性の分化は種の継続と多様性の獲得に不可欠であり、性分化の分子機構を分子生物学的、遺伝学的に解明する事は極めて重要である。それらの結果は、生殖腺に対する内分泌かく乱物質の影響を議論する上で不可欠な視点を提供するものと期待される。
本研究では、生殖腺の性分化に焦点を絞り、この過程に関与する転写因子の機能と発現調節機構を解明する事を目標とする。内分泌かく乱の作用機構を解明するため、エストロジェン受容体応答遺伝子、ダイオキシン受容体遺伝子の発現機構についても解析する。 |
副腎・性腺の形成に係わる転写因子群が、従来信じられていたように、単純にカスケードをなして作用するのではなく、より複雑にネットワークを形成していることを見出し、内分泌かく乱物質の作用部位を考える上で新たな観点を示した。これまでの研究では内分泌かく乱物質は扱われていないが、レチノイン酸等が扱われ始めており、作用機構に関する基礎研究の進展と共に、内分泌かく乱物質の作用についても新しい展開に繋がる見込みが大きい。
当初の計画に加え、AhRの作用や鳥類の性分化関連遺伝子の研究が加わり、より総合的な解析を目指しており、今後の進展が期待できる。 基礎的な研究なしに、内分泌かく乱物質が生物に引き起こす現象面だけを捉えようとすると、発展性のない研究になってしまうが、基礎研究の積み上げは目を見張るものがあり、今後の展開が約束されている。 |
副腎・性腺の分化に係わる、Ad4BP / SF-1、Dax-1、Sox9、Wnt4 等の転写因子群が、互いに促進/抑制し合う事により、複雑なネットワークを形成して作用している事を明らかにした。性分化機構は複雑なため、研究期間内に全てを明らかにする事は困難と予想されるものの、新しい知見は性分化機構解明にとって極めて先駆的なものであり、今後かなりの成果を期待出来る。性分化機構が解明されれば、内分泌かく乱物質の作用の特徴も含めて明らかになり、学問的にインパクトは極めて大きい筈である。
エストロゲン低応答性トランスジェニック動物の創製、AhRの機能解析等も進展しており、内分泌かく乱物質の生殖腺性分化への影響の解析、作用機構解明等への発展が望まれる。 |
「内分泌かく乱物質」といった漠然とした課題設定の中で、性分化機構の分子生物学的、遺伝学的解明に集中的に努力が傾けられている。この成果は、内分泌かく乱だけでなく、今後の基礎生物学への貢献からみて重要であり、設定した目標の達成を期待したい。それが、惹いては「内分泌かく乱物質問題」に対する国際貢献にもなり得る事は再言するまでもなかろう。
他チームの研究等からも、内分泌かく乱物質の生体影響は、従来考えられていたより複雑で多様であることが明らかになりつつある。性分化機構が明らかにされなければ、内分泌かく乱物質の生体影響を正しく理解出来ないと考えられる。その意味において、本研究のような基礎研究は重要である。既に数々の素晴らしい知見を得ているので、今後の発展が大いに楽しみである。 さらに、このチームの基礎的研究は他チームを刺激し、幾つものチームとの多様な共同研究を生み出しているばかりでなく、他のチーム間でも共同研究が展開されている事を付記しておきたい。 |