研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
プリオン複製に関与する新しい因子の同定とプリオン病治療法開発への応用
2.研究代表者
金子 清俊 国立精神・神経センター 神経研究所疾病研究第七部 部長 
3.研究概要
 正常型から異常感染型プリオンへの構造変換に重要な役割を果たしている新しい因子を同定し、現在深刻な社会問題化している乾燥硬膜移植後や狂牛病に代表されるプリオン病の治療法開発は、他の様々なコンフォメーション病の治療の先駆的モデルとしても重要である。さらに、新方法論の開発により、生化学並びに病理組織学分野における蛋白研究の飛躍的な発展が期待される。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 プリオン病は日本でも極めて注目されている新しい核酸を介さないプリオン蛋白に起因する感染性の神経疾患であるが、プリオン蛋白の生理機能には未知の点が多く、プリオン病治療法は未だにない。本研究ではプリオン蛋白の生理機能の解明、プリオン病治療法の開発、の2課題に対して研究を進めている。当初具体的目的としたプロテインXの分離同定、プリオン分解酵素の分離同定、防御型プリオンによる治療法の開発に精力的に取り組んでいる。当初想定された方向で順調に伸展しているので、確実な成果が期待出来る。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 当初の目標に向けた研究が着実に行われており、その過程で重要な発見がなされている。正常型プリオンを異常感染型プリオンに高次構造変化をおこすシャペロン様分子を同定するアッセイ系 (prion unfolding assay) を確立してプロテインXの探索に役立てていること、プリオン蛋白に蛍光分子を融合してプリオン蛋白質の細胞内輸送過程や分解過程の可視化に成功したこと、防御型プリオン蛋白の大腸菌での発現精製に成功していることなどは独創的かつ画期的なことと言える。しかし、これらの成果はややトピックス的な成果のようでもあり、目標に向けての確実な成果とまでは言えない。投稿論文がほとんど見あたらないことも気になるところである。もともとこのチームは日本では数少ないプリオン蛋白の研究チームであり、独創性にも優れているので、研究体制がしっかりしていれば、確実な成果が期待出来よう。
4−3.今後の研究に向けて
 明らかにせねばならない研究目標がすっきりとしており、この目標に添った前段階の成果も、PrPc の unfolding の研究や防御型プリオン分子の研究などで着実に出ていると評価される。協同研究グループの西島グループはラフト上での PrPc の PrPsc への変換、木村グループはヒトプリオン蛋白219番アミノ酸多型の検討と、金子グループと密接に関連したテーマを追究しており連携関係は良い。今後の研究に向けた課題としては感染の研究設備をどう整えるのかという問題がある。また、金子グループでは研究員の出入りが頻繁なために、継続した研究という点では問題があった。現在多くの研究課題を抱えていることを考えると、研究員の絶対数が不足しているように見える。これらの問題を克服することが必要であろう。
4−4.戦略目標に向けての展望
 日本にも硬膜移植による医原性のプリオン病の存在が確認され、この研究の重要性が脚光を浴びることになった。その治療や予防は極めて重要、かつ緊急性の高いものでプリオン複製に関与する新しい因子の同定とその臨床応用には大きな期待がもたれている。性急な対応に流されることなく、当初目標とした研究を着実に発展させ、最終目的となる治療法開発に直接つながる成果が期待される。
4−5.総合的評価
 本研究は neuroscience として重要であるのみでなく社会的、経済的にも重要課題である。研究者らは 1)Prion の分解酵素、2)Protein X の解明、3)予防、治療法の開発を目標として並行して研究が進行中である様に思われる。正常型プリオンと異常感染型プリオン蛋白の機能に注目し、その細胞内輸送過程や分解過程の可視化に成功するなど、ある程度注目すべき成果が得られた。しかし、このテーマの複雑さを考えるとまだブレークスルーまでは達していないという見方と、この仕事は大きく発展する見込みがあるので、大いに期待したいという見方に分かれた。期待の大きさに応えられるかどうかはこれからのチームの頑張りにかかっていると言える。

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This page updated on September 12, 2003
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