研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
器官形成に関わるゲノム情報の解読
2.研究代表者
研究代表者 松原 謙一 財団法人 国際高等研究所 学術参与
3.研究概要
 器官形成の過程で発現する遺伝子の逐次的発現情報を収集したデータベースを作成し、そこで働く調節のネットワークの解明を目標として本研究を始めた。この為にマウス小脳をモデルシステムとして選び、まずその形成過程で働く7716種の遺伝子を収集してデータベース化した。次いで、これら遺伝子の継時的変動とレーザーマイクロキャプチャー法による発現部位の測定を行って、小脳形成の時間的ならびに解剖学的知見と対応できる遺伝子発現プロファイルを整理した。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 松原グループの研究課題名は、「器官形成に関するゲノム情報の解読」との名目の下になされたが、実際は、マウスの小脳における発生過程において継時的に小脳からcDNAライブラリを作り、各々のステージに特有に発現している遺伝子を同定し、これらの遺伝子をデータベース化したことである。より具体的には生後2日、4日、8日、12日、3週、6週のマウスの小脳よりデジタル発現プロファイル方法により、cDNAライブラリを構築、オーバーラップを除いて7716種の活性遺伝子を同定し、それをデータベース化した。この内、1735種は既知遺伝子であった。さらに、これらの cDNAクローンの内、5494個を用いてDNAチップを作成した。また、これらクローンのシークエンス情報より、ATAC-PCR法を用いて遺伝子発現プロファイルを作成した。DNAチップによる遺伝子発現プロファイルとATAC-PCR法による遺伝子発現プロファイルは、基本的にその結果は一致した。これらのデータを基に、小脳で発現している遺伝子群は大きく分けて3つのグループに分かれた。Aグループ:発達の初期に発現量が高くて後に低下する遺伝子群、Bグループ:発生後期ないし成体で発現が高い遺伝子群、Cグループ:明確な傾向を示さない遺伝子群。これらに分類された遺伝子について各々の機能を推定すると、Aにおいては、リボソーム蛋白、癌関連遺伝子、細胞周期関連、転写、翻訳装置関連が多いことが明らかになり、Bにおいては、トランスポーター、神経伝達物質受容体など神経細胞の機能に直接関わるものが多く、Cには、糖質代謝関連、RNA合成関連、ユビキチン関連などが含まれていた。
  一方、レーザーマイクロキャプチャー法により小脳から微細な領域を切り出し、各微細領域における遺伝子発現プロファイルを作成した。 約800個の遺伝子において検討し、450個についてデータを得、これらのパターンと解剖学的な位置関係と遺伝子発現プロファイルとの相関関係を求めたが、神経機能に関する遺伝子群が多いBグループ70%は、後期の内顆粒層において強く発現していることが見出された。
 松原グループの研究は、このように小脳をモデルとして、小脳における発生過程において継時的にサンプルを検出し、その発生過程におけるこれらの遺伝子の役割の推定を行ったものである。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 今後の研究の見通しとしては、これらのゲノム情報を最大限に駆使して、これらの遺伝子を実際の機能をかなりの確率を持って推測できる方法論を確立させたいとしている。また、単なるcDNAの収集のみならず、さらに他の方法論との併用が必要と考えられる。また、調節のネットワークの解明に向けては、突然変異体の利用、他種生物における同様なライブラリーとの比較、小脳以外の他の臓器における同様な解析が必要と思われる。
4−3.総合的評価
 松原グループにおける、これまで研究成果について評価委員は、厳しい評価が多かった。今までの段階では、すべてにおいて、まだまだ中途半端な感じが強い。それを反映してか、過去3年間の成果発表が少ないことが指摘された。また、これらの数千のDNAクローンのデータでは、十分だとは言えないとの意見も出された。今後、徹底的に小脳および脳組織におけるcDNAを集積されることが必要であろう。また、これらの実験データの解釈は、かなりspeculationに基づくものが多く、どのような方法論でどのようにして最終的に結論を下すのかを明らかにしていく必要がある。また、これらのデータにアクセスする為のデータベースには、まだ一般にはアクセスできないと思われるが、それを速やかに可能にすることも必要と思われる。
 今後の方針としては、(i)これらの従来の取得した遺伝子の役割をさらに詳細に解析する方向と、(ii)さらに一層徹底して脳で発現する遺伝子を網羅することが考えられようが、両者を両立することは、やや困難との意見もある。
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