研究課題別中間評価結果

1.研究課題名
自律行動単位の力学的結合による脳型情報処理機械の開発
2.研究代表者
研究代表者 中村 仁彦 東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授
3.研究概要
 人の脳の情報処理の原理を解明することは、知の探求としての脳研究の究極の目的であるのみならず、複雑な知能機械であるヒューマノイドロボットの「脳」を創るという現代的技術課題に大きな示唆を与える。この研究は、自律的行動単位が力学的に結合し、その結果として生ずる並列で頑健な情報制御システムが脳型の知能機械に内在するという認識のもとに、知能機械としてのロボットを開発することにより、同時に知能機械としての脳の本質に迫ろうというものである。このために、人の力学系の測定と制御、これを記述し制御する実時間アルゴリズムとそのソフトウェア、情報処理系をなす非線形力学系の設計、さらに力学的情報処理を基礎とする知能の理論の構築を目指すものである。
4.中間評価結果
4−1.研究の進捗状況と今後の見込み
 本研究は、以下の4課題に分けてそれぞれを開発すると共に、最後に全体を統合したシステムを開発するべく進んできた。各課題について述べる。1)ヒューマノイドの動作プリミティブの開発においては、人間の歩行動作や運動動作を測定する実時間システムを構築し、運動の時空間パターン、力にかかわる情報、環境の視覚情報などを同時測定するとともに、ヒューマノイドの運動パターンの生成や制御方法を開発し、ロボットに実装している。2)実時間アルゴリズムとそのソフトウェアの開発では、人間を剛体リンク系として扱い、運動学や順・逆動力学を効率よく計算するアルゴリズムを開発している。3)状態遷移ネットワークによる情報処理系とそのための非線形力学系の設計では、歩行のような多自由度の運動パターンを低次元化して記憶再生するネットワークを設計し、非線形の軌道引き込み型力学系を用いてこれを実現した。4)知能の理論の構築については、共同研究者による人の発達過程の観測をロボットに適用すると共に、認知と運動制御の統合であるミラーニューロンに着目した模倣による知の実現を考えている。
 しかし、これらの課題を統合したシステムの開発はこれからである。
4−2.研究成果の現状と今後の見込み
 運動動作の実時間並列同時測定法の開発や、運動パターンの生成法に関しては、ここで開発した方法はこれ以外にも脳波・筋電計測など多数の他の機器と結合できるもので、優れた成果を挙げているといえる。また、実時間アルゴリズムとそのためのソフトウェアに関しては、計算量を厳密に評価し、拘束条件を満たす動作の生成にかかわる優れたソフトウェアの開発を手がけている。これは、アニメーション技術などにも応用可能である。情報処理力学系の設計については、実時間の計算を可能ならしめる低次元化と非線形引き込み型の力学系の構成に努力しているが、その有効性と汎用性を極めるのはこれからの課題である。更に、力学的知能理論の構築については緒についたばかりであり、これからの課題である。今後、これらの課題を深めると共に、それを統合する知能力学システムとして実現するために更なる努力が必要である。
4−3.総合的評価
 本研究は脳研究とロボット研究とを、自律力学系の結合という視点に立って結びつけるという、ユニークな発想に立って開始されたものである。そのための研究として、ヒューマノイド動作の測定、生成、制御については、着実に成果を挙げ、優れたシステムを開発した。さらに、多自由度系の力学の運動学や順逆動力学の効率的な計算のアルゴリズム、そのソフトウェアの開発、ロボットへの実装による検証などでも着実に成果を上げている。しかし、より進んだ課題である多自由度力学系の低次元化、運動パターンの記憶および再生、およびその軌道生成における引き込み型非線形力学系の構成に関しては、興味あるアイデアを試みてはいるものの、これからなすべきことが多い。さらに、知能の理論については構想が固まっているとは言い難く、まだ見るべき成果は少ない。
 今後は知能にかかわる研究に全力を注ぐと共に、これらの課題を統合し、ロボットシステムに実装して脳型情報処理機械の原型を開発する必要がある。これらを解決するにはまだ努力が必要であるが、その成果に期待したい。また、努力を集中する上で、研究協力者の数を限る方が良いという意見もある。
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