本研究は当初、都市活動から排出される廃棄物のエネルギー化・再資源化を図る上で、物質循環が可能である有機性廃棄物および廃プラスチックに焦点を絞り、エネルギー化・再資源化技術の開発を行うとした。有機性廃棄物は水素発酵プロセスで水素ガスを回収し、残渣は生物学的重金属除去工程で重金属を除去した後にコンポスト化することを狙ったが、有機性廃棄物から水素発酵を持続的に行なわせるには至らず、まず対象をオカラに限定して水素発酵に取り組んだ。このプロセスでは、第1水素生成槽に有機性廃棄物を投入、水素ガスを回収した後、残渣をコンポスト工程に投入する。コンポスト工程では、コラゲナーゼなどの酵素を添加して、難分解性物質の分解を促進させる。第1水素生成槽から流出した有機酸およびアルコールを含む排水は、第2水素生成槽において、光合成細菌が有機酸およびアルコールを分解して水素を発生させる。第1水素生成槽および第2水素生成槽から回収された水素はエネルギー回収率理論値42.9%に対し、実験値16.9%を得ている。廃プラスチックは、高温NaOH水溶液を用いた混合廃プラスチックの湿式処理により、ダイオキシン等の有機塩素化合物の副生を伴わずに、塩素系プラスチックの脱塩処理が可能であることを明らかにした。PET 樹脂は加水分解により、原料モノマーであるテレフタル酸に化学転換する。塩ビ材料に可塑剤として添加され、環境ホルモンであるフタル酸エステルをフタル酸とアルコールに加水分解できることを明らかにした。本処理法では、重金属は容易に浸出する。 |
(1)有機性廃棄物の水素発酵 |
コンポスト工程を導入した二相式水素生成プロセスの開発を行った。第1水素生成槽では、主に炭水化物の分解過程から水素が生成される。揮発性脂肪酸、乳酸、アルコールなどの代謝産物は、第2水素生成槽において、紅色非硫黄光合成細菌を主とする混合培養系により分解され、水素が生成される。繊維物質など難分解物質残渣は酵素添加の高温コンポスト工程によって分解を促進する。有機性廃棄物に含まれる重金属検知のための遺伝子センサーを水銀について略見通しを得た。
オカラ、フスマ、米糠、厨芥、製麺工場排水などの有機性廃棄物からの嫌気性細菌による水素発酵について検討した。このとき、それぞれ 2.54、1.73、1.29、0.35、1.47mol / mol-hexoseの水素収率が得られた。pHに関しては、最適pHはそれぞれ8.0〜9.0、5.0〜5.5であることを見出した。 オカラからの水素発酵を行った際、水素発酵から乳酸発酵に転じて水素発酵が停止する水素発酵阻害の抑制として低温熱処理(60〜90℃)の有効性を確認した。光合成細菌による水素生成に関しては、実用性の観点から低級揮発性脂肪酸を主成分とした非滅菌人工基質を用いて、紅色非硫黄細菌を主とする光合成細菌混合微生物系による連続的水素生成に成功した。青色光の照射によって、光合成細菌の増殖を阻害する酸素発生微生物の増殖が抑制されることを見出した。 |
(2)水素発酵残渣のコンポスト化 |
難分解性有機質としてコラーゲンと脂質にターゲットを絞り、これらの有機質の分解を高温条件下で長期間にわたって安定に作用する耐熱性酵素を幅広く探索した。その結果、土壌から耐熱性コラーゲン分解酵素生産菌を、また当研究室の保存株から耐熱性コラーゲン分解酵素をそれぞれ見いだし、その遺伝子を取得した。耐熱性コラーゲン分解酵素遺伝子をクローニングしてその1次構造を明らかにした結果、これまで例のない、新しいタイプのコラゲナーゼであることを明らかにし、特許出願した。 |
(3)重金属を検知する遺伝子センサーの開発 |
水銀耐性を獲得するための一連の遺伝子群(Mercury resistance module)はトランスポゾン上に存在することを明らかにした。トランスポゾンまたはイントロンを細菌種間で水平伝達させることによって、実際の汚染環境中およびバイオリアクター中で本来その中に生息する細菌に水銀除去遺伝子等を転移させて浄化機能を発現させる方法として、新たにIn-vitro分子育種法という技術概念を特許出願した。 |
(4)廃プラスチックのエネルギー化・再資源化 |
高温NaOH水溶液を用いた混合廃プラスチックの湿式処理により、ダイオキシン等の有機塩素化合物の副生を伴わずに、塩素系プラスチックの脱塩処理が可能であることを明らかにした。PET 樹脂は加水分解により、原料モノマーであるテレフタル酸に容易に化学転換が可能である。また、塩ビ材料に可塑剤として添加され、環境ホルモンであるフタル酸エステルをフタル酸とアルコールに加水分解できることを明らかにした。本処理法では、重金属は容易に浸出する。 |