研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
組換えを介したゲノム動態制御
2.研究代表者
研究代表者 柴田 武彦 理化学研究所 遺伝生化学研究室 主任研究員
3.研究概要
 組換えを介したゲノム動態の理解及び新ゲノム制御技術の開発に重点を置いた研究であるが、具体的には酵母での遺伝子の機能解析、分子立体構造解析、鳥類DT40細胞検証系などであるが、成果としてクロマチン構造レベルで組換えが誘導される経路、相同DNA組換え中間体形成に働く多重な経路、現場で働く蛋白分子群の分子機能などについて知見が得られ、生物が二重鎖DNAの相同DNA組換えを誘導しゲノムを多様化することにより環境変動に適応してきた機構の輪郭も明らかになりつつあり、人為的組換えの実現の可能性が開かれた。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 柴田研究グループのテーマは、組換えによるゲノムのダイナミズムに関するものであり、大きく分けて3つのテーマを取り上げている。第1は、DNA鎖切断導入・修復、ゲノム流動化の制御に関する分子機構メカニズムを追求するものである。第2は、染色体レベルでのゲノムの流動性・恒常性を制御する分子メカニズムの解明に関するものであり、第3として、動物細胞株でのゲノム改変技術に関するものであり、具体的にはトリのDT40細胞を用いてヒトの組換えに関する一連のタンパクの同定及びその変異蛋白の細胞機能の解析である。
 柴田グループの今までのこれらのテーマにおける成果は、かなり広範に渡っているがまとめると、まず第1のテーマにおいては、以下の知見が得られている。
 (i)組換えの開始において見られるDNA二重鎖の切断の修復に5’→ 3’へのエクソヌクレアーゼ活性の関与の証明、(ii)交差型組換え体形成は、Holliday structure形成前に既に決定されていることの証明、(iii)組換えにおけるDNA二重鎖の切断におけるTEL1とMre11複合体の関与と新しい経路の解析。
 第2のプロジェクトである染色体レベルでのゲノムの流動性・恒常性の制御に関する研究は、主として酵母において行われ、以下の知見が得られている。まず、組換え制御に働く染色体構造の動態に関して、(i)組換え修復制御に必要であるMre11蛋白が転写制御因子としても働く可能性の示唆、(ii)Mre11蛋白のテロメア伸張の制御への関与の証明、(iii)環状AMP応答配列による減数分裂期組換え開始制御における関与の証明、(iv)減数分裂における組換え開始のクロマチンレベルでの制御に関して、栄養飢餓ストレスからシグナルによる誘導作用の解析、(v)減数分裂期組換えを誘導するクロマチン再編成とDNA合成との共役作用の研究などの成果が見られた。一方、組換えとその制御に働く分子機構として、(i)ヒトRad51蛋白パラログによるDNAの組換え中間体形成活性、(ii)ヒトHsRad52蛋白による組換え中間体形成活性、(iii)酵母ミトコンドリア組換え遺伝子(Mhr1)における組換え中間体形成活性、(iv)相同的組換えにおける特定DNA分子構造の重要性の証明、(v)組換え蛋白上のDNA結合部位周辺の分子機構の解明が挙げられよう。
 第3の動物細胞株におけるゲノム改変技術の研究においては、(i)ヒトとニワトリのBrca2遺伝子の一次構造の比較、(ii)ニワトリにおけるヒトRad51パラログ遺伝子の機能解析、(iii)XRCC3遺伝子とRad52の機能の相補性に関する研究、(iv)Rad51パラログ欠損株における抗体遺伝子可変領域の点変異の集積の発現などが挙げられる。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 今後、研究の進捗の見通しとしては、第1のDNA鎖切断導入・修復、ゲノム流動化制御に関するプロジェクトにおいては、DNA二重鎖のセンサーとして働くMre11複合体のリン酸化による機能変化の解明とその組換えにおける役割の解明が期待される。
 第2の染色体レベルのゲノム流動性・恒常性の制御に関するプロジェクトにおいては、染色体構造の動態の変化に重要なヒストンのアセチル化、脱アセチル化がどのように相同DNA組換えの開始に関与しているかということが重要な課題であろう。
  一方、ヒトのRad51パラログ蛋白複合体、Rad52蛋白の相同DNA組換えにおける役割の分子レベルでの解明を通して、相同DNA組換え開始機構におけるより包括的なメカニズムの理解が期待される。また、組換えに関する一連の蛋白群の蛋白及びDNAの相互作用により構造生物学的な解明も追求されなくてはならない。
  一方、動物細胞株でのゲノムDNA改変技術プロジェクトに関しては、ニワトリDT40細胞における高い組換え反応の分子メカニズムをさらに明らかにすると同時に、それに関与するヒトパラログ遺伝子群の解明により、一般的な高組換え細胞の創出が期待される。
4−3.総合的評価
 このように柴田研究グループは、組換え反応という細胞において重要な反応の解析を分子機構レベル、クロマチンレベル、関与タンパクの構造生物学的研究などにより、その組換え反応の全体像を明らかにしようとしている。この点に関しては研究レベルも高く、高く評価しても良いものと思われる。また、高頻度組換え細胞であるトリDT細胞における高頻度組換えメカニズムの追求と、その様な細胞の一般化という技術面での開発も将来組換えのより応用的な活用から見ても極めて重要なものと思われる。
 柴田研究グループの扱う研究は、このような組換えに関する広範な範囲をカバーしているが、大きく分けた3つのプロジェクトが各々独立に、岩手看護短期大学、理化学研究所、京都大学で行われていることから、見方によっては3つのプロジェクトと考えても良いのかもしれない。このようなプロジェクトの立て方は、相互の間で緊密な連関があれば相乗作用が期待されるのだが、現在の組換え機構の研究は、かなり細分化、専門化されており、従来のような相乗作用が果たして今後期待されるかどうかについては、一抹の不安がみられる。
 評価委員の間では、柴田研究グループを高く評価する声もあったが、一方でこのような統一的な組換えの全体像を描き出すには、このようなグループ形成が果たしてベストかどうかとの声も聴かれた。また、ここで挙げられた多くの成果が、プロジェクト開始前に既に相当進捗していたという事実も指摘された。しかし、一般的な見解としては、柴田研究代表者の手堅い研究手法を評価する声が高く、高い評価に値するとの意見に達した。
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