研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
衝撃波面形成過程と新化学反応プロセス
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 近藤 建一 東京工業大学応用セラミックス研究所 教授
主たる研究参加者 中村 一隆 東京工業大学応用セラミックス研究所 助教授
田村 英樹 東京工業大学大学院総合理工 助教授
吉田 正典 物質工学工業技術研究所 室長
田中 和夫 大阪大学大学院電磁エネルギー工学研究科、レーザー核融合研究センター 助教授
西原 功徳 大阪大学レーザー核融合研究センター 教授
実野 孝久 大阪大学レーザー核融合研究センター 助教授
3.研究内容及び成果
 衝撃により物質に圧力を加える衝撃圧縮はパルス的で、その圧縮波面近傍は超高圧、超高温、超加速度、さらにはそれらの空間的にも時間的にも大きな勾配を持った反応場になっていて、云わば未開拓の極限環境場である。本研究では、衝撃波面における励起機構・緩和機構を解明するために、赤外光からX線域にわたる新しい短時間・単発現象の診断技術の開発を行なった。また、レーザー衝撃によるテラパスカル(TPa、1000万気圧)台の圧力を実現・計測するための技術開発も行なった。
 当研究チームは東京工業大学、物質工学工業技術研究所、大阪大学の3グループから成るが、3グループ間の関係は極めて密で、全ての研究計画立案から実行まで合議・協力の上に行われた。
 本研究の主な課題として、近年のレーザー技術の発展を踏まえ、卓上型のレーザー照射による繰り返し衝撃圧縮と診断が可能な装置を開発した。新しい診断技術として、衝撃圧縮中のピコ秒時間分解型パルスX線回折と、ナノ秒時間分解型ラマン分光が可能になった。
 X線回折では、高出力フェムト秒レーザー光を2つに分岐させて、一方を試料に当てて衝撃波を発生させ、もう一方を金属に集光照射してピコ秒パルスX線を発生させて、衝撃波発生と同期したX線回折を行なう。実例として、レーザー照射によるSi結晶中の格子レベルの衝撃波面形成と緩和の空間的変化・進行を9 psの時間分解能で観察した。
 ラマン分光では、ナノ秒YAGレーザービームを分岐させて、一方を衝撃波発生用に、もう一方を2倍高調波のラマン光源用として、テフロン分子の過渡的な化学結合切断や、ベンゼン分子の過渡的配向と振動緩和の現象を観測した。
 レーザー光は10〜40μmφに集光できることから、エネルギー密度は1017 W/cm2レベルにまで高められる。微小領域の照射、診断ができることから、メゾスコピック・ドメイン・ダイナミクスとも言うべき研究分野への道が拓かれた。
 一方、大阪大学レーザー核融合研究センターの巨大レーザーをTa固体に当て、1.7 TPaの衝撃圧力の発生と計測を行なった。また、レーザー照射により衝撃圧力発生用のTa箔飛翔体を23 km/sまで加速させ、世界記録を打ち立てた。従来の衝撃銃を用いる衝撃実験も行ない、8.9 km/sを記録した。これは世界第2位である。超高圧衝撃圧縮実験の試料回収は通常困難であるが、円筒爆縮法により1 TPaに圧縮した物質(Maraging Steel)試料の回収に成功した。
 大規模の衝撃波シミュレーション技法を確立した。これにより実験データの内挿及び外挿ができ、また衝撃波面近傍における励起・緩和の挙動の詳細を推測することが可能になる。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 以下に示す主な成果を論文(英文50件、和文20件)、口頭またはポスター(国際学会52件、国内学会144件)、特許出願(国内4件)により公表した。
 主な成果としては、先ず1)卓上型レーザー照射装置の開発に取り組んでこれを完成させた。これを利用して、2)衝撃圧縮下の物質の格子定数が測定できるピコ秒時間分解能パルスX線回折装置、および格子振動が測定できるナノ秒時間分解型ラマン分光装置を作製した。また、3)数十μmφの極微小領域にレーザーを集光させることが可能となり、これによってエネルギー密度は1017 W/cm2のレベルに達した。4)レーザー光照射により1.7 Tpaの衝撃圧力を発生し、その圧力計測を行なった。また、レーザー光照射によりTa箔飛翔体を23 km/s迄に加速した。5)従来型の衝撃銃による飛翔体加速に於いても8.9 km/sを達成した。6)円筒爆縮法で1 TPaまで圧縮した試料の回収を行なった。これら実験的成果の他に、7)衝撃波シミュレーションの技法の確立した。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 爆薬等を用いる従来の大掛かりな実験手法から、レーザーを用いる卓上型のしかも繰り返し実験が可能な手法を開発した意義は大きい。これにより衝撃圧力、エネルギー密度が飛躍的に向上した。エレクトロニクス光学を駆使してのピコ秒分解能を有する現象診断技術の開発・確立は、特に優れた成果と言える。今後の衝撃波科学の進展に大きな貢献をすると思われる。また、シミュレーション技法の確立は、実験データの内挿外挿を可能にして研究の効率を高め、衝撃波面近傍における励起・緩和の挙動の詳細を推測することができる様になった。
 当研究チームは我が国の衝撃波研究分野において代表的存在であり、最新のレーザー技術や電子・光学技術の導入、優れた時間分解能を有する測定技術の開発、大規模のシミュレーション手法の確立等、同分野に著しい進展をもたらした功績は大きい。

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