研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
電子波の位相と振幅の微細空間解像
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 北澤 宏一 東京大学大学院新領域創成科学科 教授
主たる研究参加者 花栗 哲郎 東京大学大学院新領域創成科学科 助教授
N. Dragoe 東京大学大学院新領域創成科学科 講師
岸尾 光二 東京大学大学院工学系研究科 教授
下山 淳一 東京大学大学院工学系研究科 助教授
長谷川 哲也 東京工業大学・応用セラミックス研究所 助教授
外村 彰 日立製作所 フェロー
長我部 信行 日立製作所 主管研究員
3.研究内容及び成果
 本研究の目的は、将来に予想されるメソスコピック素子時代に遭遇する、コヒーレントな固体内電子波を微細解像する基盤観測技術を先駆けて開発し、また、その途上技術を用いて超伝導体中でのコヒーレンシーの観測を行うことにより、その有効性を実証することにある。位相と振幅という、不確定性原理により同時に精密決定できない量の両者を微細精密に解像するための手段として、位相観測のための電子干渉顕微鏡と振幅観測のための原子位置指定トンネル分光装置開発を目指してきた。具体的には電子線干渉顕微鏡については従来の3倍の加速電圧を有する1 MV型の開発を推進し、原子位置指定トンネル分光装置は分解能の限界を目指して、極低温−超高真空−強磁場下での観測を可能とした。一方、それらに並行して物質開発面では、より高温で高臨界電流性能を示す超伝導材料開発を進めるとともに、その指針となる経験則を導き、観測を有意義にすることに努めてきた。
(1)北澤グループ
 原子位置指定トンネル分光装置−超高真空・極低温(250 mK)・強磁場仕様−を完成させた。これを原型として同種装置の市販が国内で始まった。最大の困難は、振動の極限的除去と超高真空・極低温での試料調整及び交換とを両立させる点にあった。類似の装置は現時点では未だ他で達成していない。この原子位置指定トンネル分光装置を用い、高温超伝導体に含まれる不純物の原子像解像と、ミクロなピン止め中心となる析出物界面をよぎっての超伝導ギャップスペクトル変化の観測に成功した。
 高温超伝導体の磁束相図における相境界線の一般則を提唱した。これは、全ての銅酸化物系高温超伝導体を特徴付ける磁束格子融解線、不可逆磁場境界線、磁束構造の2次元−3次元クロスオーバー境界線のいずれもが、結晶格子定数と異方性定数を使って数式的に表わされることを実験的に示したものである。本法則により、高温超伝導体の臨界電流特性の予測が異方性係数に基づいてできるようになった。
 臨界温度・臨界電流ともに高い新たな高温超伝導体として、高濃度鉛ドープ・ビスマス系2212とレニウムドープ・水銀系1223の、2つの系を見出した。これらは実用上有望である。銅酸化物系以外の物質開発では、興味深い合成物としてC60を主鎖に含むホモポリマー及びダイマーのC121、C122を創製した。超伝導性との関連を含めて、これらの物質の物性に関する研究はこれからである。
(2)外村グループ
 1 MV電子線干渉型電子顕微鏡を開発した。これにより0.35 MVの既到達レベルから一挙に3倍の性能に引き上げ、また輝度を増して分解能とコントラストを向上させ、2000年に分解能の世界記録49.8 pm(線分解能)を達成した。この干渉型電子顕微鏡を用い、金属Nb薄膜での磁束挙動を中心に、そのダイナミクスを明らかにした。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 研究成果は論文(英文199件、和文25件)、口頭またはポスター(国際学会78件、国内学会207件)、特許出願(国際1件、国内10件)によって外部に公表した。成果は多数に上る。
 そのうちの主なものについて述べると、1)1 MV電子線干渉型電子顕微鏡及び原子位置指定トンネル分光装置の完成により、コヒーレントな固体内電子波を微細解像する為の基盤観測技術開発と云う、研究課題発足時の目標を達成した。これらを用いての線分解能世界記録達成、超伝導体内磁束挙動ダイナミクスの解明、高温超伝導体不純物の原子像解像、超伝導ギャップスペクトルの観測等を次々行なった。これらに加えて、2)高温超伝導体磁束相図における相境界線の一般則の発見、3)実用上有望な高濃度鉛ドープ・ビスマス系2212とレニウムドープ・水銀系1223の創製、4)フラーレン物質C60を主鎖に含むホモポリマー及びダイマーのC121、C122を創製、等を行なった。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 1 MV電子線干渉型電子顕微鏡及び原子位置指定トンネル分光装置の開発、高温超伝導体の磁束相図における一般則の発見、新たな2つの系の高温超伝導体の発掘は、いずれも世界的に注目されている、発展性の極めて高い成果である。
4−3.その他の特記事項
 上記の研究成果に基づき、「電子波の位相と振幅の微細空間解像手法の応用展開」として、基礎的研究発展推進事業の平成12年度研究課題に採択された。

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