研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
新世代型低負荷環境保全技術による廃棄物のエネルギー化・再資源化
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者野池 達也東北大学大学院 工学研究科 教授
主たる研究参加者高畠 寛生東北大学大学院 工学研究科 助手
 水野 修東北大学大学院 工学研究科 助手
 遠藤 銀郎東北学院大学 工学部 教授
 西野 徳三東北大学大学院 工学研究科 教授
3.研究内容及び成果
 本研究は当初、都市活動から排出される廃棄物のエネルギー化・再資源化を図る上で、物質循環が可能である有機性廃棄物および廃プラスチックに焦点を絞り、エネルギー化・再資源化技術の開発を行うとした。有機性廃棄物は水素発酵プロセスで水素ガスを回収し、残渣は生物学的重金属除去工程で重金属を除去した後にコンポスト化することを狙ったが、有機性廃棄物から水素発酵を持続的に行なわせるには至らず、まず対象をオカラに限定して水素発酵に取り組んだ。このプロセスでは、第1水素生成槽に有機性廃棄物を投入、水素ガスを回収した後、残渣をコンポスト工程に投入する。コンポスト工程では、コラゲナーゼなどの酵素を添加して、難分解性物質の分解を促進させる。第1水素生成槽から流出した有機酸およびアルコールを含む排水は、第2水素生成槽において、光合成細菌が有機酸およびアルコールを分解して水素を発生させる。第1水素生成槽および第2水素生成槽から回収された水素はエネルギー回収率理論値42.9%に対し、実験値16.9%を得ている。廃プラスチックは、高温NaOH水溶液を用いた混合廃プラスチックの湿式処理により、ダイオキシン等の有機塩素化合物の副生を伴わずに、塩素系プラスチックの脱塩処理が可能であることを明らかにした。PET 樹脂は加水分解により、原料モノマーであるテレフタル酸に化学転換する。塩ビ材料に可塑剤として添加され、環境ホルモンであるフタル酸エステルをフタル酸とアルコールに加水分解できることを明らかにした。本処理法では、重金属は容易に浸出する。
(1)有機性廃棄物の水素発酵
コンポスト工程を導入した二相式水素生成プロセスの開発を行った。第1水素生成槽では、主に炭水化物の分解過程から水素が生成される。揮発性脂肪酸、乳酸、アルコールなどの代謝産物は、第2水素生成槽において、紅色非硫黄光合成細菌を主とする混合培養系により分解され、水素が生成される。繊維物質など難分解物質残渣は酵素添加の高温コンポスト工程によって分解を促進する。有機性廃棄物に含まれる重金属検知のための遺伝子センサーを水銀について略見通しを得た。
 オカラ、フスマ、米糠、厨芥、製麺工場排水などの有機性廃棄物からの嫌気性細菌による水素発酵について検討した。このとき、それぞれ 2.54、1.73、1.29、0.35、1.47mol / mol-hexoseの水素収率が得られた。pHに関しては、最適pHはそれぞれ8.0〜9.0、5.0〜5.5であることを見出した。 オカラからの水素発酵を行った際、水素発酵から乳酸発酵に転じて水素発酵が停止する水素発酵阻害の抑制として低温熱処理(60〜90℃)の有効性を確認した。光合成細菌による水素生成に関しては、実用性の観点から低級揮発性脂肪酸を主成分とした非滅菌人工基質を用いて、紅色非硫黄細菌を主とする光合成細菌混合微生物系による連続的水素生成に成功した。青色光の照射によって、光合成細菌の増殖を阻害する酸素発生微生物の増殖が抑制されることを見出した。
(2)水素発酵残渣のコンポスト化
 難分解性有機質としてコラーゲンと脂質にターゲットを絞り、これらの有機質の分解を高温条件下で長期間にわたって安定に作用する耐熱性酵素を幅広く探索した。その結果、土壌から耐熱性コラーゲン分解酵素生産菌を、また当研究室の保存株から耐熱性コラーゲン分解酵素をそれぞれ見いだし、その遺伝子を取得した。耐熱性コラーゲン分解酵素遺伝子をクローニングしてその1次構造を明らかにした結果、これまで例のない、新しいタイプのコラゲナーゼであることを明らかにし、特許出願した。
(3)重金属を検知する遺伝子センサーの開発
 水銀耐性を獲得するための一連の遺伝子群(Mercury resistance module)はトランスポゾン上に存在することを明らかにした。トランスポゾンまたはイントロンを細菌種間で水平伝達させることによって、実際の汚染環境中およびバイオリアクター中で本来その中に生息する細菌に水銀除去遺伝子等を転移させて浄化機能を発現させる方法として、新たにIn-vitro分子育種法という技術概念を特許出願した。
(4)廃プラスチックのエネルギー化・再資源化
 高温NaOH水溶液を用いた混合廃プラスチックの湿式処理により、ダイオキシン等の有機塩素化合物の副生を伴わずに、塩素系プラスチックの脱塩処理が可能であることを明らかにした。PET 樹脂は加水分解により、原料モノマーであるテレフタル酸に容易に化学転換が可能である。また、塩ビ材料に可塑剤として添加され、環境ホルモンであるフタル酸エステルをフタル酸とアルコールに加水分解できることを明らかにした。本処理法では、重金属は容易に浸出する。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
論文発表(国内誌10件、国際誌81件)、招待、口頭講演(国内100件、国際50件)特許(国内4件、海外2件)等、数多くの論文を通じて主要な成果を発表している。
当初の研究目標である有機性廃棄物からのエネルギー回収と言う点では十分な成果をあげることが出来なかった。オカラを対象とする研究はその1ステップに過ぎず、エネルギー的にも意味のある結果が出たとはいえない。
発酵と光合成を組み合わせた2相式プロセスで水素生成を試みたが、エネルギー収支やコスト的な側面からも、エネルギー回収の実際技術として活用される目途を得るには至っていない。
高温コンポスト化や、水銀を中心とする、耐性遺伝子群の水平伝達など、要素技術的にはいくつかの成功が見られるが、廃棄物処理の観点から、コンポストや水素生成に関する合理的かつシステム的な目標を設定し、それぞれの課題を解決して統合し、有機性廃棄物処理のシステム技術とすることが必要である。
水俣湾から採取した水銀耐性菌のトランスポゾン上におけるイントロンや水銀耐性遺伝子merオペロンの存在を世界ではじめて明らかにしたがその論文がGENE(1999,234,IF2.461)に掲載され、米国やロシアアカデミーの著名な科学者のリファレンスを受けている。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 水素発酵の乳酸菌による阻害、光合成細菌の水素生成における、青色光照射効果など、いくつかの発見が報告されているが、特筆すべき新事実の発見とはいえない。コラーゲン等の蛋白系高温コンポスト菌の単離は、難分解有機廃棄物コンポスト化の有効な手段として特許出願している。又、遺伝子水平伝達を環境浄化または有害物質処理に応用する新しい概念を特許出願している。
4−3.その他の特記事項
なし

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