研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
太陽輻射と磁気変動の地球変動への影響
2.研究代表者
吉村 宏和 東京大学大学院理学系研究科 助教授
3.研究概要
 地球の大気と海洋の流れを駆動する原動力は地球に降り注ぐ太陽からの輻射である。地球の気候変動のメカニズムを明らかにするためには、この大気と海洋の流れを駆動する原動力である太陽輻射の変動を知る必要がある。過去の太陽輻射の変動を知ることは、太陽輻射変動の地球の気候変動への影響は大きいものであるか、あるいは無視できるほど小さいものであるかを明らかにするために是非とも必要である。しかしながら太陽輻射の連続観測は1970年代後半から現在にいたるまで、20年余りに過ぎず、一方、過去の太陽輻射の変動を直接知る方法は、現在のところ知られていない。

 本研究は、この過去の太陽輻射の変動を知る指標として太陽の半径の変動を測定し、半径の長期変動から太陽輻射の長期変動を推定し、太陽輻射変動が地球の気候の変動になんらかの寄与をしてきたか否かを明らかにすることに挑戦する。過去の太陽の半径を知る方法はいくつかあるが、本研究では100年間にわたる写真像として蓄積され続けている資料を、新しく開発したデジタル化装置で数値化し、その数値データを計算機により画像処理することで、太陽半径を測定し、輻射変動を推定しようとしている。

4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 最近100年間にわたる太陽写真像として蓄積されているインドのコダイカナル天文台の資料を、デジタル化し、その数値データを計算機で画像処理することにより、太陽半径を測定し、その長期変動から太陽輻射の長期変動を推定し、太陽輻射変動と地球気候変動の関連を調べることを計画している。そのために、
  (1)太陽写真像の数値化装置の製作
  (2)デジタル化手法の確立
  (3)太陽画像数値データ解析
  (4)太陽半径と太陽輻射の関係についての理論と数値シミュレーションによる太陽活動の変動の追跡
  (5)太陽輻射、磁場と地球気候との関係についての考察
などの事項を実施する。

  (1)と(2)については予期せざる多くの障害に遭遇したが、それらに全力を投入して解決し、現在、本研究の中核となる(3)が実施されつつあり、有意な結果が得られそうである。(4)〜(5)は(1)〜(3)と並行して実施されているが、これまでの研究期間には、デジタルデータの取得に力が注がれたので、理論と数値シミュレーションの研究についてはまだ成果は報告されていない。(3)〜(5)が今後の主な課題となる。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 太陽画像のデジタル化手法を確立し、これに基づき太陽半径を測定することができるようになった。この見かけ半径から、1)太陽−地球間の距離、2)望遠鏡の構造、3)地球大気の状態、4)写真像の現像と保存状態等の影響を補正することによって実半径を求めることができた。望遠鏡の構造の変化などによるノイズが意外に小さかったことは幸運であった。太陽の実半径データを用いてその長期変動を解析しつつある。
4−3.今後の研究に向けて
 これまでの研究成果に基づき今後展開されるべきことは、
 (1) 当初の目標である100年間の太陽写真像のデジタル化を完成させる。
 (2) 100年間の太陽半径の変動を解析しその特色を系統的に示す。
 (3) 太陽半径と太陽輻射の関係を理論的に示す。
 (4) 太陽輻射、磁場と地球温暖化の相関を調べる。
ただし、観測事実の解析結果を先ず発表し、理論との結びつけは研究代表者自身によるばかりでなく、広く同じ分野の研究者の検討にも利用されるようにすることが望ましい。
4−4.戦略目標に向けての展望
 太陽半径の長期変動の大きさに、初めて実証的根拠を与えたことは太陽物理学の分野でも価値のあるものと思われるが、「地球変動のメカニズム」の観点でも、地球温暖化に関して、繰り返し問題とされる100年スケールの日射変動の可能性について根拠のある大きさの見積りを可能にする。
4−5.総合的評価
 最近100年間の太陽写真像から、最先端の技術を使って、太陽半径の変動を検出するという初めての試みに一応の結果が得られる目処がついた。
次にこれら変動の解析を整理した結果を理論と組み合わせて「太陽定数」の長期変動の推定ができれば立派な研究成果となるであろう。

 本研究では太陽半径の変動についての観測的・統計的事実を明示することが先決であり地球気候との関係付けを急ぐことは好ましくない。研究代表者の困難に立ち向かうチャレンジ精神を高く評価するが、インド研究者との協力関係に、より適切な配慮が望まれる。

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This page updated on September 12, 2003
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