本研究では、アジア域の大気汚染によって発生する人為起源エアロゾルが引き起こす気候影響を明らかにする。特に、地球温暖化過程のより良い理解のために、エアロゾルが引き起こす放射強制力の正確な値を求めることが重要な課題である。放射強制力とは、着目する気候変動要因が気候系に導入されたときに大気上端、もしくは地表面で生じる放射エネルギー収支の変化分のことである。周知の通り、温室効果ガスを大気中で増やすと地表面からの熱赤外線がトラップされるために大気上端で正の放射強制力が発生して系を加熱する。
一方、人為起源エアロゾルが増加すると、太陽放射を反射する直接効果と、エアロゾルが雲核として作用するために生ずる雲の反射率変化に伴う間接効果が起こる。その結果、負の放射強制力が発生して系を冷やすと考えられている。本研究では気候モデリング、衛星リモートセンシング、地上観測を総合的に組み合わせて、エアロゾルが作り出す直接および間接の放射強制力を評価する。 |
地球温暖化の予測のためには、大気汚染に伴って発生する人為起源のエアロゾルが引き起こす放射強制力を評価することが必要事項の一つである。本研究では、気候モデリング、衛星リモートセンシング、地上・航空機観測等を総合的に組み合わせて、エアロゾルの放射強制力に及ぼす直接的・間接的効果を評価する。 計画されている3回の集中総合観測のうち、既に2回実施され、2003年3〜4月に第3回(最終回)観測が実施される予定である。観測は福江島-奄美大島を中心とする東シナ海域で実施され、エアロゾルに関する詳細な観測資料が得られている。 |
アジア域大気の粒子環境という広範な課題を多様な手法を用いて、エアロゾルについての基本的な情報を幅広くおさえるという観点からは有意義な成果が得られている。モデルやリモートセンシング手法の改良を図った結果、有効粒子半径や光学的厚さはエアロゾル粒子数に顕著に依存するが、雲頂温度や雲量の依存性は小さいことなど、エアロゾル粒子数に対する雲パラメータの相関を得ることができた。これらの結果を用いエアロゾルの数が産業革命以降30%
増えたとして放射強制力を試算すると、間接効果の値は -1.3〜-1.4 W/m2となった。一方、直接効果は -0.2 W/m2と評価された。さらに、2001年4月の福江島から奄美大島近辺にかけての東シナ海での集中観測領域における平均放射収支の試算が示された。即ち、大気上端での雲の放射強制力は5〜10
W/m2 で全球平均のそれと異なり温室効果の方が勝っている。また、同領域ではエアロゾル濃度は高いが光吸収のためにその直接効果による放射強制力は0〜-5
W/m2、間接効果によるそれは0〜-4 W/m2であった。
今後、リモートセンシングから得られた結果から算定されたエアロゾルの放射強制力と地上観測やモデル結果との対比、集中観測域でのエネルギー収支に占めるエアロゾルの放射強制力の割合など、エアロゾルの直接効果、間接効果の評価について確かな知見を与えるよう成果がまとめられるであろう。 |
多様なアプローチで幅広い内容の研究計画を多くの研究サブグループが分担しており、多数の個別の研究成果があげられている。 今後、残された期間にはこれまでの観測や理論によって得られた情報を統合し、エアロゾル環境の変調をモデル化し、地球温暖化予測におけるエアロゾルの直接・間接効果の評価についてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の次回報告書に新しい知見を示すべきであろう。 |
地球温暖化予測において、人為起源エアロゾルが直接太陽放射を散乱して地球の反射率が増加する結果、二酸化炭素などの温室効果気体による地球温暖化は低減すると考えられた。しかしながら、その後、現実のエアロゾルには光吸収性もあり、大気上端で顕著な放射強制力を引き起こすことなく、むしろ、エアロゾルが雲核として作用し、雲量と雲厚(光学的厚さ)を増大させるために日傘効果が生じ、温暖化をかなり相殺しているのではないかという見解が有力になりつつある。この問題は非常に複雑であり、容易に決着はつかないであろうが、本研究の成果は、今までにない「何か」を出すことが期待される。 |
本研究計画は世界の多くの研究者も慎重にならざるを得ない困難な課題に挑戦している。 計測手法の開発、地上・航空機観測、理論、モデリング等多様なアプローチと広範な専門分野の研究者から成る研究プロジェクトである。これ以上内容を発散させることなく、多様なアプローチによる広範囲の研究の個々の成果を的確に統合して行けば、エアロゾルについての基本的情報を幅広くおさえるという意味で有意義な貢献が可能となるであろう。とりわけ、エアロゾルの間接効果に関して新しい成果を提示できることが期待される。 |