを自治体や事業所が循環型のシナリオを選択していくための手順書(ガイド)などが、今後のこの分野で大いに活用されることを期待したい。
 本研究で取り上げた研究課題は、今後、社会的要請は高まると判断できるので、将来の実用に向け、システム、法制度、経済性などを加味した総合的な手法への展開が期待される。すなわち、わが国では、循環型社会の構築を目指して物質収支からみた廃棄物削減やリサイクルへの取り組み、循環型社会形成にむけた法的枠組みへの取り組みなどを進められている中で、本研究がインパクトを与えることを期待したい。
 研究代表は、幸いにも、日本各地の環境指向社会作りに指導的役割を果たしており、本研究のコンセプトの具体化への努力を期待したい。
4−3.その他の特記事項
 本研究では、農工、産業、都市グループごとにミニワークショップを開催し成果を関係者に公表してきた。これらは、合計7回に及んでいる。
 研究成果全体は、研究期間の中間での国際シンポジウム(大阪大学)、期間の最後において終了シンポジウム(ひょうご国際プラザ)を通じて適切に関係者に公表された。

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