研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
内分泌かく乱物質による精子形成異常に関与する癌遺伝子産物DJ-1とAMY-1
2.研究代表者
有賀 寛芳 北海道大学大学院 薬学系研究科 教授
3.研究概要
 新規癌遺伝子として単離・同定されたDJ-1及びAMY-1は殆どの体細胞で発現しているが、精巣で特に強い発現が見られる。DJ-1の発現減少は男性ホルモン受容体(AR)機能低下をきたし、AMY-1遺伝子導入マウスの雄は不妊傾向になる事から、これらの遺伝子が精子形成、男性不妊に関与している可能性が示唆される。また、内分泌かく乱物質がこれらの遺伝子発現を通して精子形成に影響を与えているとすれば、内分泌かく乱物質と発癌との関連性が注目される。

 本研究では、精巣で特異的に発現する遺伝子群の単離・同定、機能解析を行う事により精子形成機構を解明すると共に、精子形成過程への内分泌かく乱物質の影響を解析する事を目標とする。さらに、これらの解析を通して、内分泌かく乱と癌化の接点を探ると共に、男性不妊治療への応用の可能性を追求する。

4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 内分泌かく乱物質の男性生殖機能への影響解明を、癌遺伝子機能解析から目指すものであり、DJ-1が関与するAR転写制御機構の解明、AR作用物質の影響解析等で進展が見られる。AR及び共役因子に関する研究と言う視点で捉えれば、国際的にも高く評価される成果を挙げており、DJ-1の分野では世界をリードしている。然しながら、内分泌かく乱物質の影響解明の観点からすると、未だ十分な進捗を見ているとは言い難く、今後の展開に期待したい。
 他チームとの共同研究から、男性不妊、乳癌のバイオマーカーとしての可能性が示唆される等、予想外の進展を示す結果も出ており、今後の応用に向けた展開に期待したい。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 DJ-1機能に関し、AR活性化因子としての作用、精子の示す受精反応への関与の可能性、ストレス感受性因子としての可能性等々、極めて興味深い知見を見出している。
 これらの結果は未だ十分に実証されているとは言い難いが、予想通りであれば、 ARの作用機構、不妊の原因、発癌等の関連から見て極めて興味深い成果となり、科学的インパクトは高いものと予想される。今後、これらに対する着実な実証と、内分泌かく乱物質の影響に関する検討が実施される事を期待する。

 岩本チームとの共同研究により、男性不妊症患者精子とDJ-1発現量低下に弱い相関を認めた事、また、DJ-1は乳癌患者で分泌蛋白として高発現している事、から各々のバイオマーカーとしての可能性が示唆されている。実用的に使用可能ならば、臨床的、技術的インパクトは高く、今後の展開に期待したい。

4−3.今後の研究に向けて
 DJ-1、AMY-1等の機能解析の点では十分な研究体制が整えられ、成果も挙がっている。今後は、精力的に、精子形成異常との関連性追及、内分泌かく乱物質の影響解析に取り組んで欲しい。その為には、他チームとの共同研究強化を含め、研究体制を目的志向的に見直す必要があろう。
4−4.戦略目標に向けての展望
 科学性・客観性を重視しながら、現在世界各地でヒト精子数についての検討が進められている。特に精子数減少・生殖機能低下と内分泌かく乱物質との関連性が注目されている。本研究は、男性不妊症を含め、精子数減少・生殖機能低下の原因の一端を分子機構から説明するものとして期待している。
4−5.総合的評価
 論文数と質から、DJ-1、AMY-1等に関する基礎的研究は順調に進んでおり、かなりの成果を挙げているという事が出来る。

 研究構想全体の中での内分泌かく乱物質の位置付けが明らかで無いままに、研究が進められている様に思われる。内分泌かく乱物質にどの様に取り組むか、という基本問題に立ち返って再検討する事を希望する。

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This page updated on September 12, 2003
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