研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
内分泌かく乱物資のヒト生殖機能への影響
2.研究代表者
岩本 晃明 聖マリアンナ医科大学 教授
3.研究概要
 内分泌かく乱物質問題の最大の関心事の一つは、ヒト生殖機能への影響であり、とりわけ男性生殖機能への影響、即ち精子数減少、精液の質の劣化等が注目されている。しかしながら、精子数減少に関しては、その解析結果の正否、解析手法の適否が科学的論争の的ともなっている。
 内分泌かく乱物質のヒト生殖機能への影響を評価する上での本質的な問題は、内分泌かく乱物質の活性、作用、影響を高感度、高信頼性で評価し得る判定法が確立していない事に有る。

 本研究では、男性生殖機能を中心に、ヒト試料を用いて、分析化学的、生物学的、分子生物学的、遺伝学的、形態学的、生理学的手法を駆使した新規評価法を開発する事を目標とする。さらに、新規評価法による総合的解析を行い、地球規模での影響評価、ヒト生殖機能維持への貢献を図る。

4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 精子数減少に関する警告は、その社会的意義は評価されるものの、科学性・客観性には疑問が残されている。本チームの目標がこの警告の検証に在るとすれば、多数の日本人精液を収集し、精子数を国際基準で正確に測定しており、貴重な基本的資料、データを取得している点で高く評価される。さらに、より客観的な高感度、高精度の精子数測定法、精子運動性評価法等を開発した事は極めて重要であり、国際的にも高く評価される業績である。今後さらにデータが蓄積され、早期に回答が得られる事を期待したい。

 造精機能等に関する基礎研究に関しては、幾つかの重要な手掛かりが得られているものの、未だ十分な進展を見ているとは言い難く、今後の成果に期待したい。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 精子数・精子運動性に関しては期待通りの成果が得られている。日本人精子数の季節変動、地域変動、年齢層別変動等に関し、貴重なデータが蓄積されつつある。肯定、否定は別として、前記警告に科学的な答えを出す事の意義は大きく、間違いなくインパクトの高い成果となろう。
 内分泌かく乱物質の生殖機能への影響評価指標として精子数が用いられ、国際的規模での調査が行われているが、生殖機能との関連がより明らかになる指標は、精子の形態・運動性である。新規精子形態・運動性解析法を開発し、新規精子運動解析装置を開発する等、その意味で技術的インパクトが高い成果が得られている。今後の展開に大きな期待が持てる。

 造精機能障害に先立って精細管基底膜肥厚が起こる事、有賀チームとの共同研究からDJ-1の造精機能評価マーカーとしての可能性が示唆された事、内分泌かく乱物質がブルームヘリカーゼ(BLM)プロモーター活性に影響を及ぼす事等、興味ある成果が出つつあり、今後の進展が期待出来る。

4−3.今後の研究に向けて
 精子数減少の検証、高感度・高精度の精子数測定法及び精子運動性評価法開発に焦点を絞った研究を実施して欲しい。造精機能解析、内分泌かく乱物質の作用機構解明等に関しては、相互に関連性のある成果が出るように研究計画を再考すべきであり、研究体制を見直す必要がある。
4−4.戦略目標に向けての展望
 我が国における精子数の消長を正確に解析しており、近い将来、本問題に対して何らかの回答が得られるものと期待される。また、本研究の結果は、「内分泌かく乱物質問題」を考える上での基礎・基本データとしても重要である。更には、国際調査研究の一員としてグローバルな解析にも関与しており、社会的に大きく貢献するものと思われる。
4−5.総合的評価
 精子数減少が事実か否かを検証するため、多人数の日本人精子数の測定結果を得た功績は大きく、国際的検討に積極的に寄与する重要な研究と言う事が出来る。

 造精機能等に関する基礎的研究の現状に付いては一致した評価が得られたものの、今後の展開に関しては、臨床的側面を重視するか、基礎研究的側面を重視するか、で評価が分れた。本研究チームの最大の目標は精子数減少の検証、高感度・高精度評価法開発に在ると考えるので、その追求に目的を絞り、早期の目標達成を図るべきであると考える。本来の目標を早期に達成し、更なる展開として、精子数減少の原因追求、作用機構解明等に迫ることが出来れば、と期待する。

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This page updated on September 12, 2003
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