研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
DNAチップによる遺伝性筋疾患の分子病態解明
2.研究代表者
研究代表者  荒畑 喜一  国立精神・神経センター 神経研究所疾病研究第一部 部長
研究代表者代理  西野 一三  
  
3.研究概要
 急展開する先端的DNAチップ技術の開発構想は、膨大な量の遺伝子発現・変異情報へのアクセスを可能にする革新的技術戦略である。そこで本技術を、疾病研究の新世代方法論と位置づけ、その独自開発を行う。さらに遺伝性筋疾患をモデルとして、応用化研究を推進する。筋の障害機構に関与する多数の未知遺伝子並びに修飾因子の発見と、それらの発現情報のデータベース化によって、筋障害過程に最も重要な細胞のシグナル伝達経路を一挙に解明することが期待される。これは、根拠の基づく医療(EBM)の実現に不可欠の課題である。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 遺伝性筋疾患の分子病態を解明するために独自のマイクロアレイ型ヒト筋特異的DNAチップを開発に着手し、筋疾患の遺伝子解析に必要と考えた5000以上のクローンを載せるという当初の目標は達成した。更に試用した結果、信頼性が高く、かつ少量のサンプルで済むため一例ごとの解析も可能になったため、今後疾患との関連を調査するにあたっての前準備は整ったと言えよう。

 このツールを用いて、筋疾患における遺伝子発現解析を行うのが今後の課題であり当初ターゲットとして挙げた筋ジストロフィー3疾患、すなわち福山型先天性筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2A型(calpainopathy)、エメリードレフュス型筋ジストロフィーの解析を行う体制が整った。しかし、検体数からも全てを順調に実施していくのは困難が予想され、焦点を絞ることが求められる。

4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 筋疾患の遺伝子解析に必要と考えた5000以上のクローンを載せるという当初の目標は達成した。これまでに、5760クローンを載せたチップを完成させた。チップの作製にあたっては、ハイブリの効率を均一化すること、逆転写の効率の問題による影響を出来る限り排除することに留意した。更に完成したDNAチップを用いた遺伝子発現のモデル実験により、高い再現性(相関係数0.984)、広いダイナミックレンジ(10の3乗オーダー)、高い定量性を有することを確認した。さらに、極少量の生検筋検体からの解析が可能であり、世界で初めて、一例ごとの筋生検材料を用いて遺伝子発現解析が可能となった。更に試用した結果、信頼性が高く、かつ少量のサンプルで済むため一例ごとの解析も可能になったため、今後疾患との関連を調査するにあたっての前準備は整ったことは評価できる。

 今後何に着目しどのように解析していくかが、課題である。DNAチップを使えば、膨大なデータが得られることは確実であるが、意味のある情報を得るためには総合的な技術と学術に裏打ちされたセンスが必要である。そういう点からも、期間内にまとまった成果を出すためには余程焦点を見定めた研究が望まれる。

4−3.今後の研究に向けて
 5000以上のクローンを載せたDNAチップを作製するという目標は達成したので、今後はそれを用いて如何に筋疾患における遺伝子発現解析を行うのかが今後の課題である。幸い疾患に精通した研究者を共同研究者に選んであるので、共同研究者との緊密な連携が可能である。当初ターゲットとして挙げた筋ジストロフィー3疾患、すなわち福山型先天性筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー2A型(calpainopathy)、エメリードレフュス型筋ジストロフィーの解析にあたっては、その疾患に造詣の深い共同研究者との協力関係を密にして研究を進めて欲しい。
4−4.戦略目標に向けての展望
 DNAチップは学術的遺伝子解析だけではなく、テーラーメイド治療を行うための診断手段等将来汎用される技術になると考えられる。そのDNAチップ作製に正面から取り組み、成功したことは将来に向けた大きな財産になると考えられる。また、過去トライされたことのない、強力なツールを用いた解析によって、現在治療法の全くない筋ジストロフィーに対して、治療法を開発する手がかりをつかむことを期待したい。
4−5.総合的評価
 ヒト骨格筋に特異的なcDNA 5760クローンを載せたマイクロアレー型 DNAチップを作製した。信頼性も高く、少量の検体での解析が可能なため一例ごとの解析が可能になった。このことは高く評価され、目標の半ばを達成したと言えよう。DNAチップを用いて筋疾患における遺伝子発現解析を行うという次のステップはこれからである。今後の方向性として疾患特異的な遺伝子あるいはその発現パターンを同定することが重要であるが、そこまで到達するのは決して容易ではない。何よりもDNAチップによる発現解析が、筋疾患の病態機序解明のどのような点で有用であるかという点について、深い洞察が求められる。それがないと、単にdescriptiveな解析に終わるし、筋線維の消失を反映するような二次的な結果を見てしまう可能性が懸念される。発現プロファイリングによって何を明らかにすると考えているか見通しをきちんと設定する必要があろう。

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This page updated on September 12, 2003
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