1) |
可逆的な色変化を示すサリチリデンアニリン結晶の準安定な着色体の分子構造(これまで長年に亘ってその構造が論議されてきた)を決定した。 |
2) |
ルテニウムニトロシル錯体は、光照射によって寿命の長い準安定状態が生成することが分光学デ−タから明らかにされていたが、ルテニウムに結合したニトロシル基が(Ru-NO)から(Ru-ON)へと結合の組み替えを起こしているためであることを見いだした。 |
3) |
高分子ラジカル重合開始剤として使用されてきたヘキサアリ−ルビイミダゾ−ル(HABI)類は光照射により、非常に活性で不安定なHABIラジカルを生成する。この単結晶に低温下で光照射を行いながらX線回折デ−タを収集して、活性ラジカルの構造解析に成功した。 |
4) |
さらに反応性に富んだ不安定な三重項カルベンとニトレンを取り上げた。ジフェニルジアゾメタンの結晶に可視光を80 Kで照射しながらX線回折デ−タを収集して、三重項カルベンを初めて観測することに成功した。さらに、芳香族アジド化合物の結晶からは、光照射で脱離した窒素分子とニトレン分子の構造が見つけられた。低温下で光反応させながら結晶解析するという方法によって、不安定活性種の構造解析が可能になった。 |
5) |
これらの不安定構造の解析の手法を使って、比較的安定な励起状態として知られる白金錯体の励起構造の解析に挑戦した。この錯体は、2個の白金原子を4個のホスフィン酸で架橋した白金錯イオンであるが、可視光照射で励起して白金−白金結合距離が短くなると予想されていた。この結晶にキセノン光を照射しながら回折デ−タを集めて構造解析を行ったところ、得られた構造はPt-Pt間距離が照射前に比べて有意差をもって減少しており、光照射を止めると可逆的に戻ることが判明した(海津グル−プと共同)。このように励起構造を解析する道筋が見えてきた。 |
MSGCを開発して、放射光で分子の励起構造の解明をするという当初の目標までは到達できなかったが、主要な部分は達成しているので、1、2年内にも目標が達成できると確信している(現在装置に関しては委託開発中)。今後、放射光を利用したデ−タ測定の方法論を確立し、さらに精密解析法を開発すれば、さらに広範な結晶で励起構造の解析が可能となるであろう。また、MSGCあるいはMPGCをX線だけでなく、中性子線やγ線などにも適用範囲を広げ、構造解析の検出器としてだけでなく、迅速画像処理装置として応用すれば、医療用や工業用に発展させることも可能である。それらの開発のための下地は充分用意できた。