研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
免疫系と神経・内分泌系の立体的分子機構の解明
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 奥村 康 順天堂大学医学部 教授
主たる研究参加者 内匠 透 神戸大学医学部 講師
西村 裕之 桐蔭学園大学工学部 教授(〜平成11年3月)
鶴井 博理 順天堂大学医学部 助手
3.研究内容及び成果
 生体のホメオスタシス維持機構は、従来神経系と内分泌系が中心であると考えられてきたが、近年さらに免疫系が大きく関与していることが明らかになってきた。本研究は、免疫系と神経・内分泌系の相互作用に分子論的根拠を与え、その機構を明らかにすることを目的として、免疫・神経・内分泌相互機能解析グループ、特定機能遺伝子取得グループ、細胞の高次構造解析グループの三つの研究グループを組織して研究を遂行し、以下の成果を挙げた。
(1) 免疫・神経・内分泌相互機能解析グループ(順天堂大学医学部 奥村、神戸大学医学部 内匠)
 免疫系のみならず、神経系・内分泌系にも広く発現しているTNF/TNFRファミリー分子の生理的、病理的機能を明らかにすることにより、免疫系、神経系及び内分泌系のクロストークを解析し、以下の成果を挙げた。
1) マウスOX40Lに対するモノクローナル抗体を作製して、マウス実験脳炎モデルへ抗体を投与すると神経症状が著明に改善され、これは神経組織への細胞浸潤の抑制によるものと考えられた。また、OX40を介するシグナルがCD28非依存的にT細胞に補助シグナルを導入すること、寄生虫感染モデルであるリーシュマニア感染症におけるTh2タイプのサイトカイン産生にはOX40/OX40L相互作用が必須であることを明らかにした。
2) 実験肝炎モデルであるConA肝炎で、FasLがConAの投与によって肝臓のNKT細胞に選択的に速やかに誘導され、これが肝炎発症のエフェクター分子であることが明らかになった。
3) TNFファミリーに属し、アポトーシスを誘導するTRAILとTWEAKのモノクローナル抗体を作製し、TRAILはIFNα/β+抗CD3抗体刺激によりT細胞上に発現誘導されるの対し、TWEAKはIFNγによって刺激された単球上に選択的に発現誘導されること、両者ともに正常細胞には細胞障害活性を示さないが、腫瘍細胞には強い障害活性を示すことを明らかにした。また、マウスにおいてはIL-2やIL-15により刺激されたNK細胞にTRAILの発現が誘導されるが、肝臓のNK細胞では未刺激でも恒常的にTRAILが発現していて、それはINFγに依存していること、種々の癌細胞の肝転移に対する抑制因子としてTRAILが機能していることを明らかにした。
4) 同系腫瘍細胞にFasLやCD40L遺伝子を導入し、腫瘍が拒絶されることを明らかにした。FasL遺伝子導入細胞での拒絶は好中球によることが示され、Fas/FasL相互作用がアポトーシスを誘導するだけでなく、炎症反応を惹起することを初めて明らかにした。一方、CD40L遺伝子導入細胞での拒絶は、CD40陽性細胞である樹状細胞により産生されるIL-12を介していることを明らかにした。
5) TNFRファミリーの下流に存在するTRAF5欠損マウスを作製し、このマウス由来のB細胞やT細胞では、CD40やCD27を介する活性化に障害が認められることを明らかにした。更に、TRAF2/TRAF5の二重欠損マウスを作製し、このマウス由来の胎児線維芽細胞では、TNFによるNF-κBの活性化に顕著な障害があることから、TNFによるNF-κBの活性化はTRAF2とTRAF5が担っていることが明らかになった。また、TRAF2/TRAF5二重欠損マウスの胎児線維芽細胞は、TNF誘導性細胞死に対する感受性が亢進していることが示されたので、レトロウイルスベクターで構築したcDNAライブラリーを遺伝子導入して、TNF存在下で生存してくるクローンを解析し、新たな抗アポトーシス遺伝子を見出した。
6) 時計遺伝子として有名なショウジョウバエperiodの哺乳類ホモログper1を同定し、脳内の視交叉上核に時間特異的に発現すること、更にper遺伝子ファミリー2個を単離し、ショウジョウバエでは見られない時計遺伝子の分子多様性が存在することを見出し、その機能解析を行った。
7) IL-1α、IL-1β、IL-1α/β、及びIL-1ra(レセプターアンタゴニスト)遺伝子の欠損マウスを作製し、IL-1の種々ストレス応答における生理的役割や疾患モデルにおける役割を明らかにした。
8) 自己抗体産生B1細胞の選択、異常増殖、分化、成熟のメカニズムを明らかにするため、SLEモデルマウスを用いて連鎖解析を行い、B1細胞の異常増殖には複数の遺伝子領域の関与が示唆され、それらの遺伝子座を同定した。
(2)特定機能遺伝子取得グループ(桐蔭学園横浜大学 西村)
 神経・免疫系から分離される少数の細胞試料を対象にしたcDNAサブトラクション法を確立するための基礎的検討を行った。
(3)細胞の高次構造解析グループ(順天堂大学医学部 鶴井)
 細胞の高次機能を解析するためのシステムとして、組織を対象とした6色以上の多色蛍光イメージング法の開発を目標とした。そのために、1)フーリエ画像分光と数値解析によるスペクトルの波形分離というシグナル分離法の確立、2)適切なスペクトルの分布を持つ色素の組み合わせの選定、3)色素のグループ分け、同時励起、スペクトル取得を行うためのフィルターの設計、4)ラベル化された抗体ライブラリーの整備が必要で、これらの課題を達成することにより、7色の組織蛍光イメージング法を確立した。本手法をマウス脾臓でのマクロファージ、樹状細胞サブセットの組織内分布、抗原情報の伝達経路、ジャーミナルセンターの詳細な構造解析に利用した。更に、本手法のmRNAを対象としたin situ hybridizationへの拡大・適用を検討している。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 前述の研究成果は、海外の主要学術誌に51件の投稿論文として発表され、その主要なものは、Nature Medicine 2報、Immunity 1報、Molecular Cell 1報、Journarl of Experimental Medicine 6報、EMBO Journal 2報、Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 6報、Journal of Neuroscience 1報、Blood 4報、Journal of Biological Chemistry 3報、Journal of Immunology 14報、AIDS 1報、European Journal of Immunology 3報、Genes to Cells 2報等で、質量共に評価できる。特に、TNF/TNFRファミリー分子に対するモノクローナル抗体を世界に先駆けて作製し、抗体を用いたこれら分子の生理的・病理的な役割を解明し、発現調節機構を解明したこと等、科学的成果を踏まえつつ臨床応用を視野に入れた質の高い研究がなされ、国際的にもインパクトは大きい。
 学会での発表は国内学会85件、国際学会15件で、その中には招待講演4件が含まれる。
 特許は、国内出願2件、外国出願1件である。
 研究開始当初は、壮大な構想のもとに多くのグループメンバーが参加し、分散的で研究の目標が定かではなかったが、その後テーマを絞り込んで臨床を目指した基礎研究を推進して、有為な成果を挙げた。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 TNF/TNFRファミリーは、免疫学の中でも重点が置かれて研究されている分野で、癌や自己免疫疾患、その他の難病等への臨床応用と直結しており、実用的な面での期待度は大きい。研究代表者は1999年のISI Citation Laureate Awardを受賞した。これは、研究代表者が著者になっている論文の引用回数が非常に多く、学会に影響が大きかったことを表している。このように本研究の成果は国際的にも高く評価されているが、この研究分野に新たな概念を導入するようなインパクトの非常に大きい新知見は無く、質量ともに優れた成果でありながら独自性にやや欠けている。

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