研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
内分泌かく乱物質の動物への発生内分泌学的影響
2.研究代表者
井口 泰泉 岡崎国立共同研究機構 統合バイオサイエンスセンター 教授
3.研究概要
 内分泌かく乱物質がヒトの健康に対して悪影響を与えている事は、いまだ十分な証拠を持って証明されている訳では無い。しかしながら、一部の野生生物に対しては、悪影響を及ぼしている事が十分な証拠を持って証明されつつある。野生生物への影響は生態系の撹乱を引起し、ひいてはヒトの生活にも影響を及ぼすと考えられる一方、ヒトへの直接的な影響を推定するための有用な指標と成り得る。
 化学物質のヒトを含めた動物への悪影響を適切に評価する為には、それぞれの動物種で、発生過程の何時、どの程度の曝露量によって、如何なる機構で影響を与えているのかを、分子レベルで解明、理解する事が必須である。

 本研究では、無脊椎動物から魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳類にわたり、女性ホルモン(エストロゲン)類似物質の作用を、遺伝子発現変動の観点から統合的に理解する事を目標とする。

4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 無脊椎動物から魚類、両生類、爬虫類、鳥類及び哺乳類にわたり、エストロゲン類似物質の作用を“統合的”に理解しようとする研究は国内外ともに無く、貴重な研究である。それぞれの動物種で着実な進展が見られ、各種の国際会議等で注目を集め、国際的な共同研究が進められている一方、環境行政への反映を目的に米国環境保護庁(EPA)等からの協力依頼も受けている。また、成果の一端が環境省のリスク評価に利用されているばかりでなく、本研究が発端となって環境省の調査研究に発展したものもある。基礎研究としてのみならず、レギュラトリーサイエンスとしての成果を挙げる等の予想外の進展を見せており、今後の展開に大きな期待が持てる。

 研究対象が極めて広範であり、研究資源の関係から、早期の目標達成に懸念が残されていたが、OECD等での状況に対処して研究体制の見直し、研究課題の重点化を行う等、適切な対応が取られているので、今後の一層の進展と、早期の目標達成を期待したい。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 DNAマイクロアレイを用いた発現変動遺伝子の網羅的解析から、エストロゲン様物質で誘導・抑制される遺伝子群は化合物に依って異なる事、ある一定時間経過後の変動に限って見れば、同一化合物であっても濃度によって変動する遺伝子群は異なる事、等々極めて興味深い結果が得られている。
 多くの動物種からの結果が揃えば、内分泌かく乱物質の生物影響に付いて断片的に言われてきた事が、総合的に理解出来る様になる可能性が有り、科学的インパクトは極めて高い。EPA、OECD等との議論を通して Ecotoxicogenomics の概念を確立しつつあるので、今後の進展・展開に大きな期待が持てる。

 各種動物種での生殖・発生・分化・神経・行動への影響と言った広範の研究から、それぞれ興味深い結果が得られている。また、化学物質代謝の種差の解析、ビスフェノールAの胎仔期曝露による膣開口早期化での低用量影響の可能性、等々注目に値する成果が得られている。今後の進展に依り、内分泌撹乱物質の生物影響に対して、かなり明白な答えが得られるものと期待出来る。

4−3.今後の研究に向けて
 現在はヒトへの影響が主たる関心事に成っているが、「内分泌かく乱物質問題」のそもそもの発端は、野生生物への影響の懸念からであった。
 野生生物への影響の懸念は一部現実のものと成っているが、状況を十分に把握出来ているとは言い難いのが現状である。広範囲の生物種への影響を、分子レベルで解析している研究は世界的にも殆ど無く、本研究の成果に期待するところ大である。
4−4.戦略目標に向けての展望
 研究成果の一部は、既に国際的にも環境行政等に採り入れられている。本研究の更なる進展は、生態系の保全、ひいては社会生活の質の向上等に大きく貢献するであろう。
4−5.総合的評価
 内分泌かく乱物質の生物影響のメカニズムを解明する、という明確な目標を持った研究である。広範囲にわたる生物種を対象として、研究代表者の適切な指導下に、問題の核心を突いた研究が進められており、期待通りの成果を挙げている、また、今後とも大きな成果が期待出来ると言える。
 研究成果を評価しつつも、所謂「器用貧乏」に成らぬ様、テーマの絞込みを求める意見も有るが、広範囲の生物種を扱っている事がこのチームの特色であり、積極的に評価したい。

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This page updated on September 12, 2003
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