研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
メソ対流系の構造と発生・発達のメカニズムの解明
2.研究代表者
研究代表者 吉崎 正憲 気象研究所 室長
3.研究概要
 日本列島にしばしば災害をもたらす顕著な降水現象として、梅雨前線に伴う豪雨、冬の日本海上の帯状雲や小低気圧に伴う豪雪、夏の雷雨、台風などがある。これらはすべて多重階層構造をしていて、その中でメソ対流系は重要な役割を果たしている。メソ対流系とは水平スケール100kmのオーダーで対流性領域と層状性領域を持つ降水系で、自己増殖や組織化によって長時間持続して線状や塊状など様々な形態をとる。
 従来のルーチン観測では手法も時間・空間スケールも粗すぎて、メソ対流系の実態や組織化のメカニズムをよく把握できなかったが、近年メソ擾乱を観測するのに適した観測機器が利用できるようになった。一方、個々の降水雲まで表現できる非静力学数値モデルが開発され、それを大きな領域で計算できるコンピューター環境も充実してきた。
 本研究では、従来の観測機器に加えて、新たな観測測器や手法を取り込んだ野外観測と数値実験からなる総合的な研究によって、メソ対流系とその周りの環境場の構造及びメソ対流系の発生・発達のメカニズムを解明する。
 その研究成果はメソスケール擾乱の監視・予測システムの構築に寄与すると共に、地球規模大気循環モデルにおけるメソ対流系のパラメーター化の改良に反映される。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究はメソ対流系の実態とその機構を把握するための(1)特別野外観測と(2)数値モデルによる再現実験から成っている。
 (1)については1999年と2001年のそれぞれ6〜7月に東シナ海・九州で梅雨前線に伴う降水系、2001年1月に日本海側の降水系等を最新の観測機器を用いて稠密な特別観測を実施した。2002年6〜7月、2003年1月にも特別観測が実施される見込みである。
 (2)については、気象研究所で開発が進められていたメソ対流系の数値モデルはスーパーコンピューターの機種変更で大型数値実験が容易にできるようになり、そのモデルの改良は急速に進展し、世界的にもトップレベルに達した。メソ対流系のモデルによる計算結果と観測との対比が可能となっている。
 最新の計測機器と国内の関係研究者を適切に配置した観測・研究体制が組織されている。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 梅雨期の東シナ海・九州における梅雨前線に伴う降水系を対象とする特別観測によって、メソ対流系とその内部構造が解析された。一方、数値モデルの改良によってそれらメソ対流系の機構解明の可能性が高まった。
 冬期日本海上で見られた対流降水系も多様な形態を持つことが示され、これらの内部構造や発生・発達のメカニズムの一部が観測と数値モデルによる再現実験によって明らかにされた。
 今後、観測事例を増すことによって、線状の降水バンドのみならず、種々の異なる形状をもたらす要因の解明とモデル化が行われるであろう。
4−3.総合的評価
 梅雨期九州周辺域や冬期日本海域で、種々の擾乱に伴うメソ対流系について集中強化観測とモデルによる再現実験が行われた。その結果、メソ対流系を構成する個々の対流セルの発生と移動、メソ対流系の発現・維持にかかわる環境大気などメソ対流系を特徴づける階層構造が観測と数値モデル実験の両面から明らかにされた。また、梅雨前線の南側に見られる水蒸気前線(仮称)の提案、冬期日本海上に出現する収束帯(JPCZ)の構造を明らかにするなどの成果を得ている。
 今後2年間に更に力を注ぐべき研究課題は
(1)各種観測資料を十分に活用したデータ同化を行ない、メカニズムの解明に迫る解析。
(2)特別観測のインパクトを明らかにする。
(3)対流のパラメタリゼーション
などであり、最後に特別観測により得られた資料を、研究チーム外の者の利用が可能なデータセットとして完成することである。
 本研究は日本における気象災害の主要な原因となっている集中豪雨・豪雪をもたらすメソ対流系の研究を飛躍的に向上させるものであり、その成果は気象庁が推進しようとしている短時間予報・短期予報業務の改善にも貢献するであろう。
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