研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
植物系分子素材の高度循環活用システムの構築
2.研究代表者
舩岡 正光 三重大学 生物資源学部 教授
3.研究概要
 地球生態系物質循環システムの起点に位置する森林資源を分子レベルで持続的にフローさせるため、分子複合系の効果的解放システムとして常温・常圧にて機能する相分離系変換システムを開発した。 新たに設計したリグニン系新素材、リグノフェノールの逐次機能変換と循環型新規活用システムを考究し、化石資源に依存しない循環系炭素に基づく新しい持続的材料誘導システムを提示した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 植物資源を食料あるいは工業原料として高度に利用する試みは、これまでも何度も試みられたが、いずれも失敗に終わっている。これは、糖質の活用技術は確立されているものの、植物体の20〜30%を占めるリグニンの構造を制御することができず、結局、廃棄を余儀なくされたことによる。これからの植物素材利用工業のブレークスルーポイントは、植物内の炭水化物とリグニンが相互に複雑に入り混ざっている構造を、それぞれの特性を犠牲にすることなく分離し、構造や特性を特定できないランダムな高分子であることを特長とするリグニンを、いかに長期間、機能する素材として循環活用するかにかかっている。つまり、リグニンをいたずらに燃焼・廃棄することなく、その機能をカスケード的に循環利用し、芳香族化合物である特質を維持することがポイントである。

 この様な視点から、研究代表者の発見した、リグノフェノールとして分離する技術を利用し、リグノフェノールの生産、利用について研究を進めており、計画以上のスピードで進展している。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 リグニンから作られる機能性素材がリグノフェノールであるが、これを連続的に生成するシステムを2001年8月に三重大学に建設した。リグノフェノールは有機系素材のみならずガラス、金属、タルクなど無機系素材にも優れた結合能を有する。フィルムに成形すれば、優れた熱安定性と紫外線吸収能、及び生分解特性が付与され、新しいタイプの循環型バイオフィルムとして活用されよう。更に、リグノフェノールの高密度炭素構造を応用した分子ふるい炭素膜、電磁波シールド用高結晶炭素の創成などへの応用も期待される。また、リグノフェノール、特にリグノポリフェノールは際だった酵素固定化能を有する。他にも様々なアイデアに基づいた新しい機能性材料の開発が期待される。
4−3.今後の研究に向けて
 チーム全体としてはリグノフェノールの様々な機能を見いだしており、発表論文数や出願特許数、またマスコミに取り上げられた数は他のチームに較べて圧倒的に多い。成果の整理が不十分な点もあるが、実証プラントが完成したのでリグノフェノールの新たな機能を続々と発見してほしい。着眼点のユニークさと、独創性は評価者一同、高く評価しているが、定量化に弱点があるように思われる。落としどころも不明確である。一つでもよいから実用化されれば、インパクトは大きい。工学的な具体性、技術の経済性などの検討もそろそろ必要であろう。リグノフェノールを用いた製品の具体例を見せて欲しい。工学関係者を巻き込んではどうか。
4−4.戦略目標に向けての展望
  「資源循環・エネルギーミニマム型社会システムの構築」という戦略目標から考えると、後半は実用化に向けた努力に注力して欲しい。評価者全員、研究代表者の独創性には、充分な敬意を表している。
4−5.総合的評価
 リグノフェノールの新しい機能が続々と発見されつつあり、期待は大きいが、研究期間の残り半分は、実用化に向けての努力に集中して欲しい。

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