研究課題別事後評価結果

1.研究課題名
自立型都市をめざした都市代謝システムの開発
2.研究代表者名及び主たる研究参加者名(研究機関名・職名は研究参加期間終了時点)
研究代表者 柏木 孝夫 東京農工大学工学部 教授
主たる研究参加者 細見 正明 東京農工大学工学部 教授
秋澤 淳 東京農工大学工学部 助教授
落藤 澄 北海道大学工学部 教授
横山真太郎 北海道大学工学部 助教授
3.研究内容及び成果
 先進国、発展途上国を問わず、人口は都市部に集中する傾向をみせている。日本におけるエネルギー消費の経年的傾向をみると、石油ショック以後産業部門の消費量が横ばい傾向であるのに対して、民生部門、運輸部門の消費量は単調増加の傾向を示している。今後のエネルギー消費や環境負荷排出の中心は都市部になると予測され、都市を環境調和型に移行させることが大きな課題と考えられる。
 そこで、本研究ではこれらの課題解決を目指し、@環境低負荷型都市を構築するための省エネ、省資源的要素技術の開発、A環境負荷特性を把握するためのシミュレーション手法の開発、B環境負荷型都市の計画立案を支援する都市シミュレータの開発、などの開発を目的とした。
 環境低負荷型の都市とは、内部でのリユース、リサイクルを進めることによって外部からのインプットを抑制する都市であり、その意味で自立性が従来の都市よりも高いものとして位置付けた。都市を一つの代謝系とみなす観点から、循環系をエネルギー、水、物質、大気の4要素とし、さらに生態系を含めた土地利用、インフラ整備の点から緑地や都市計画も要素として位置付けた。都市は、これらの要素が総合的に組み合わされたものであり、要素ごとの構造のみならず要素間のつながりが重要である。このような都市代謝系を包括的に分析するために、以下の項目ごとに要素別研究を行なった。
1)エネルギー関係
地域エネルギー供給システムの最適運用モデルの開発
集合住宅における電力使用実態の計測
ローエネルギーハウスの建設及び性能評価
2)水利用関係
雨水流出モデルによる雨水浸透施設の評価手法の開発
中水利用評価手法の開発
3)物質循環
廃プラスチック分別技術の開発
4)大気環境
樹木による大気汚染物質の除去効果の評価
5)緑地利用
緑地の環境性、アメニティ性評価手法の開発
6)都市計画関係
都市内交通流シミュレーションモデルの開発及び交通政策の環境負荷低減効果の評価
都市インフラのLCA評価手法の開発及び応用
 開発した都市シミュレータは、個別の要素技術に関しては環境負荷低減に資する技術を開発あるいは可能性を評価したもので、有望と見込めるものについてはその結果を技術的なパラメーターとして組み込んだものとなっている。本シミュレータでは、開発したシステム評価モデルを都市シミュレータに集約し、GISデータベースと連結して実際に利用可能なものとしてパソコン上に実現している。また、グラフィカルな表示機能を持ち、3次元画像による都市景観表示、各種シミュレーション結果の空間的な表示、アニメーション表示、施策シナリオ間の効果差分表示、環境負荷排出状況表示などを可能としている。
 グループごとの主な研究成果は、次の通りである。
(1)エネルギーシステムグループ
 コージェネレーションや低温排熱利用など都市でヒートカスケーディングを実現するための技術開発・評価としてカリーナサイクル、多段型吸着冷凍機、溶液輸送型吸収冷凍機、太陽集光用非結像フレネルレンズ、真空式氷蓄熱等に関する研究を行った。また、地域エネルギー供給システムモデルを構築し、最適解を導いた。エネルギー需要側の把握のため、集合住宅の電力消費実態調査を行い、専用部分だけでなく共用部分の消費実態を明らかにした。
(2)ハウス・蓄熱グループ
 太陽エネルギーや地中熱を利用して抜本的にエネルギー消費を抑制したローエネルギーハウスを北海道大学構内に実際に建築し、その性能を評価した。その結果、従来の住宅に比べ外部から投入されるエネルギーが1/8にできることを実証した。また、ハウス内空気質の測定等を行った。帯水層を利用した中長期蓄熱実験を行い、季節間蓄熱の効率として温熱61%、冷熱57%を達成した。さらに、ローエネルギーハウスの効果を北海道以外の地域に適用するためのモデル、帯水層蓄熱適地選択モデル、蓄熱利用評価モデル等を作成した。
(3)資源リサイクルグループ
 雨水再利用のための消毒技術、下水汚泥の消滅処理技術、下水処理水を利用した野菜・花卉栽培による高次処理技術を実証した。様々な樹木による大気汚染物質除去能力を実測し、樹種による特性の違いを明らかにした。また、中水利用を評価するための水利用サブモデルを作成した。
 廃ブラスチックの比重差選別機の性能評価を行い、実ゴミに対して十分な塩化ビニールの選別性能を実証した。また、一般廃棄物の処理・処分及びリサイクルを分析するモデルを開発した。
(4)ライフスタイル評価グループ  生活意識や居住環境と省エネ行動との関係性をアンケート調査によって定量化した。道路・鉄道・下水道など社会インフラ整備に関するLCAを実施するとともに、地域レベルを対象としたLCA評価サブモデルを開発し、パソコン上に実現した。
(5)都市計画グループ
 道路整備、共通需要抑制、大量交通機関利用など都市内交通政策が省エネ・環境負荷低減に与える効果を評価した。また、交通量推定サブモデルとして整備した。電気自動車、ハイブリッド自動車の走行状態をモデル化し、都市内走行シミュレーションによって燃費関数を推定した。
 緑地など土地利用の変更による都市内熱環境を実時間で計算できる熱環境シミュレーションモデルを開発したとともに、実測によりその妥当性を示した。
(6)都市シミュレータグループ
 GISデータベースを基盤とし、エネルギー、水利用、廃棄物、交通、雨水流出、熱環境、緑地アクセシビリティ、緑地連続性評価サブモデルを結合した都市シミュレータを設計、開発し、パソコン上に実現した。従来は分野別に計算していたのに対し、本シミュレータでは各サブモデルの結果を受け渡すことにより、統合的に環境負荷を計算する点が大きな特徴である。操作面では、マウスによって地区の選択や道路の追加などが容易に可能となっている。また、サブモデルの計算結果を2次元あるいは3次元的に空間表示することができる。ケーススタディ都市として八王子を選び、GISデータ、パーソントリップデータ、都市施設情報等を入力し、具体的な政策の評価を実施した。
4.事後評価結果
4−1.外部発表(論文、口頭発表等)、特許、研究を通じての新たな知見の取得等の研究成果の状況
 本研究では、エネルギー、交通、水、廃棄物などのいくつかのサブモデルとそれらを統合する都市シミュレータの開発が行なわれた。本研究は、都市シミュレータの開発し、その適用について新しい試みを目指したものである。
 本研究の課題である都市シミュレータの開発は、具体的には、環境低負荷型都市を設計するために次のような情報の統合することを目標とした。
@ 都市地理情報:GISデータ、建物情報
A 都市施設情報:河川、道路ネットワークデータ、都市施設立地
B 都市計画情報:人口、交通量、水供給処理量、環境指針
 要素技術の開発の面では、また、ローエネルギーハウス、低温水での冷凍機などについて技術開発とシミュレーションが行なわれた。これらは、要素技術として最小限必要な開発として進められたものであるが、いくつかの評価できる成果を得ている。特に、北海道大学グループで開発したローエネルギーハウスは、省エネルギー性の面からみてかなり高い評価を与えることができる。本研究は、これらのいくつかの独立した技術開発の集積という面からも評価することができる。
 これらの研究成果は、論文発表として英文7件、和文38件、学会発表として国内学会141件、国際学会28件で報告された。
4−2.得られた研究成果の科学技術への貢献
 本プロジェクト成果は、当初から目標とした環境負荷都市設計を支援する都市シミュレータを具体的に開発したところにある。これまで、エネルギー、廃棄物、水等の個別分野ごとに個別に政策が評価分析されていたのに対し、都市シミュレータでは統合的に評価できる点が新規性を有する点と考えられる。当該都市シミュレータが自治体などにおいて、これらの問題分析に活用を期待されることを期待したい。
 都市の自立という課題は、都市はエネルギー、食料、水などをある程度は外部に依存することは実際には避けられないことを考えるとき、外部依存を如何に最小限にすることができるかという課題に等しいといえる。本研究は、数十万人をかかえる都市について、八王子市を例として、自立都市の設計を目指したものである。例をみない大きな課題設定であっただけに、今後の同種研究おける概念設定、対象設定などについて教訓とすべき点もあった。
 また、本シミュレータは科学技術的な視点から開発されたものであるため、新しい都市計画、例えば都市移転機能の検討などにおいて比較的に全体最適解を与えるものと考えられるが、既存の都市に適用した場合は、社会構成、人間的意識、経済面などの制約条件が多いことから、適用が制限される可能性がある。
4−3.その他の特記事項
 本研究では、研究期間の中間において中間ワークショップを開催した。また、研究期間の最終において終了シンポジウムを開催した。
 特に、出席いただいた自治体関係各位には、本シミュレータを行政において多いに利用していただけることを期待したい。また、その結果として、本シミュレータの発展的展開の必要性が生じることを期待したい。

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