研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
複合体形成に基づく膜タンパク質の機能制御
2.研究代表者
研究代表者 橘 和夫 東京大学大学院 理学系研究科 教授
3.研究概要
 膜タンパク質の活性化状態に強い親和性を示す天然毒分子などとの複合体構造情報の解析に基づき、膜タンパク質の活性化に関する構造的根拠を解明することを目的とし、(1)天然物の単離と有機合成による膜タンパク質親和性分子の調達、および(2)脂質二重膜内での複合体に関する構造情報取得のための方法論の開発の双方を主要な方法論として研究を行った。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究では、膜タンパク質に強い親和性を有する分子として電位依存性ナトリウムチャネル(以下VSSC)を活性化するポリ環状エーテル天然物シガトキシンを主たる研究対象低分子としている。まず、化学構造変化による本膜タンパク質の親和性と活性化能への影響を得るべく、一連の微量成分の単離構造決定を行なった。この結果、シガテラ中毒の多発する仏領ポリネシア産のウツボ内臓および生産生物である渦鞭毛藻Gambierdiscus toxicus中のシガトキシン新規同族体16成分を単離しその構造を解明した。化学構造の差異は分子の両末端での酸化度の違いとスピロケタール環の解裂によるものであることを実証した。これに加え、食中毒の原因貝類よりVSSCに親和性を有するブレベトキシン同族体3種、赤潮鞭毛藻Gymnodinium mikimotoiから新規ポリ環状エーテル細胞毒ギムノシン-Aを単離・構造決定を行った。
 VSSCとの複合体形成における詳細な解析に用いるべく、シガトキシン同族体で最も毒性の強い51-hydoroxyCTX3Cの全合成を進めた。この過程で確立することができたラクトン由来のエノールトリフラートあるいはリン酸エステルとアルキルボランとの鈴木クロスカップリング反応を基盤とするエーテル環連結法を用いて、ABCD環部とGHIJKLM環部の立体選択的合成を達成した。また、ラクトン由来エノールリン酸エステルのPd(0)触媒によるカルボニル化反応を用いた中員環エーテルの新規合成法によりF環部の構築法を開発し、これと上記カップリング反応を組み合わせることでFGHIJKLM環部の収束的合成を達成した。以上により全合成に必要なフラグメントが調達できた。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 グループとしてオリジナル論文数30件、口頭発表60件(国内43,国外17)、特許出願6件(国内5,国外1)を数え、全体としては順調に推移しているといえるが、シガトキシンの全合成に関しては困難を極めている。橘教授は期間内での達成は十分可能と考えているようであるが、本研究では全合成が完了して終わりというのではないので、前途は必ずしも容易ではない。
 本研究では、新規に数種の毒成分を単離している。これらはいずれも10μg以下と微量であり、マウス毒性の確認に加え、トリチウム標識ブレベトキシンとシナプトソームを用いた結合試験は行なっているが、膜タンパク質間での特異性に関する情報はまだ得ていない。
4−3.総合的評価
 本研究の主要目的が、全合成で供給されるべきシガトキシンを用いて、ポリエーテル認識部位ペプチドモデル(現在膜貫通部位を想定している)をデザイン、合成し、固体NMRを使用して構造を明らかにするというものであった。シガトキシンの全合成が本プロジェクトの緊急課題であった。しかし、シガトキシンの全合成に関しては平間正博教授(東北大・ CREST)に先行されてしまった。これは本プロジェクト発足時に強く要望された、「合成グループの拡充」が不十分で、研究チームの編成に問題のあったことを示している。実際、平間研では橘研で先行した成果が数多く利用されていることからも明らかである。
 以上は残念なことであった。しかし、本プロジェクトはシガトキシンの全合成そのものが目的ではなく、あくまでも膜タンパク質の活性化状態に強い親和性を示す天然毒分子などとの複合体構造の解明にあるのであるから、残りの期間をこの目的遂行に全力を傾注してほしい。
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