研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
化学的摂動法による大気反応機構解明 −ラジカル測定を中心として−
2.研究代表者
梶井 克純 東京都立大学大学院工学研究科 教授
3.研究概要
 人間活動に伴い多くの反応性化学物質が大気中に放出され、その結果として大気中での光化学反応により毒性の高い光化学オキシダント(オゾン)や酸性雨の原因物質である硝酸や硫酸が生成し我々の生活を脅かしている。これらの有害物質がどのようにして生成されるのかを正確に把握することは精密な大気質の将来予測を行う上で最も重要な課題である。大気化学反応の中心的役割を担っていると考えられている大気ラジカル化学種(OH、HO2、RO2および窒素酸化物等)はそれらの前駆物質と太陽紫外線により大気中で生成し種々の化学物質と反応し消失しているが、反応性が高いこと、また非常に希薄であることから従来はそれらの大気中での実測は困難であった。近年のレーザー技術の進歩によりようやくそれが実現しつつある。大気中での化学反応機構を解明するためにはこれらのラジカルの実大気濃度を実測することが本質的に重要となる。濃度測定に加えてこれらの短寿命な化学物質の大気中の寿命を測定することによりその大気中での化学反応の活性度を評価することができる。本研究では定常状態にある実大気に強制的に化学摂動を与えて直接大気寿命を測定する手法の開発を行い、大気中での化学反応の機構解明を目指す。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 研究内容を大別すると、(1):大気化学反応を駆動している主要な化学物質である大気ラジカル化学種(OH、HO2、RO2および窒素酸化物等)の濃度測定装置の高度化とラジカル種の大気寿命測定手法を確立すること、及び(2):(1)で開発した装置と手法を用いて、野外観測により、ラジカル種の大気寿命測定を行い、化学モデルに基づく計算結果と対比して大気反応機構を解明することである。
(1)に関しては、ラジカル種の濃度測定装置の開発は必要な精度で測定可能な域に達し、寿命測定装置は平成15年度中に完成する見込みである。
(2)に関しては、これまで若干の予備的観測が行われたが総合的野外観測は(1)における測定装置の完成を待たねばならない。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 大気化学反応過程、具体的には都市大気オゾン濃度変動のメカニズムの解明に必要なラジカルを主とした微量活性化学種の超高感度濃度測定装置の開発は、少し遅れ気味であるがほぼ完成の域に達している。さらにOHラジカルの大気中の寿命を測定する装置も平成15年中に完成する見込みである。これらの測定装置が完成すれば、都市大気化学の反応過程でこれまでブラックボックスであった部分が明るみに出され、反応機構解明に貢献できるであろう。
 研究成果に基づく特許出願が国内・海外各2件あり、製品化まで進む事が期待される。
4−3.今後の研究に向けて
 大気化学反応機構の素過程研究とそのための測定装置・手法の開発に専念したほうがよい。研究の進捗状況、残された研究期間等を考えれば、測定装置を完成させることが先決である。それらを用いた大気汚染のモニタリングや予測等の応用研究は次の研究課題としてもよいのではないか。さもなければどちらも中途半端になる恐れがある。
4−4.戦略目標に向けての展望
 本研究で、大気ラジカル濃度測定装置と寿命測定装置が完成し、大気化学反応機構の解明、特に都市大気化学反応機構が解明されれば、鍵となる要素が明確になり、都市大気汚染についての現実的な監視(モニタリング)体制、さらに予測の可能性が生まれる。
4−5.総合的評価
 本研究の主たるねらいは都市大気の光化学汚染で取り扱われてきた活性化学種のかかわる反応過程に関して、直接その濃度と寿命を測定することにより、これまで仮定されていた生成・消滅過程を実証しようとするものである。ユニークであり価値のある先端的研究である。

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