研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
最高性能高温超伝導材料の創製
2.研究代表者
研究代表者 伊原 英雄 産業技術総合研究所 エレクトロニクス研究部門 グループリーダー
3.研究概要
 本研究チームは、超伝導の3大特性である熱、電気、磁気のTC、JC、Hirr特性が最高性能を有する第3世代高温超伝導材料を創製することを目指している。従来のBi, Y系等の第1、第2世代高温超伝導材料を、物質の3基本要素である組成、結晶構造、電子構造から見直し、独自に発見したCu-1234(CuBa2Ca3Cu4O12-y)及びCu-1223(CuBa2Ca2Cu3O10-y)系を基に、低超伝導異方性を指針として最高性能高温超伝導材料の開発研究を行うものである。性能向上につながる選択オーバードープ現象、選択還元による均一最適ドープ現象、超伝導波動関数の変換現象等を見出し、これらを活用し、現在この系でJC、Hirrにおいて77Kでの最高値(20MA/cm2, 12T)を実現している。またTCに関しても最高値に近い値(132 K)を実現している。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 材料系そのものが本研究チーム独自のもので、傑出した能力を有する研究者が結集しており、今後この分野において果たす役割は大きい。材料作成技術の研究・開発は産総研のグループで一括集中して行い、輸送特性の評価と理論計算を東理大の2つのグループで、NMRによる評価を阪大、光電子分光による評価を鹿児島大、応用の可能性の探索を山形大のグループが担当し、夫々のグループの役割は相補的で良く組織化されている。
 この材料はHiTc材料として魅力的であるが、良質な単結晶薄膜の形成法に問題があった。本研究の目標の一つはこの問題を解決することで、この点から評価すると進捗状況は充分とは言えない。本研究は5年間で実用可能な技術に到達する事は困難であると思われるので、戦略的基礎研究終了後の研究体制を考えておく必要がある。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 結晶製作技術自体はそれほど進展していないが、Cu1234系を始めとするCuO多層系の超伝導メカニズムの理解、例えば第一原理計算によるCu1234系の超伝導特性の理解、NMRによる構造解析、Cu1234の異方性の評価等が大幅に進んでいる。更にイオン照射によるJc向上、ピニングの増強による超伝導特性の改善を実現した。また多種多様のCu系試料を作成しホール効果およびその圧力依存性から、現存する多くのHiTc材料の中でCu系が特異なものである事を示した。またNMRによるInner Plane、Outer Planeのキヤリア密度、Tc、γ への寄与を明らかにしたこと、高圧合成、常圧合成試料における光電子スペクトルの差異から酸化還元プロセスのモデルを提案し、マイクロ波フィルタに使用した時の利点を見積もる等多くの成果が報告されている。
 スパッタリング法で所定の構造の超伝導材料が作成できるか否か今後技術的検討が必要であるが、成功すれば新材料設計・製作のブレークスルーになると期待される。低圧でのエピタキシャル薄膜成長が成功するか否か本研究のキーであるのでスパッタリング以外にレーザアブレーション等、他の方法の応用も検討してみる価値があるのではないか。
 フィルタ応用で実用性を実証する事は非常に重要で、Cu1234系で実現できればインパクトは大きい。
4−3.総合的評価
 Cu1234,CuTl1234系という独創的な超伝導材料についてよく組織化された研究がおこなわれており、超伝導材料として優れた特性のものが得られている。特にこの系において超伝導特性を伝導特性、NMR、XPS、UPS等により評価し、Inner PlaneとOuter Planeの機能の分離をはじめて明らかにした。これらの成果の超伝導科学への貢献は大きい。
 物性評価の研究は進展しているが d+is 波の超伝導波動関数を有する超伝導材料は未だ実現されていない。また、γ に関してはY系よりも特性が下がる可能性も出てきた。材料作成技術、薄膜作成技術の更なる進展が望まれる。
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