研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
衛星利用のための実時間海洋基礎生産計測システム
2.研究代表者
才野 敏郎 名古屋大学地球水循環研究センター 教授
3.研究概要
 海洋における炭素循環の解明には、炭素の鉛直輸送を担う生物ポンプの活動の地理的分布とその変動を明らかにすることが必要であり、そのためには人工衛星海色リモートセンシングによる植物プランクトンの量と光合成(基礎生産)の測定が現実的な観測手法として期待されている。しかしながら、海色リモートセンシングで求められる植物プランクトン量と基礎生産は実測データで検証されなければならない。海洋光学分野における最近の測器の開発には目覚しいものがあり、植物プランクトンによる基礎生産が光学的に、非破壊的に測定できるようになった。

 本研究は、海洋に設置した自動昇降式ブイに搭載した光学的なセンサー類によって海洋の基礎生産を自動的に計測し、実時間的にデータ転送を行うことによって、衛星観測より得られる海色データから推定した基礎生産を実時間で検証するための計測システムを開発することを目的とする。そのため水中設置自動昇降ブイシステム、および各種光学的データから基礎生産を推定するアルゴリズムの開発を行う。

4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究は、(1)水中設置自動昇降ブイシステムの開発、及び(2)光学測定による基礎生産の推定法の開発から成り、両者を同時並行して実施している。
(1)に関しては、日油技研工業 株式会社に委託し、光学センサーを搭載した計測ブイとそれを自動的に昇降させるための音響通信制御機能を持った水中ウィンチシステムから成る試作機を製作し、それを用いて各種水槽試験、実海域試験を行った。その結果を参考にして実機1号機を完成させ、実海域試験を繰り返してシステムの完成を目指している。
(2)に関しては、各研究サブグループの独自の活動に加えて、東大海洋研大槌臨海研究センター、同淡青丸、東水大青鷹丸等を利用して、共同実験・観測を行った。即ち、
 i) 高速フラッシュ励起蛍光光度計(FRRF)による単位クロロフィル当りの総基礎生産
 ii) 水中分光放射計によるクロロフィルの鉛直分布
 iii) 気象衛星「ひまわり」からのブイ設置点の海面日射量の連続推定
の三者の組み合わせにより日・深度積算総基礎生産を求め、それをブイ設置点における酸素法・13C法による培養実験結果と合わせることによって、現場海域における衛星データの検証値を求める方法を開発した。また、求めた推定値を海洋現場において検証する方法にも着手した。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
(1)自動昇降ブイシステムの開発に関しては、ウィンチ、計測ブイ、ラッチ等構成部分を考案・試作した。さらに、設置・運用・回収の技術、海水中における係留索の挙動とそれへの対策などの技術的なノウハウの蓄積が期待される。
(2)日・深度積算総基礎生産の推定に関しては、その精度・確度を向上させるために、
 i) FRRFによる光合成活性
 ii) 分光放射場からのクロロフィル鉛直分布
 iii) 表層光合成有効放射
などそれぞれを推定するために、相模湾における観測・実験によりデータベースの充実を図り、それに基づき推定法を改良した。
 さらにFRRFで測定される光合成パラメータを取り込んだ新たな衛星基礎生産のアルゴリズムを実用化することが期待される。
4−3.今後の研究に向けて
 平成14年度より開発を開始した小型FRRFに関して、ベンチトップ型FRRFを用いた最適な動作条件の決定および、水中型ミニFRRFの実海域での長期係留試験等を平行して実施し、それらの成果を組み込んだFRRFの実機を完成させれば、研究の重要な位置を占めるFRRFのブラックボックス化が回避でき、本研究が大いに前進する事が期待される。
4−4.戦略目標に向けての展望
 長期にグローバルな物質循環の実態を把握するためには衛星観測と定点観測を組み合わせた時系列観測が必要である。
 本研究で開発されつつある光学的測器搭載係留式自動昇降ブイシステムにより基礎生産を測定し、さらに得られたデータを実時間で転送し、衛星海色リモートセンシングと組み合わせることによって将来の「海洋基礎生産天気図」作成に向けた展望が開けるであろう。
4−5.総合的評価
 「係留式海洋表層自動昇降ブイシステム」と「光学的基礎生産推定手法」を組み合わせたユニークで新しい技術開発への挑戦である。
ブイシステムの開発には予測せざる障害を克服するため、その完成が少し遅れたこと、FRRFの小型化のためや、将来の運用を考慮して自主開発路線に切り換えたことなどにより当初の計画に変更が生じたが、研究体制、研究の進め方は着実であり、大筋において順調に進捗している。

 計測システムの耐久性、安定的運用という実用化に向けた一層の努力が望まれ、かなり厳しいスケジュールとなるであろうが、この種の研究開発ではほぼ妥当な進行といえる。
現場で計測した基礎生産によって、衛星観測による基礎生産推定のアルゴリズムを改善する研究には今後より一層の努力を注ぐべきである。

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