研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
画素の小さいX線検出用CCDの開発
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 常深 博 大阪大学大学院宇宙地球科学研究科 教授
主たる研究参加者 北本 俊二 大阪大学大学院宇宙地球科学研究科 助教授
林田 清 大阪大学大学院宇宙地球科学研究科 助教授
小山 勝二 京都大学大学院理学研究科 教授
粟木 久光 愛媛大学理学部物質理学科 助教授
鶴 剛 京都大学大学院理学研究科 助手
山本 晃永 浜松ホトニクス(株)固体事業部 部長
宮口 和久 浜松ホトニクス(株)固体事業部
3.研究内容及び成果
 天体から来るX線の観測に用いる目的で、入射X線の位置・時刻・強度・エネルギー・偏光を同時に測定できる小画素のX線用CCD素子の開発を目指した。小画素であることから、基本的には位置と偏光が分かる。X線はエネルギーが高いので、光電吸収が起こると1つのX線光子が一度に多数の1次電子を発生する。逆にその電子数を測定することにより、入射X線のエネルギー(従って波長・カラー)が分かる。斯くして、小画素のCCD素子を用いてX線像、強度、カラー、更には直線偏光度が同時に測定できる。但し、X線用CCDには可視光検出用CCDの場合と比べて遙かに厚い空乏層を持つ良質のシリコン素材を用い、低雑音化を図って、偏光測定やエネルギー測定の精度を高めることが必要である。これらの要求を満たす素子を開発することによって、効率の良いCCDカラーX線撮像装置が作製できる。宇宙環境では、高い放射線レベルによってCCD素子に損傷が起きることから、その適切な対策法を開発した。
(1)大阪大学グループ
 浜松ホトニクス(株)の製造ラインで試作した小画素のX線用CCDの特性を、直線偏光単色ビームで調べた。また、21 mの長尺X線ビームを使い、メッシュ実験を始めとする計測技術を開発した。その為の偏光X線発生光源を開発した。当研究では、2、3 μmφの孔が等間隔に開いた銅メッシュをCCDの上に載せ、それを通して入射X線を感受することにより、入射位置が0.6〜0.7 μmの精度で決定できる「メッシュ法」を開発した。この方法により、画素サイズ8〜10 μm以下のCCDの開発を必ずしも必要としなくなった。
(2)京都大学グループ
 京都大学のタンデム加速器を使い、浜松ホトニクス(株)で試作したX線用CCDの放射線に対する性能劣化、及びそれに関する対策を研究した。宇宙環境でCCD素子に損傷を与えるのは主に入射して来るプロトンで、素子中に電子トラップのサイトを作る。このトラップサイトを別の電荷で占めさせて置けば良いことから、CCDに電荷注入ゲートを設けてサイトを埋める方法を考案した。実際に損傷を受けたCCDの性能が、この方法によりかなり回復することを証明した。
(3)浜松ホトニクス(株)グループ
 X線CCD素子の設計、製作、電気的試験は同社固体事業部の製造ラインを用いて行ない、8〜10 μm2のものを作製した。開発したCCDの雑音レベルは非常に低く、電子個数換算で3〜4個であり、エネルギー分解能も優れていて、6 keV付近で135 eVである。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 研究成果は論文(英文58件、和文29件)、口頭またはポスター(国際学会38件、国内学会70件)、特許出願(国際1件、国内3件)において外部に公表した。
 従来のX線CCDの最小画素は24 μm2であるが、当研究では8〜10 μm2のものを作製し、更に6 μm2のCCDを試作したが、飽和電荷量の低減、電荷転送効率低下を伴うので得策ではないことが判り、また「メッシュ法」の発明で位置分解能が著しく向上したことから、10 μm2程のもので充分であることになった。
 空乏層の厚さが50 μmのシリコン素材を開発した。これは可視光用に用いるものよりも10 倍厚い。開発したX線CCDは雑音レベルが低く、エネルギー分解能も優れている。受光面積の大きな素子の開発も目的の1つとして行なった。これでは24 μm2のCCDを1024×1024個並べた25 mm2の素子で、その3側面が隣と結合できる設計になっているので4個以上繋げて50 mm2以上の大面積のものにできる。
 宇宙線被爆で劣化したCCDの損傷を回復させる方法の発明は、CCDの実質上の機能を向上させる「メッシュ法」の発明と並んで、天体観測におけるX線CCDの有用性を飛躍的に高めるものである。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 当面の目的が天文学発展の為のX線CCD開発であると同時に、わが国のCCD作製技術の向上を兼ねて居り、学問と実用を兼ねた独創性に富む研究である。設定計画通りに目的を着実に達成してきた。
 入射X線の位置・時刻・強度・エネルギー・偏光が測定できる小画素X線CCD素子の開発と云う目的は達成した。衛星に搭載させたCCD撮像装置は、X線天文学の有力な武器となる。空乏層が厚い良質のシリコン素材の開発、低雑音レベルで小画素のCCD素子の開発、受光面積を大きくできる素子の開発等、当研究がわが国のX線用CCD作製技術の水準向上に果たした役割は大きい。将来はX線顕微鏡に利用されて、生物学にも貢献することになろう。当研究で開発した「メッシュ法」は、欧米の衛星搭載用CCDの特性測定に活用されている。

戻る