研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
汎生物高速遺伝子同定法の開発と遺伝的背景を支配する遺伝子群への応用
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 林崎 良英 理化学研究所ゲノム科学総合研究センター プロジェクトディレクター
主たる研究参加者 谷畑 勇夫 理化学研究所RIビーム科学研究室 主任研究員
日下部 守昭 理化学研究所遺伝基盤研究部 副主任研究員
十川 好志 (株)島津製作所ライフサイエンス研究所
3.研究内容及び成果
 研究代表者らは、制限酵素の認識サイトをランドマークとし、ゲノム上の2,000以上の座位を同時に検出するrestriction landmark genomic scanning(RLGS)法を開発し、それをベースとして任意の生物の任意の突然変異体の原因遺伝子を高速に単離することを目的とした、第一世代のRLGSポジショナルクローニング法を確立してきた。本研究プロジェクトにおいても、新世代の高速ゲノム解析技術が不可欠であると判断し、高速に塩基配列を決定するシステム、高速にゲノムの多数の座位(転写単位)をスクリーニングし標的の遺伝子を同定する技術開発を目標とし、研究を進める構想を立てた。
 また、標的遺伝子としては、医学の分野では単一遺伝子によって発症する10大遺伝病の原因遺伝子は既に単離同定され、21世紀には成人病や癌にかかりやすさを支配する形質などの遺伝的背景をコントロールする遺伝子群がもっとも重要であると考えた。
 本プロジェクトでは、ラフマップまでをRLGS、cSNP等のゲノムスキャニング法を用いて位置同定を行い、その後大規模遺伝子エンサイクロペディアを用いて数10から数100の候補遺伝子をスクリーニングする方法を採用することに決定した。
 まず、表現形質の原因遺伝子をラフマップ、その後、@染色体上の位置情報、A発現情報cDNAマイクロアレイ、B完全長cDNA構造からの機能予測を用いて候補遺伝子のリストアップを行い、ポジショナルキャンディデートクローニングを行うシステム開発を目的とする。具体的には、(1)高速シーケンシングのシステム確立、(2)大規模遺伝子エンサイクロペディアの作成(理研ゲノムプロジェクトとの共同)、(3)高速ゲノムスキャニング法の開発、(4)表現形質と原因遺伝子の結びつけ(ポジショナルキャンディデートクローニング)を行い、動脈硬化、糖尿病、高血圧などの成人病や癌にかかりやすさを支配する形質などの遺伝的背景をコントロールする遺伝子を標的とした。
(1)高速シ−ケンサ−の開発(林崎グループ、島津製作所グループ)
 これまでのシ−ケンス法とは異なる独自のシ−ケンス反応系を確立し、高速大量シ−ケンス技術の構築のため、384検体を同時にしかも高速に処理できるキャピラリ−シ−ケンサ−を開発した。1997年10月にRISA T(プロトタイプ1号機)2台を製作し、1台をRISA U開発用、1台をデ−タ生産パイロットスタディ−用とした。完全長cDNAの量産から1passシ−ケンスによるcDNAの分類までのシステムを1998年4月に稼動開始することができた。また、1998年11月にRISA U10台を製作し、大規模エンサイクロペディアプロジェクトで実際に稼動している。RISA UはRISA Tの操作性を良くしたものであり、バッファ−交換やゲル充填等は自動化されたシステムである。RISAシステムの開発により、マウス全完全長cDNAを収集するマウスcDNAプロジェクトが急速に加速され、また、このRISAシ−ケンサ−は共同研究者である島津製作所より商品化されるに至った。
(2)RLGS法を用いた高速ゲノムスキャニング法の開発(林崎グループ、谷畑グループ)
 従来RLGS法では、X線フィルムにより32Pから放出されるβ線を検出しているが、この方法で読み取られる二次元RLGSパタ−ンにおけるスポットを比較する作業は、非常に労力と時間を必要とする。本研究グループでは、スキャナ−により読み出した二次元パタ−ンをコンピュ−タ−により比較するシステムを開発し、このシステムを用いてrecombinant inbred strainであるSMXAのRLGS解析を行った。またさらに、電気泳動ゲルからファイバ−シンチレ−ションにより直接β線を測定し二次元読み出しを行う検出器の開発を進め、種々の検討の結果、ゲルの実寸50 cm×50 cmをカバ−できる検出器を作製した。これら新しい検出・解析システムの実用化により、RLGS法をより高速化できることが期待されている。
(3)表現形質と原因遺伝子の結びつけ(林崎グループ、日下部グループ)
 RLGS法の応用型であるRLGS-M法を利用し、ゲノム上のDNAメチル化情報をスクリ−ニングすることにより、インプリント遺伝子の探索を行った。また、この結果とマウスcDNAエンサイクロペディアを利用したマイクロアレイによるインプリント遺伝子の探索を統合し、新生児一過性糖尿病の原因遺伝子の発見に成功した。また同じくRLGS-M法を用い、がん関連遺伝子と思われる新規遺伝子m1t 1の単離に成功し、この遺伝子ががん化に伴い発現が抑制されることを発見した。
 この他、遺伝解析を目的とし、マウス家系を導入、維持し、糖尿病(KKAY、KKAJ、KK、A/J、 PKW)について、疾病に関する遺伝的背景を支配する遺伝子座の同定を目指している。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 前述の研究成果は、論文として英文43件、和文39件発表された。うち1999年 Impact Factor Ranking のOriginal Journal 35位、Review Journal 30位までの雑誌に掲載された論文は以下の通り。
Nature 1報
Proc. Natl. Acad. Sci. USA 4報
 また、学会発表も国内学会55件、国際学会48件行われた。
 さらに、RISAシーケンサーの開発等に関して、特許出願も国内28件、外国23件行われた。
 特に、384本のマルチキャピラリ−シ−ケンサ−(RISAシ−ケンサ−)を備えたRISAシステムを開発し、釣菌からシ−ケンスまでを384フォ−マットで行ない、1日に50,000検体以上解析するシステムを構築可能とし、大規模エンサイクロペディアプロジェクトの進展に貢献したことは高く評価された。
 このような技術開発、データベースの構築を主体とする研究はオリジナルペーパーが出にくいものであるが、極めてpruductiveであることは学問の本質に沿う研究を続けたからであろう。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 本研究チームは、効率よくヒトやマウスの変異遺伝子を獲るテクノロジーを目指して、多くの貢献をして来た。その第一はRISA高速シーケンサーの開発であり、世界最初の384本キャピラリー型シーケンサーとなった。次に、以前に開発していたRLGSをDNAメチル化を指標として応用し、高速にインプリンティング遺伝子をクローン化する方法を開発し、それにより一疾病の原因遺伝子をクローン化した。この他、マウスcDNAエンサイクロペディア計画の中心としても活躍し、世界をリードしている。

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