研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
極限環境を用いた超伝導体の臨界状態の解明
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 門脇 和男 筑波大学物質工学系 教授
主たる研究参加者 小林 典男 東北大学金属材料研究所 教授
太刀川 恭治 東海大学工学部 教授
前田 京剛 東京大学大学院総合文化研究科 助教授
為ケ井 強 東京大学大学院工学研究科 助教授
松田 祐司 東京大学物性研究所 助教授
熊谷 健一 北海道大学理学部 教授
3.研究内容及び成果
 高温超伝導体は21世紀のエレクトロニクス素材として大きな期待を持たれているが、謎の多い物質で、その超伝導機構は未解明であることから、高温超伝導の基本概念の構築及び超伝導工学のシーズ育成のための研究を行なった。具体的には、研究の鍵を握る高品質単結晶の育成を行ない、それを用いて超伝導体に特有の量子磁束系の相図作成及び臨界状態における磁束系の静的・動的挙動を究明し、また、マイクロ波領域における超伝導と電磁場との強結合現象に関する詳細な研究を推進した。
(1)門脇グループ:YBa2Cu3Oy(YBCO)、Bi2Sr2CaCu2O8+y(BSCCO)
 当グループの研究の主題は、1)高品質・大型単結晶の育成、2)テラヘルツ・マイクロ波領域における超伝導と電磁場との強結合現象の解明、3)磁束状態におけるダイナミックスの研究、4)高温超伝導体の超伝導機構の解明と特性向上の研究、である。
 高品質・大型単結晶の育成は、物性の基礎ならびに応用の研究推進に極めて重要であり、過去十数年の豊富な経験と新型単結晶育成装置の導入により、Bi2Sr2CaCu2O8+y(BSCCO)を始め、RuSr2RECu2O8(RE:希土類元素)、RuSr2RE2-xCexCu2O10、MgB2等の単結晶を育成した。特にBSCCOでは、長さ数cm、幅8 mm、厚さ約0.2 mm程の大型板状の高品質単結晶を得た。大型・高品質単結晶は中性子散乱実験に使えて、磁気非弾性散乱、フォノンを含む格子系の非弾性散乱、中性子弾性散乱のほか、光電子分光、走査型トンネル顕微鏡観察、電気抵抗測定等で優れた実験的成果を挙げることができた。主題の2)、3)、4)の研究遂行も、大型・高品質単結晶を用いてなされた。
(2)小林グループ
 研究の目標は、高温超伝導体の渦糸の科学に関する総合的知見を得て、超伝導の現象論を確立することである。その具体的内容は、1)良質な単結晶を作製し、異方性や不規則性を制御する技術を開発すること、2)高感度、高精度の測定技術を開発し、渦糸の相図を確立すること、及びその発現のメカニズムを解明すること、3)各種輸送現象、磁束密度揺らぎ、スペクトロスコピーなど多様な手段を用いて渦糸のダイナミクスと電子状態を解明すること、4)マイクロ波共鳴吸収によってジョセフソン・プラズマ励起の性質を明らかにし、その応用の可能性を探るとともに、超伝導層間の位相差に敏感な性質を利用して磁束状態の解明を図ること、5)微小ホール素子や走査型トンネル顕微鏡観察技術の開発とそれを用いて磁束状態の観察を行うこと、であった。
 研究初期には1)、2)、4)が主要テーマとして推進され、特に2)、4)に関しては目覚ましい進展が得られて、かなりの部分が明らかにされた。後半では3)、5)が主要テーマとして遂行されて、目的をほぼ達成した。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 研究成果は論文(英文335、和文5)、口頭またはポスター(国際学会183、国内学会421)において外部に発表した。
 超伝導機構解明のため、主としてBi2Sr2CaCu2O8+y(BSCCO)、YBa2Cu3Oy(YBCO)を研究対象にし、この他にも有機超伝導体κ-(BEDT-TTF)2(NCS)2、YNi2B2C、Sr2RuO4 、CeCoIn5を用いた研究を行なった。BSCCOやYBCOの良質単結晶を用いて、高温超伝導体に内在するジョセフソン結合の本質に関わる実験、すなわち、直流ジョセフソン効果の観測、ジョセフソンプラズマの発見とその縦モード・横モードの分離、Anderson-Higgs-Kibble機構の実験的検証、磁束線格子融解現象に伴うC軸結晶面間の超伝導位相差の測定等を行い、この方面の研究で世界をリードしてきた。
 高精度の電気伝導、ホール効果、磁化測定、マイクロ波吸収・表面インピーダンス、比熱、熱伝導度測定など種々の物性測定を行ない、多彩な磁束系の相の存在や相転移を詳細に検証した。また、磁束格子融解過程を直接観察するための磁気光学的手法を開発した。低温・磁場中走査型トンネル顕微鏡を開発してYBCO結晶で原子像を観察し、原子位置を特定したエネルギー・ギャップの測定を行なった。
 このほか、育成に成功したBi2Sr2CaCu2O8+yの良質大型単結晶を用いて国際共同研究を広く行い、STMによる超伝導ギャップの観測、正常状態の擬ギャップの検証、光電子分光による超伝導ギャップのd波対称性の検証、中性子小角散乱を用いた磁束線格子の観察、磁束線格子融解現象の直接的検証、中性子非弾性散乱による磁気励起の実験等を行なって、高温超伝導体の物性の理解に大きく貢献した。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 高温超伝導体中のジョセフソン・プラズマに関しては世界に先鞭を付けた研究を行なってきており、大いに評価される。ギガヘルツ・テラヘルツ級の発振器の開発に繋がる可能性が有る。
 磁束系の相図作成及び静的・動的挙動に関する研究においても、世界的レベルの業績を挙げている。
 良質大型単結晶育成の成功は国際共同研究の推進に役立ち、優れた研究成果を多数もたらしている。
 筑波大学物質工学系をはじめ研究チームを構成するグループは、日本の超伝導研究を代表する優れた集団で、世界に注目される成果を数多く発表してきた。CREST研究で更に蓄えた実力から、今後とも我が国の超伝導科学をリードして行くことと期待される。

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