研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
微生物の機能強化による水環境修復技術の確立
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 前川 孝昭 筑波大学農林工学系 教授
主たる研究参加者 松村 正利 筑波大学応用生物化学系 教授
稲盛 悠平 国立環境研究所 総合研究官
宮崎 龍雄 千葉大学理学部 教授
中原 忠篤 筑波大学応用生物化学系 教授
3.研究内容及び成果
 水域の窒素汚染問題において、汚染水域の水環境修復を微生物の持つ機能の強化によって達成する浄化技術を開発した。遺伝子等の組換えを行なわず、微生物の持つ機能を最大に引き出す手法の開発を中心課題に設定した。
 新規な担体の考案としては、栄養塩を担体に抱括固定化させることによって、微生物へ微量金属や栄養塩を担体表面から除放させ、微生物の増殖を促進させた。メタン発酵では、中温菌から冷温菌の馴養による特性の変化ならびに機能強化を検討し、寒冷地用無加温メタン発酵の実用化の手掛かりを得た。さらに担体に関する発展として、常磁性体を混合させることでリアクターの安定運転のための制御を可能にし、固定床型バイオリアクターの特徴を改善した。積層網状体及び多孔性コンクリートブロックを浄化システムとして、茨城県江戸崎町の全長190 mの生活廃水路に設置し、浄化実験を実施した。窒素源、炭素源については満足すべき結果を得たが、処理が困難とされるリンに関しては、活性酸素を活用した電気化学的処理を開発援用して、ほぼ処理の目標を達成した。また、この担体を河川床に設置し硝化と脱窒を行なわせ、これに植物体(ホテイアオイ)を用いてリンとアンモニア態窒素の吸収を行なうことで、高い除去能力を併用させた。中国雲南省昆明市の冨栄養化湖の改善について国際共同実験を行ない、効果的な成果を収めた。また、嫌気性メタン発酵にも応用し、北海道別海町研修牧場において、40 m3のメタン発酵槽で40頭分の乳牛糞尿廃水を処理し、2年間の連続運転を行なった。
 以下にサブテーマ毎の成果について述べる。
(1)微生物機能強化のための誘導手法とその遺伝的固定化
1)中温メタン菌の冷温馴養過程の解析とその機能強化
 寒冷地におけるメタン発酵装置が使えるメタン菌の馴養を目標として、栄養塩を包括した担体を作製し、その表面に低温域から採取したメタン菌を付着させ、活性の維持を図りながら、低温での家畜糞尿廃水の固定床型メタン発酵処理を検討した。Methanosarcina とMethanothrix種を主とする馴養メタン菌において、担体を使用しないものに比して、メタン菌量とメタン活性が少なくともそれぞれ2.6倍、4.0倍になった。寒冷地型2相式メタン発酵装置の開発に本結果が活用されている。
2)冷温メタン菌によるCO2固定能力と最適培地の関係
 CO2/H2資化性メタン菌活性とビタミンB12含有濃度との関係を明らかにし、ビタミンB12の高効率生産を可能にした。
3)生物・物理・化学的因子の制御による微生物細胞の活性化・機能強化
 混合培養系の中で、微生物間の相互作用下での輪虫類と物理化学的因子との関係を解析し、輪虫類を生物処理反応槽へ高密度に定着させるための操作方法を開発した。
4)硝化・脱窒菌の遺伝子修飾による細胞機能強化
 増殖速度が速く分子育種が容易な従属栄養性硝化細菌の探索を行ない、硝化能と好気脱窒能を併せ持つ菌株の分子育種に成功した。
(2)点源汚染の微生物による水環境修復技術の確立
1)固定化硝化菌及び脱窒菌による硝化・脱窒速度の高効率化
 淡水及び海水系での硝化・脱窒で、多孔性セルロース担体及び起毛性担体(ポリエステル担体)の安定性と効率性を確保するための諸要件を確立した。メッキ工場排水の脱窒実験では最高脱窒速度20.4kg-N/m3-carrier/dに達した。
2)腐生連鎖を組み込んだ微生物群集の有機物分解機能強化
 活性汚泥及び生物膜にみられる腐生連鎖において、分解効率の高い特定種で構築した微生物生態系により、水質浄化機能の強化を図る。A. vulgarisの存在により、硝化細菌が活性化されることが明らかになった。
(3)生物間競合を利用した水環境修復技術
1)水環境修復用微生物機能強化混合培養システムの開発とその利用
 複数の微生物を同時に培養し、利用する"混合培養法"を確立するために、微生物混合培養系における微生物間相互作用の解析装置の開発を行ない、緑藻−細菌の混合培養系の解析では、クロレラとCC-1との直接接触や付着で、クロレラはゲル状粘着物質の体外への分泌を増大し、CC-1の増殖を促す事が判明した。
2)固定化硝化・脱窒菌の生態系利用による環境修復
 霞ヶ浦に流入する生活排水路に浄化施設を設置し、排水路中の微生物の機能を引き出し、硝化・脱窒機能を強化し、汚濁成分の除去効率向上を図る。窒素源については、全窒素の除去率で平成9年、平成10年、平成11年を通じて30%以上、また炭素源については、多孔性コンクリートブロック区に固定化担体を充填した除去率は42%〜58.3%に達するものとなった。
3)デン池水質改善用微生物固定化・水生植物併用型水質浄化装置実験
 富栄養化が著しく進行している中国の雲南省にあるデン池の「緑豆渠」で、生活排水の浄化を検討した。ホテイアオイを用いて、微生物固定化・水生植物併用型水浄化システムを構築した。アンモニア態窒素、亜硝酸態及び硝酸態窒素、全窒素の全般に渡り除去率60%強の安定した結果を得た。
4)生分解性樹脂の分解による硝化・脱窒菌の機能向上
 包括固定化法による廃水処理で、リアクター外部からの磁力操作で担体の浮上、リアクターの閉塞を解消した。また、電気化学的処理による酸化作用を応用して、有機廃水の処理法を開発し、メタン発酵脱離液は30分間で脱色できた。全リン、全窒素の除去率はそれぞれ66.7%、36.3%であった。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 担体表面に菌体を増殖させる基本的なアイデアを中心に、菌の機能強化及び安定化の工夫により、多様な廃水処理装置等、実用的な廃水処理を開発し、特許をかなり多数出願した。また、一部の研究成果については、実際の現場で展開が試みられている。
 単に国内の実験場にとどまらず、ハワイ、中国など、難度の高い処理実験を進め、本研究の応用範囲を広め、海外研究者との交流を通じて幅広い研究成果を獲得したが、本研究成果の実用への展開や、国内のみならず国際協力面での利用に道を開くものと評価できる。
 これらの研究成果は、論文発表として英文24件、和文20件、学会発表として国内学会58件、国際学会36件で報告された。また、特許も国内10件、海外9件出願された。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 河川汚染の微生物処理において、本研究の基本となる栄養塩包括担体は、簡単な構造で製法も容易な特徴を生かし、担体に磁性体を封入して操作性を向上させる等、担体自身のみならず多様な処理装置への展開が検討されており、応用上の可能性に対する見通しが豊富に得られている。水処理技術上の改良点が多く得られているので、河川処理技術への一定のインパクトとなり得る。本研究では、栄養塩包括担体を軸に、北海道別海町・北広島市、茨城県つくば市、江戸崎町、鉾田町及び中国雲南省デン池、米国ハワイ州ハワイ大学で、研究成果の廃水処理技術の組み合わせによる多様な廃水処理の実証試験を実施しており、実用的なデータが得られている点は実践的で評価できる。

戻る